暦通り、大いに寒き一日。
やはり、北風が曲者である。
かういふ情け容赦ない寒さの日は、シャツのボタンを一番上までしっかり留めて、体の熱を逃がさないやうにして過ごす。
これは“人災疫病禍一年”に、言ふことは常に一理あるが人柄的に二度は會ひたくない人から教はった知恵である。
外出の際にシャツのボタンを一番上まで留めるたび、思ひ出しはするがまた會ひたいなどとは思はない人である。
だが、さまざまな場面に出逢ひ、さまざま人とすれ違っていくこの浮世見聞の永い旅のなかで、間違ひなく顔と名前をはっきりと記憶する部類の人である。
けっきょく人は常に誰かの影響をうけ、
好き嫌ひに拘はらず心になんらかの糧を得てゐるのである。