神奈川縣座間市の「さがみ野さくら祭り」の舞台にて、現代手猿樂「すゑひろかり」をつとめる。
手猿樂じたいは昨年九月に神奈川縣が企画したオンライン文化祭「バーチャル開放区」に参加するための動画撮影で、同じく「すゑひろかり」をつとめてゐるが、舞臺に立つのは山形縣米澤市の「上杉雪灯篭まつり」以来、實に二年二ヶ月ぶり。
昨年までならば、人が集まる催し會場の舞臺に立つなど絶對に考へられなかったが、人災疫病禍も三年目となり、その間の浮世見聞でどのやうな形でならば活動が可能かだんだんと見え、なればそれに即して實行してみやうと、今回の参加を決心す。
そこには會場最寄りのさがみ野驛まで相模鐵道(そうてつ)線に久しぶりに乗ると云ふ、まう一つの樂しみもあったわけだが、
二年二ヶ月ぶりに舞臺へ立つと云ふことは、意外にも昂揚感より緊張と不安が先に立ち、前日は一日中心身が落ち着かず、今朝には「やっぱり辞退しやうか……」などと憶病風に吹かれる一瞬すらあり。
これが二年二ヶ月といふ時間の現實的空白なのか……、と恐ろしく思へど、早めに會場に着いてしばし座ってゐるうちに覺悟(ハラ)が決まり、いざ装束を付けて舞臺に上がり、無事を師匠へ念じた途端にそれらは全て昔の時間となる。
今回を本格的な活動再開のきっかけとするには、まだまだ時世に厳しいものがある。
しかし、人災疫病禍を理由にした自粛一辺倒では、やがてそれを言ひ訳に何もやらない、そして何も出来ないヒトになってしまふだらう。
春は待てばまた巡ってくるだらうが、
機會は待つだけでは巡って来ない。
さて、次は何を舞ひますかな。