幕末から明治にかけて活躍した浮世繪師•歌川芳員(うたがわ よしかず 生没年不詳)が嘉永六年(1853年)に發表した異色な
「東海道五十三次内」を、神奈川縣藤澤市にある藤澤浮世絵館の企画展「江戸時代のご当地キャラ? おもしろ東海道の名優たち」にて樂しむ。

従来の東海道五十三次の構図を踏襲しつつ、そこに戯画化された人や動物、または名所旧跡が、稚氣に富んだ遊び心いっぱいに描き込まれてゐて、旧東海道探訪で目にした風景を思ひ出しながら、「ああ、あそこか……」と樂しみながらまう一度旅をする。
特に「江尻」、「藤枝」、「掛川」では盲人がおかしみの題材となってゐて、

(「江尻」より。フラッシュを焚かなければ撮影可)
私は害意なく普通に樂しめたが、いまどきの正義漢どものうちにはさぞかし血相を変へるのがゐて面白いことだらう。
この企画展では、明治以降に發行された江ノ島の古繪葉書も併せて展示されており、江ノ島と富士山を共に捉へた構図は浮世繪以来の定番だが、

實際には富士山は海岸と重なって見えないため、ウソをつひて江ノ島と海岸の真ん中へ移して描いたものだと云ふ。
その“傳統”は當時の繪葉書にも受け継がれたとのことで、

つまりこれも、實景かだうかはアヤシイと云ふことになる……。
とんだ新知識の収穫を樂しんだあと、ロビーの窓から雲にやや邪魔された本物の富士山を拝んで、

今日は来て良かったと満足する。