十九時に近くなると空も暗くなりはじめ、今年の夏も暮れに入らうとしてゐる。
JR東日本は毎年夏の期間中、東北旅行の氣分を盛り上げる。
あざやかなる青空──
あざやかなる深緑──
あざやかなる日差し──
たしかに、列車に飛び乗り出かけたくなる。
が、現實はそれを嘲笑ふ。
黒川能を観に行く玄関口である鶴岡驛の名を目にすると、またもや旅情を刺激される。
が、現實はそれを嘲笑ふ。
鶴岡驛の傍に屋根付きの廣場があり、そこで地元アマチュアバンドを集めたライヴが開催されてゐた。
私が通りかかった時、ステージでは若い女性ヴォーカルが熱唱してゐて、いかにもアマチュアらしく大して上手くはなかったが、出番を終へた後の彼女は、やりきったと云ふ達成感に頬が上気して紅に染まってゐた──
あの女性を見た夏は、まう二年前になるのかと、時間の流れの早さにはつくづく呆れる。
旅とは、まう二度と逢ふこともないであらう人と逢ふことを云ふのだらう。
だから、思ひ出も深いのだ。
港區高輪の再開發工事中に昨年發見された日本初の鐵道線路跡「高輪築堤」が、旧新橋停車場の追加と云ふ形をとった上で一部分のみを史跡に指定して、保存云々。
學者たちは全面保存を要望してゐたが、けっきょく却下された形となった。
もちろん私も全面保存を望んではゐたが、もともと營利目的による再開發工事中にたまたま發見されたものゆゑ、それは難しいだらうと思ってゐたが、やはりまうちょっと妥協點はなかったのかなと、不満の残る決定ではある。
土をほじくり返されさへしなければ、そのままの良好な状態で眠ってゐられたものを……。