陶芸工房 朝

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穴窯で志野茶碗を焼く

2017年11月01日 | 陶芸

美濃の上質の志野土を使い、上質の長石で釉を作り、穴窯で焼成した茶碗です。

 

志野釉がじわっと溶けて鬼板の上を流れ、優しい景色を作り上げています。

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  焼き物の中でも「志野は難しいもの」とされています。何が大変かと言って、焼成にとても手間暇ががかかるのです。長時間をかけてじわじわと1280度まで温度を上げ、焼成が終わると、今度はさらに長時間をかけてじわじわと温度を下げる「徐冷」が必要です。四~五昼夜かけて薪を炊き、炊き終わったら、自然に温度が下がるまで十日ほどじっと待つ。この焼成には、古来からの穴窯が最も適しています。昔からの伝統的な窯炊きの技法です。

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私の窯ではこの志野の焼成は難しいのです。が、「穴窯を炊くよ」という知人からのお誘いに便乗して、今回、教室のみんなで、志野茶碗に挑戦しました。

 

  穴窯は、静岡市の奥地、藁科川の上流の山の中にあります。くねくねと曲がった山道を、車で上まで登り、峠付近からさらに細い私道を下ったところに、Sさんの窯場があります。

 

今日は、その穴窯の「窯あけ」でした。  

                                     

 穴 窯の中です。中央に今回焼成して頂いた茶碗も見えます。

窯主のご好意で、作品を取り出しているところです。

  

 

  ゆっくりと時間を掛けて炊きあがったほっこりした志野茶碗。志野というより、鬼板(おにいた)から流れ出た鉄分が志野釉と溶け合って、絶妙な色合いを作り出しています。こういう自然な色合いは、作ろうとしても、なかなか作れるものではありません。

 現代では、陶芸窯も進化して、電気でも灯油でも 自在に温度調整ができ、還元もかけられます。釉薬も多種多様なものが出回って、何でもありの時代です。でも、土と炎の創りだす自然の力には、なかなかかないません。

 

 

  ひと時代昔、窯を焚く煙突の煙があちこちで見られたものです。が、今では、焚き火をしただけでも消防署に通報がくるといいます。「薪で窯を焚く」という行為そのものが、「特別なこと」「贅沢なこと」になりました。穴窯は陶芸家のあこがれですが、窯を焚くためには、人里離れた山の奥に入らなけらばなりません。しかも、一年に一度か二度焚くのが精いっぱい、といいます。

「薪窯を焚く」なんてことは、誰にでもできることではありません。でも、土をこね、薪を焚き、火と対峙する、この原始的で本質的なものづくりこそが、遠く縄文の人々から続く「人が生きる」ということの原点のように思えるのです。