◇人生タクシー(2015年 イラン 82分)
原題 تاکسی
監督・脚本・主演 ジャファル・パナヒ
◇ドキュメンタリー風映画
最初はドキュメンタリかとおもった。
でも、乗客が乗り込んできたときに「なんだ、ドラマか」とおもったものの、それでも心のどこかではドキュメントタッチに見せてるドキュメンタリなんじゃないのかとおもったりした。まあ、脚本がよく練られてるもののややあざとく、全編が祖国イランの映画制作に対する仕打ちへの徹底した抗議になってるのが嫌というほどよくわかってくるし、ジャファル・パナヒの置かれている閉塞感たっぷりの現状もまた見えてくる。
乗客のひとりはレンタルビデオ屋の店員で、ジャファル・パナヒのところへイラン内の監督やウディ・アレンの作品を届けたことになってる。まったく自由に撮ることのできる監督の撮った映画を観ることのできる幸せの訴えだろう。姪だというとっても可愛くてこまっしゃくれた女の子は映画が撮りたくて仕方がない。で、コンデジでジャファル・パナヒを「大好きなおじさん」といって撮り続けるんだけど、学校の先生が聞かせたというイランにおける映画制作の細かい条件をあざとすぎるくらいにあざとく読み上げたりする。まあ、このあたりはちょいと脚本すぎるくらいに脚本なんだけど、この子の撮った下手糞な画面もまた映画で使われてるのは良だ。
さらに、ジャファル・パナヒの弁護をしたとおぼしき美人の弁護士が薔薇の花束を抱えて偶然に乗り込んできて「われらがジャファル・パナヒ」とかいって、いかにイランの映画制作が難しい状況にあるのかを説明し、また、バラを1本タクシー内に残していくことで、世界の映画を愛する人に自分を応援してくれていることへの感謝もつけくわえたりもする。いやあ、いいたいことがぐいぐいと出てくる。
ラストは、車上荒らしに遭ったことで画面が真っ暗になるんだけれども、この車上荒らしはイランの映画制作に対する方針そのものだってことは、もう荒らしが始まる前からわかっちゃう。ああ、車内に落ちていた財布を届けに行くとかいって姪も連れて車を後にしちゃうとなんか起きるんだろうな~とおもってるとこの暗転の結末になるんだ。
こうして観てくると、ほんとに単純な構成で、なにもかもが予定調和ではあるんだけれども、このジャファル・パナヒがどれだけ弾圧されて苦しい中に放り込まれているのか、身動きが取れずにもがいているのかがよくわかる。でも、かれは終始笑顔なんだよね。偉いな。