◇月光の夏(1993年 日本 111分)
監督 神山征二郎
出演 若村麻由美、仲代達矢、山本圭、渡辺美佐子、田村高廣、滝田裕介、高橋長英、内藤武敏
◇振武寮のこと
映画っていうのは、もちろん、虚構の世界だ。
物語を作って役者に演じさせ、それを撮影して仕上げるんだから明らかに嘘の産物だ。いうまでもなくこの作品もそういう物語のひとつに過ぎない。だから、この映画が真実とは異なっているとか、この映画に登場する特攻隊員はいなかったといわれても、ああ、そうだろうな~としかおもいようがない。
だって、映画なんだもん。
ただまあ、よくできているのは事実だ。よくできているからこそ、こういうことがあったんだね~とかいう人がたくさん出てきて、舞台やらコンサートやらいろいろと広がりを見せた。それはそれでいい。戦争という悲劇を語る上で、いろいろな物語があっていいし、事実をもとにしたものという括りでいえば、事実を真正面からとらえようとしているのか、それとも真実のかけらというか本質のすみっこだけでも扱おうとしているのか、まあそれこそいろいろあるわけだから、あとは観客がおのおの判断すればいい。
でも、いろんな物語はあっていいけど、あとあと混乱が起きないようにするには、原作の冒頭あるいはあとがき、もちろん映画の最初にも、誰にでもわかるように「これは、歴史に題材をとった架空の物語です」という一文もしっかりと明記するべきだったのかもしれないね。
で、中身なんだけど、まあ、とある学校に現れたふたりの特攻隊員が最後にピアノを弾きたいから弾かせて下さいなと頼んで弾かせてもらうんだけど、ひとりは出撃したものの帰還して振武寮に収容されていたことから振武寮の存在が明らかになってくるっていうような、簡単にいってしまえばそんな物語だ。
ぼくみたいな斜に構えた野郎は、ふ~ん、そういうことがあったのね~とかおもえないんだけど、役者たちの顔を見るごとに「お~」と声を出していた。とくに仲代達矢と山本圭が顔を合わせたりしていると、いやもう『謀殺下山事件』をおもいだしちゃったりして、テレビで『五芒星殺人物語』を観ていても、山本圭が登場するだけで嬉しくなっちゃったりする。映画が衰退していく時期に映画を支えようとしてきた人達の演技が観られるのは、なんだか嬉しいんだよね。