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☆=☆☆☆☆☆
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IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

2017年11月15日 00時57分15秒 | 洋画2017年

 ◎IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017年 アメリカ 135分)

 原題 IT(IT:chapter one)

 監督 アンディ・ムスキエティ

 出演 ジェイデン・リーバハー、ジェレミー・レイ・テイラー、フィン・ウルフハード、ワイアット・オレフ

 

 ◎LOSERからLOVERへ

 いじめっ子の女に書かれたギブスの文字はLOSERつまり「いじめられっ子」だ。でもかれらはやがてLOVERつまり「愛し愛される者」へと成長を遂げる。けれど、かれらはかれらのちからで「いらない子」でも「いなくなる子」でもなくなる。それが人生でいちばん大切な戦いなのだということをこの映画はいおうとしている。いいね。好きだな、こういう映画。

 でも、そうか、前のテレビ映画『スティーブン・キングの イット』を観たのは1990年だったんだね。あれから27年。デリーで子供たちが犠牲になって27年経つとふたたび恐怖を食い物にしている「IT」が目覚めて、また子供を襲う年回りが27年。そうか、そうなのか。もしかしたら、まじに27年、映画にするときを待ってたってことか。すごいな。すごい執念だ。

 けど、ふしぎなもので、ぼくは何度も引っ越してるけど、そのあるとき、大量に揃えていたスティーブン・キングの本をすべて処分した。もう読まないだろうなっておもったからだし、もう荷物は増やしたくないっておもったからだけれど、でも「IT」だけはどうしても処分できなくて分厚い上下巻ともいまだに本棚に入ってる。まあそれもあって、今回観たんだけどね。だから、ある意味「IT」は忘れがたい物語でもあるんだな。

 ところで、撮影は『お嬢さん』のカメラマンのチョン・ジョンフンらしいがなかなか好いし、音楽のベンジャミン・ウォールフィッシュは『ドリーム』『ブレードランナー2049』とたてつづけに凄い。そういうことからいえば、この映画はもはや古典になりそうな気配すらある原作をみずみずしい若手が撮り上げたってことになる。うん、悪くないな。

 それにしても、ビル・スカルスガルドのピエロ=ペニーワイズも好かったが、ソフィア・リリスがなんとまあシルビア・クリステルに似てることか。ていうか、なんとなくアメリカって気がしないんだよね。なんだか別な国って印象があるんだけど、なんでなんだろう?

 あ、ところで、ギプスのジャック・ディラン・グレイザーがいつも口にくわえてプシュッとやるのはメジヘラーだ。ぼくは小児喘息だったからあれが必需品だった。どこに行くにも持っていってた。メジヘラーはお守りみたいなもので、小学校の1年生から大学を卒業するまで、僕には欠かせない携帯品だった。ジャック・ディラン・グレイザーは井戸館へ乗り込んで決戦におよばんとするときメジヘラーを放り捨てて、決然たる別れをする。ガキからの卒業なんだよね。僕にはこれがなかった。だから、あかんかったんだろうね。

 で、二度、見てしまった。二度目の方がいろんな部分を落ち着いて鑑賞できる。音楽はやっぱりけっこう好みだったんだな~って再認識できた。ほんと、初回だけってのはなかなか音楽まで気にしていられないもんね。

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はじまりのみち

2017年11月14日 19時11分12秒 | 邦画2013年

 ◇はじまりのみち(2013年 日本 96分)

 監督・脚本 原恵一

 出演 加瀬亮、田中裕子、宮崎あおい、濱田岳、光石研、大杉漣、松岡茉優、斉木しげる、濱田マリ

 

 ◇1945年の木下恵介

 当時、木下恵介は『陸軍』を撮ったばかりだ。さきにこの田中絹代の主演作について書いておけば、いやもう凄い映画だった。なにが凄いって最後の10分。陸軍の出征していく兵士の中に自分の息子を見つけようとして必死においすがっていく母親を延々と追いかけていくカメラが圧倒的で、その臨場感たるや滅多にお目にかかれない。

 で、この『はじまりのみち』はその撮影の後日譚みたいなものとおもえばいい。木下恵介の実家は浜松なんだけど、そこから母親をリヤカーに乗せて山奥の疎開先まで送っていくっていうただそれだけの場面設定なんだけど、まあ、映画を撮ることができなくなってしまった木下恵介の復活への志がわきあがってくるかどうかって物語だ。もちろんそこにあるのは戦争はもう嫌なんだよねって主張なんだけど、そんなことは誰でもおんなじだからなにも声を大にする必要もないし、映画でも漂わせるようにあつかってるように見えた。とはいえ、避けて通れないんだけどね、こういう話だと。

 まあ、木下恵介フアンとしてはちゃんと観ました。

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カフェ・ソサエティ

2017年11月13日 00時01分55秒 | 洋画2016年

 ◇カフェ・ソサエティ(2016年 アメリカ 96分)

 原題 Café Society

 監督・脚本・ナレーター ウディ・アレン

 出演 ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ブレイク・ライヴリー、スティーヴ・カレル

 

 ◇1930年代、ハリウッド&ニューヨーク

 とどのつまり、ぼくはニューヨークでしか生きていけなかったのさ、とかいうウディ・アレンの溜め息のような開き直りが聴こえてきそうな映画だった。

 まあ、予告編とはまるきり違ってて、ふたりのヴェロニカが臍になった話かとおもっていたらまるでそんなことはなかった。もっと元彼女のヴォニーと現妻のヴェロニカの間を行き来するんじゃなかっておもってたんだけどね。ところがそうじゃなくって、ジェシー・アイゼンバーグが叔父のスティーヴ・カレルを頼ってハリウッドに来たとき、カレルの不倫相手の秘書クリステン・スチュワートとほんわかな仲になるものの、結局、カレルの知るところとなり、さらにアイゼンバーグも知っちゃって、で、クリステンに「どっちを選ぶんだ?」と訊き、叔父に負けてハリウッドを去るって話が3分の2で、ブレイク・ライヴリーと知り合うのはその後で結局「ヴォニーって前の彼女なの?」っていうくらいの使われ方だから、なにもふたりのヴェロニカである必要はあんまりない。

 それと、兄貴コリー・ストールののし上がっていくところがやけにカットバックされるなとおもってれば、なんのことはないアイゼンバーグがニューヨークに戻ってからカフェの経営者になるための伏線だっただけのことで、その始末のつけ方にいたってはこれまで殺しつづけてきたことの発覚による死刑で、さらにいえば死刑の直前にユダヤ教からキリスト教に宗旨替えする理由が「ユダヤ教には来世がないから」とかいうウディ・アレンお得意の自虐的なギャグになってるくらいしか面白味がなかったのはちょっと残念だ。

 もっというと、ふたりのヴェロニカの間にはなんの波風も立たず、むかしの彼女とちょっぴり期待させるような再会ながら、結局のところ復縁するまでにはいたらず、別々な道を歩まざるをえないと知ったとき、やっぱり人生はほろ苦い喜劇でしかないんだよな、とかってやけに物分かりのいいラストにしちゃうのもなんだか残念だったな。

 そうそう、たいせつなことだけれども、ウディ・アレンはこの作品で初めてデジタル・カメラ(ソニー製のCineAltaF65)で撮影したそうで、やけに画面が絶妙だったんだけど、なんでかとおもってたらヴィットリオ・ストラーロの撮影じゃんか。やっぱりな~。

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ゴーストバスターズ

2017年11月12日 22時37分24秒 | 洋画1981~1990年

 ◇ゴーストバスターズ(1984年 アメリカ 105分)

 原題 Ghostbusters

 監督 アイヴァン・ライトマン

 出演 ビル・マーレイ、シガニー・ウィーバー、リック・モラニス、アニー・ポッツ、スラビトザ・ジャバン

 

 ◇マシュマロマン

 結局のところ、この作品の最大の功労者はダン・エイクロイドとハロルド・ライミスのふたりなんだろうね。ふたりの脚本の秀逸さがなにより勝ってる感じがするわ。スラビトザ・ジャバンも忘れがたいけど。でもまあ、このあたりのヒット作についてはなにもあらすじをメモっておく必要もないし、実をいえば観直すこともあんまり必要ないかもしれない。ほんと、若い頃に観たものはなんでか知らないけどすみからすみまでよく憶えてるもんだわ。

 で、どうでもいいことながら、ぼくの記憶ではマシュマロマンが現れるのはクリスマス商戦の真っ最中だったような気がする。っていうか、ずっとそうおもってた。ところがそうじゃなかった。この映画がアメリカで封切られたのは1984年の6月で、日本での公開は半年遅れの12月だった。この映画は今でもよく憶えてるけど、有楽町のマリオンの日本劇場で観た。で、数寄屋橋に出たとき、町はクリスマス一色だった。たぶん、ぼくはそのとき銀座のビル街の向こう側にマシュマロマンのまぼろしを観たんだろうね。

 ところが、厚物のコートは羽織っているものの、季節感はほとんど感じられないっていうか排除されたような映画の中で、そのマシュマロマンや破壊神ゴーザことスラビトザ・ジャバンが登場する前、門の神ズールと鍵の神ビンツとかいう狛犬みたいなものを見上げる群衆の中に、たったひとり、サンタクロースの赤い帽子をかぶった女の人が映るんだよね。ていうことは、クリスマスに近い季節っていう暗黙の設定があったのかもしれないな。もしかしたら、だけど。

 さらに気になって調べてみれば『ゴーストバスターズ』とクリスマスの関係は、 宣伝によるものだったってことがわかった。ネットで検索すると、ゴーストバスターズとクリスマスはまるで一対のようにヒットする。けど、1の日本公開が1984年12月2日。2の日本公開が1989年11月25日。2のゲーム発売が1990年12月26日。1&2のブルーレイ発売が2014年12月3日。どれもクリスマス商戦にひっかけて宣伝され、リメイクされた『ゴーストバスターズ2016』のDVD発売が 2016年12月21日。このDVDの「発売記念クリスマス・ フェイスツリー点灯式」が東京・としまえんで開催されたのが2016年12月16日。つまり、映画『ゴーストバスターズ』の中身とクリスマスは、いっさい、 みじんも関係ないのに、なんでか知らないけどクリスマスにつながってる。ということは、ぼくみたいに妙なおもいこみをしている人間(世界でも日本人だけだとおもうけど)は他にも少なからずいるかもしれないってことで、いやあ、宣伝っていうか、ネットって怖いね。

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カサンドラ・クロス

2017年11月11日 23時35分39秒 | 洋画1971~1980年

 ◎カサンドラ・クロス(1976年 西ドイツ、イタリア、イギリス 129分)

 原題 The Cassandra Crossing

 監督 ジョージ・パン・コスマトス

 出演 エヴァ・ガードナー、アリダ・ヴァリ、イングリッド・チューリン、マーティン・シーン

 

 ◎カサンドラ大鉄橋

 この映画は、個人的な思い入れが強くて困る。

 ジュネーブ発パリ・アムステルダム経由ストックホルム行きの大陸横断鉄道なんて聞いただけで、当時のぼくはもう気がそのままヨーロッパに飛んじゃってた。田舎の高校生だった僕は、ちょっとしたことからヨーロッパと縁ができて、この映画の冒頭で銃撃戦が行われるジュネーブの国際保健機構にも行った。で、それから4か月後に日本でこの作品が公開された。もう大宣伝が展開されて、応募した人の中から抽選で20名だったかをヨーロッパの横断鉄道にご招待とかいうチョー太っ腹な催事まであった。応募したさ、もちろん。応募する場合はひとりにつき往復ハガキ一枚を厳守のこと、とかいう条件なんざまるきり眼中にないまま、200枚の葉書を出した。結局、抽選からは洩れた。行きたかったな~。誰が招待されたんだろう?その人、どこかにいないかな?ぜひとも会いたいな。

 てなことだから、もう年末の封切りが待ち切れなくて、ともかく観に行った。おもしろかった。いまさら内容について書きとめる気にもならないけど、でも、当時のぼくはあまりにも舞い上がってた。だから、そのときはリチャード・ハリス、ソフィア・ローレン、バート・ランカスターの3人にしか目がいかなくて、列車をニュルンベルクに誘導して、そこから医療チームを乗車させてポーランドの隔離施設で乗客に精密検査を受けさせるなんて場面が展開していったにもかかわらず、まるでナチスの亡霊について想像もおよばなかったし、乗客の中にいるユダヤ人リー・ストラスバーグの思い出しくない思い出を思い出してしまう場面がいまひとつ胸にこたえなかった。情けない話だ。

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さらば愛しき女よ

2017年11月10日 15時02分29秒 | 洋画1971~1980年

 ◇さらば愛しき女よ(1975年 アメリカ 95分)

 原題 Farewell My Lovely

 監督 ディック・リチャーズ

 出演 ロバート・ミッチャム、シャーロット・ランプリング、ジョン・アイアランド、シルビア・マイルズ

 

 ◇ロサンゼルス、1941年

 なるほど。当時はヤンキースのディマジオが大活躍で、フィリップ・マーロウもその56試合連続安打に耳を傾けていたってわけだ。でもその時代は決して好い時代じゃなくて、ヨーロッパではアドルフ・ヒトラーが欧州一円を席捲し、はるかロシアにまで進攻し始めてた。そのあおりもあってか、砂糖1ポンドが6セントに高騰して、世界は陰鬱な雲に覆われていた。そんな頃、マーロウはとある女を探してくれという、なんとも簡単な安仕事を請け負うことになるんだけど…っていう物語だ。渋いね。

 でもまあ、なによりなのは、ロバート・ミッチャムの眠たそうな眼つきじゃなくて、なんといってもシャーロット・ランプリングの妖艶な登場だよね。もうはなっから「ああ、悪いのはこいつじゃん」としかおもえないような階段の上のシルエットで、ドレスから覗いたその長い脚でおりてくる様を眺めた途端、悪いのは彼女の性格じゃなくて、彼女があまりにも魅惑的に育ってしまったことなんだよね、その薄幸さが輪を駈けたんだよねっていう同情までひきおこされちゃうんだから、実はこの映画はそれだけでいいんだな、たぶん。

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トリプル9 裏切りのコード

2017年11月09日 01時02分13秒 | 洋画2016年

 ◇トリプル9 裏切りのコード(2016年 アメリカ 115分)

 原題 Triple 9

 監督 ジョン・ヒルコート

 出演 ケイシー・アフレック、テレサ・パルマー、ガル・ガドット、アーロン・ポール

 

 ◇緊急コード999

 ケイト・ウィンスレット、貫録やな。

 けど、そのほかについてはいまひとつ印象の薄い作品だったんだけど、ぼくだけの感想なのかしらね。

 警官が撃たれたことを意味する「999」が発せられるや、すぐさますべての警官は職務を中止して現場へ向かなければならない。これを利用して国土安全保障省の施設を襲撃しようとするっていう発想はいい。また、それを行なうことを条件に、子供のためにキウェテル・イジョフォーが足を洗いたいというのを許してやるというのが、ロシア系コーシャー・マフィア(イスラエル人犯罪組織)の女ボス、ケイト・ウィンスレットってわけで、なんだかすごい貫録だ。でもなんとなくいまひとつ入り込めないのは、自分でもよくわからない。

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相棒 劇場版III 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ

2017年11月08日 18時44分49秒 | 邦画2014年

 △相棒 劇場版III 巨大密室! 特命係 絶海の孤島へ(2014年 日本 114分)

 監督 和泉聖治

 出演 水谷豊、成宮寛貴、伊原剛志、釈由美子、風間トオル、及川光博、石坂浩二、鈴木杏樹、六角精児

 

 △地獄の特訓みたいだ

 あいかわらず長い題名だけど、これはもうどうにもならんのかな?

 で、なんだか無国籍な話だけど、このテレビシリーズはそもそも破天荒な感じなのかしら?

 テレビでヒットしているものを映画にしようとすると、なんでか知らないけど設定を大きくして役者を揃えて派手さを競おうみたいな感じになってくる。でも、そうじゃないんだよね。観客はテレビの視聴者で、たぶん小さな事件を緻密に解決できるちからをもちながらなんだか暢気にかまえてて家族的なわきあいあいながらも犬も食わないようなじゃれあいを愉しんでる警察内部の話を観たいんじゃないかしら?だとしたら、どこの国だよみたいなありえない設定のテロリスト養成島っていうか、なんだか企業の新入社員を派遣する地獄の特訓みたいな印象だったけど、こういう設定じゃない方がファンの皆さんとしては緊張しなくて済むんじゃかしら?っておもうのは余計なお世話だよね。

 ところで、ふとおもいだしたんだけど、この『相棒』のシリーズに成宮くんが加わったときだったかな、なんだか興味をひかれる回があった。スペシャル番組で、たしか『相棒スペシャル・アリス』とかいうとっても短い題名だったとおもう。早蕨村とかいう名前の村で、火事で燃えた家族のごひいきだったホテルの物語で、なんだかやけにリリカルな印象だった。あれはけっこうおもしろかった。こっちを映画にすればよかったのにな。

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交渉人 THE MOVIE タイムリミット高度10,000mの頭脳戦

2017年11月07日 18時20分12秒 | 邦画2010年

 △交渉人 THE MOVIE タイムリミット高度10,000mの頭脳戦(2010年 日本 123分)

 監督 松田秀和

 出演 筧利夫、陣内孝則、笹野高史、塚地武雄、高橋克実、反町隆史、柳葉敏郎、橋爪功、林遣都

 

 △米倉涼子のシリーズ

 それにしても題名が長い。2時間ドラマかとおもったが、どうやらテレビ映画ではないらしい。津川雅彦以下の面々がテレビで出てるかどうかは知らないけど、役者はとにかく揃えようってのはもういいんじゃないかって気もするな。なんていうか、テレビシリーズが特別になるとこんなに凄いんだよっていわれてるみたいな。

 要するに米倉涼子をどれだけスーパーウーマンに見せられるかって話なわけで、よくわからない設定の銀行強盗がいきなりショッピングモールに突っ込んでいって、それがハイジャックに変わっていって、なんでか知らないけど巻き込まれた米倉涼子があれよという間に飛行機の操縦桿を握って着陸させるっていう009ノ1も真っ青な「操縦人・活劇」を披露しようとしている話だ。

 ん?それはいいが、交渉はどうなってるんだ?

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セールスマン

2017年11月06日 00時17分41秒 | 洋画2016年

 ☆セールスマン(2016年 イラン、フランス 125分)

 原題 فروشنده

 監督・脚本 アスガル・ファルハーディー

 出演 シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリシュスティ、ババク・カリミ、ミナ・サダティ

 

 ☆舞台が関係あるようなないような

 やがて悲劇に巻き込まれる夫婦がふたりして参加しているのが『セールスマンの死』なんだけど、このアーサー・ミラーの戯曲と二重構造になってるのかとおもえば、どうもそうではないようで、もしもなんらかの関係があるのならぼくごときでは見抜けないほど巧緻な演出なんだろう。でも各地で賞をとってるんだから、なんかあるのかもしれない。だいいちタイトルも『セールスマン』なんだから。

 とはいえ、内容はそれほど複雑なものじゃない。引っ越してきた先の元の住人が娼婦だったがために、奥さんのところへ見知らぬ男(つまり娼婦の客ね)が訪れ、たまさかシャワーを浴びてたものだから欲情のおもむくままにレイプされちゃうんだけど、生徒たちから好かれている教師のだんなが「犯人を見つけてやる」と執拗に探すことになり、家の中に落ちていた鍵から乗り捨ててあったトラックを見つけ、そこからたどって犯人の老人にいきつくものの、そいつを謝らせようとして連れ込んだ自宅で心臓発作をひきおこされてしまうまで責めなじることで、仲の良かった夫婦に溝が生まれてしまうという皮肉はどうにも悲しく辛い。妻がレイプされたときにはふたりの仲に亀裂が生じるわけではないのに、その処置によって人間性がさらけ出されてしまうことで妻が夫の心に妙な絶望感を生じさせてしまうというのは、ほんと切ないな。

 まあそれはさておき、アカデミー賞の授賞式には出られなかったけど、来日はできたタラネ・アリシュスティ、綺麗だな~。ほんと、中央アジアっていうか中近東っていうか、あの地域の美人はまじに美人なんだよね。知的だし、いうことなしなんだけど、今回の物語の場合、こうした美貌が仇になるんじゃなくって、誰であろうと女性でシャワーを浴びてただけという些細な偶然によって引き起こされてるんだよね。そういう社会なのかな~っておもえてしまうのも、イランにとってみれば厳しい現実なのかもしれないね。

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ツレがうつになりまして

2017年11月05日 01時12分48秒 | 邦画2011年

 ◇ツレがうつになりまして(2011年 日本 111分)

 監督 佐々部清

 出演 堺雅人、宮崎あおい、津田寛治、大杉漣、余貴美子、梅沢富美男、吹越満、田山涼成、吉田羊

 

 ◇宇宙風邪ねえ

 冷蔵庫の中がきれいに整頓されてないと発狂しそうになるのは、ぼくだってそうだ。

 ていうか、そんな人間は山ほどいるし、ぼくの本棚を見ると、たいがいの人間は「なにもかもひっくりかえしたくなる」というくらい、きち~っとしている。なにもかもきっちりしていないと嫌になるし、椅子も机も本棚ももちろん、扇風機もストーブもテレビも家具という家具のすべてが自分の決めた場所に収まってないとイライラする。あたりまえのことだが、それは数センチ単位で決まってる。

 それは鬱というのではなくて性格で、もしかしたら鬱になりやすい性質なのかもしれないし、あるいはとっくのとうに鬱っぽくなってるのかもしれないけど、ほんとにそうだったらなにもかも嫌になるときになにか別な行動を起こしているのかもしれないね。

 で、この映画なんだけど、うん、堺雅人は運がいいんだな。宮崎あおいっていう頑張り屋の奥さんがいるんだもん。そうおもっただけで、なんていうか、そう、あんまりめずらしい感じはしなかったし、数奇な物語っていう印象もなかった。ごくふつうの夫婦のようにしかおもえなかったんだよな~。

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先生を流産させる会

2017年11月04日 16時49分28秒 | 邦画2011年

 ▽先生を流産させる会(2011年 日本 62分)

 製作・監督・脚本 内藤瑛亮

 出演 宮田亜紀、大沼百合子

 

 ▽2009年3学期

 監督の内藤瑛亮は、愛知県の某中学校で起こった事件を元にしたこの作品の製作理由について、こう述べているらしい。

「先生を流産させる会は実際にあった事件。この言葉に、いちばんの衝撃を受けたんです。こういう悪意の在り方は自分には想像しえなかった。流産させても殺人罪にはならない。でも、先生を殺す会よりも先生を流産させる会という言葉のほうが、遥かにまがまがしく、おぞましい。それはなぜなんだろう。そう思ったことが企画の始まりでした」

 以上。

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俺はまだ本気出してないだけ

2017年11月03日 20時35分53秒 | 洋画2013年

 ◇俺はまだ本気出してないだけ(2013年 日本 105分)

 監督・脚本 福田雄一

 出演 堤真一、橋本愛、石橋蓮司、生頼勝久、山田孝之、濱田岳、指原莉乃、ムロツヨシ、水野美紀

 

 ◇だったら本気出せばいいじゃん

 なにもまじめに考えることはないんだけど、ぼくみたいにもういい歳になってくると「いやさあ、おれも本気出してないんだけどね~」とかいって頭をかきながら笑ってばかりもいられない。

 まあそんなことはさておき、原作は知らないからなんともいえないんだけど、娘を風俗で働かせたらやっぱりあかんだろ。それを知れば、ふつうの人間だったらちっとは人生考えるぞ。能天気に自己を全肯定してる場合じゃないな~とか。けど、馬力ばかりがすごいこの主人公にはそういう反省とか自戒とか辛抱とか努力とかいったことはないんだな。

 まあ、アルバイトしてるだけ、ましなのかもしれないけどね。

 つまりはそういうことで、アルバイトをするという時点で、実は本気出してるんじゃないかってぼくはおもっちゃうんだよ。おれはまだ本気出してないだけとかっていいわけをする場合、まじに本気出してないだけっておもってるんならアルバイトしなくないか?そんなことをおもったし、本気出してないときバイタリティはそもそもなくなる。

 リアリティをもとめるのはまちがってるかもしれないんだけど、本気出してない人間が観たとき、こいつかなりそれなりに本気じゃんっておもわれたらちょっとね。そんなこと、おもったな。

 

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人生タクシー

2017年11月02日 00時52分26秒 | 洋画2015年

 ◇人生タクシー(2015年 イラン 82分)

 原題 تاکسی

 監督・脚本・主演 ジャファル・パナヒ

 

 ◇ドキュメンタリー風映画

 最初はドキュメンタリかとおもった。

 でも、乗客が乗り込んできたときに「なんだ、ドラマか」とおもったものの、それでも心のどこかではドキュメントタッチに見せてるドキュメンタリなんじゃないのかとおもったりした。まあ、脚本がよく練られてるもののややあざとく、全編が祖国イランの映画制作に対する仕打ちへの徹底した抗議になってるのが嫌というほどよくわかってくるし、ジャファル・パナヒの置かれている閉塞感たっぷりの現状もまた見えてくる。

 乗客のひとりはレンタルビデオ屋の店員で、ジャファル・パナヒのところへイラン内の監督やウディ・アレンの作品を届けたことになってる。まったく自由に撮ることのできる監督の撮った映画を観ることのできる幸せの訴えだろう。姪だというとっても可愛くてこまっしゃくれた女の子は映画が撮りたくて仕方がない。で、コンデジでジャファル・パナヒを「大好きなおじさん」といって撮り続けるんだけど、学校の先生が聞かせたというイランにおける映画制作の細かい条件をあざとすぎるくらいにあざとく読み上げたりする。まあ、このあたりはちょいと脚本すぎるくらいに脚本なんだけど、この子の撮った下手糞な画面もまた映画で使われてるのは良だ。

 さらに、ジャファル・パナヒの弁護をしたとおぼしき美人の弁護士が薔薇の花束を抱えて偶然に乗り込んできて「われらがジャファル・パナヒ」とかいって、いかにイランの映画制作が難しい状況にあるのかを説明し、また、バラを1本タクシー内に残していくことで、世界の映画を愛する人に自分を応援してくれていることへの感謝もつけくわえたりもする。いやあ、いいたいことがぐいぐいと出てくる。

 ラストは、車上荒らしに遭ったことで画面が真っ暗になるんだけれども、この車上荒らしはイランの映画制作に対する方針そのものだってことは、もう荒らしが始まる前からわかっちゃう。ああ、車内に落ちていた財布を届けに行くとかいって姪も連れて車を後にしちゃうとなんか起きるんだろうな~とおもってるとこの暗転の結末になるんだ。

 こうして観てくると、ほんとに単純な構成で、なにもかもが予定調和ではあるんだけれども、このジャファル・パナヒがどれだけ弾圧されて苦しい中に放り込まれているのか、身動きが取れずにもがいているのかがよくわかる。でも、かれは終始笑顔なんだよね。偉いな。

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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

2017年11月01日 00時22分08秒 | 洋画2016年

 ☆アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場(2016年 アメリカ 102分)

 原題 Eye in the Sky

 監督・出演 ギャヴィン・フッド

 出演 ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、モニカ・ドラン、バーカッド・アブディ、フィービー・フォックス

 

 ☆アラン・リックマンの遺作

 MQ-9 リーパー無人偵察攻撃機なんてものが現実に存在するようになってきた現代社会において、こういう本国の司令部からすべてを遠隔操作して戦争するという行為は決して未来のものではなくなってきてるんだな~っていう、そんな感想しか浮かんでこない。

 おそらく、さほど遠くない将来、こうした戦争が起こり、いやもしかしたら現実にすでに起こってるかもしれない。COBRAことCabinet Office Briefing Room A(内閣府ブリーフィングルーム)でテロリスト相手の戦闘の方針が定められ、それにしたがって司令部内で指示が下され、ドローン・オペレーターがミサイルを発射する。すごい時代になったものだ。

 でも、そのミサイルが民間人を巻き添えにする可能性は高く、この物語のようにアイシャ・タコウ演じる無垢なパン売りの少女が犠牲になることも充分に考えられる。正に今ケニア・ナイロビのテロリストの巣窟の塀の外でパンを売っている小さなひとつの命を救うべきか、あるいは後に犠牲になるであろう多数の命を救うために少女が巻き添えになるのを覚悟の上で攻撃を仕掛けるべきか。そのたびごとに、ヘレン・ミレンのようなロンドンで安全を担保された司令部内の指揮官は悩み苦しみ、それが結果的に方針に従って攻撃を指令しなければならない。たまらんね、これは。

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