コタツ評論

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ただちに健全に影響はない

2011-03-31 00:32:00 | 3・11大震災


東電の安全管理に疑問投げかけ 孫請け作業員が証言
http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011033001000035.html

ようやく、「フクシマ50」の実態が、日本のメディアでも明らかにされてきた。どうして、時事通信がこうした東電批判の記事を書けるかといえば、通信社は大手紙やTVとは違って年間300億円といわれる、東電の莫大な広告宣伝費の恩恵に与っていないからだ。NHKも企業の広告宣伝費はとらないが、経営委員会には電力会社幹部が入っている。

先日、3人の作業員が被曝して入院し、その後退院したことが報じられた。取材に応じた、そのうちの一人の作業員の話を箇条書きにすると。

1.作業員は孫請け、現場監督は下請け、東電社員は現場になかった。放射線量を管理する責任者はいなかった

2.「普通なら水に漬かって作業なんかしない」と、言外に、ミスではなかった、止む得なかったといっている

3.日当数十万円はあり得ない、多人数を必要とし、処理に50年間はかかる


現場に戻りたい、この作業員は記者に語ったそうだ。だが、今回の証言は、東電や原子力安全・保安院の「適切な安全管理につとめている」「被曝は作業員が安全管理を怠ったせい」というこれまでの見解を覆すものだ。はたして、この孫請け会社の社員(正社員か派遣労働者か不明だが)が、また福島第1原発に戻れるものなのか。そこが気になる。



「フクシマ50」が海外メディアで話題なっていることを知ったとき、1972年に発覚した「ウォーターゲート事件」を思い出した。当時のニクソン大統領が辞任に追い込まれた、ワシントンD.C.のウォーターゲート・ビルの民主党本部に盗聴器が仕掛けられたスキャンダル事件だ。最近では、同事件を背景にした「フロスト/ニクソン」(2008)という映画が話題になったが、その前に、「セレブの種」(2004)という映画を観ていたからだ。

ハーヴァード大学を卒業し、バイオテクノロジー企業に就職した黒人青年ジャックは、内部告発したために解雇され、資産も凍結されてしまう。生活に困ったジャックは、セレブ女性に精子を提供する種馬商売をはじめるが・・・。そんなシリアス半分コメディ半分の映画だが、不遇をかこつジャックが憤りとともに思い出すのが、ウォーターゲート事件発覚のきっかけをつくった、黒人警備員フランク・ウィルズのことだった。



ウォーターゲートビルを警備中のフランク・ウィルズが共和党の工作員の不正工作に気づき、警察に通報したことから、盗聴事件が発覚したわけだが、そのおかげでスクープをものしたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードたちは「英雄」になった。そして、ニクソン大統領の側近7人は起訴され、うち数人は刑務所に入れられた。しかし、すぐに7人は返り咲いて、いまもエリート街道を歩いている。

「英雄と称えられてもおかしくない黒人警備員フランク・ウィルズは、その後どうなったか。無名のまま忘れ去られ、貧窮のうちに死んだ」とジャックは独り言するのだ。

「フクシマ・トーデン」において、海外メディアで「フクシマ50」は英雄視されているが、日本国内では、どこまでも「作業員」と名前すら明らかにされない。危険な作業にもかかわらず、薄給で使い捨てにされようとしている一方で、「ウォーターゲート事件」のように、エリートたちの責任が、「フクシマ・トーデン」で問われることがあり得るだろうか。

大地震と大津波の天災において、被災した人々は、世界に日本人の健全さを示した。福島第1原発事故において、その責任がうやむやにされたとしたら、大多数の日本人は、世界にその不健全さを示した、そういわれてもしかたないだろう。

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