あるバス停に5分くらい遅れて到着した。待っていた十数名の人たちを乗せて発車… と思ったら、左前方から一人のおばさんが手を振りながら走ってきた。
私は一瞬「えぇ~っ!?」と思ったが、そこで行ってしまっては「鬼だ」「悪魔だ」「変態だ」と言われかねないので、再び前扉を開けて待つことにした。
おばさんは前扉のすぐ外までやって来ると、バスの中を覗き込んで「○○さぁ~ん! これも持って行ってぇ~!」と叫んだのであった… 私は「はぁ~???」と思っただけで言葉も出なかった。
それに対して「はぁ~い」という返事が聞こえると、おばさんは買い物袋の中に手を突っ込んで「これと… これと… ねぇ、○○さぁ~ん!」と、声だけで姿を現さない○○さんに向かって再び叫んだ…
すると、○○さんが姿を現した。それは、なんとバスの外… 左ミラーに映る位置へ現れたのである。屋根付きバス停の柱の陰にでも立っていたのだろうか… 私だけでなく、おばさんからも見えなかったようだ。すぐにおばさんも気が付いて「あぁ… すいません、失礼しました」と私に頭を下げていた。私はただ微笑みながらバスを発車させるしかなかった…