バス運転士のち仕分け作業員のち病院の黒子 by松井昌司

2001年に自分でも予想外だったバス運転士になり、2019年に某物流拠点の仕分け作業員に転職、2023年に病院の黒子に…

KYバアサン

2013年06月01日 20時03分23秒 | バス運転士

某駅ターミナル発… バス乗り場の“ホントに”目の前が交差点になっているので、ここではいつも「発車時刻と青信号のタイミングが合うかどうか」を気にしている。時間をキッチリ計ったわけではないけれど、そこの信号は3段階に分かれていて、だいたい各1分くらい… つまり、青1分に赤2分ということになる。

今回は、発車時刻の1分前に信号が赤になったので、それから2分後… つまり、発車時刻の1分後に信号が青になることが分かった。だから「遅れて来る人がいてもいいように…」と思って、発車時刻になってからゆっくりと車内案内を始めた。

すると、見事に予想的中… 左前方の太い柱の陰から、一人のお爺さんが現れたのである。私が「ユーアーラッキー!」と思っていたら、お爺さんはフリーパスを見せながら「今… 女房が… 来るんで…」と言った。しかし“女房”の姿はどこにも見当たらず… それでも私は、信号をチラ見して「まだ青にもなってないし… 1分以上あるから大丈夫だな」と思った。

数秒後… お爺さんが現れたのと同じ柱の陰から、2人のお婆さんが現れた。が、何やらお喋りしているようで、その歩みは遅かった… そこで私は車外スピーカーに切り替えて「発車しますよぉ~」と呼び掛けたのだが…

2人の動きに変化はなくスローペース… “女房”だけがバスに乗り込み、バッグの中に手を入れてゴソゴソ… 私は「フリーパスかぁ… すぐに出せるのかなぁ~?」と少しだけ不安になっていた。それを感じ取ったのか、見送りのお婆さんが「扉を閉めてもらっていいですよ」と言ったので、私は扉を閉めたのだが…

肝心の“女房”が「ちょっと待ってね…」と相変わらずのマイペースで… するとバッグから千円札が飛び出しそうになり… “女房”は「あら… お金が… やだぁ~」と言いながら笑った… しかし私は「そろそろ笑い事ではなくなるぞぉ~」と思った。

ようやくフリーパスが出てきて、老夫婦は通路を後方へ歩いて行き… と、そこで「バサッ」と“女房”がバッグの中身を落としてしまったようで… すぐに拾っていたけれど、それが“致命傷”となり… 2人の着席確認をしたと同時に、信号は赤に変わってしまった… 私は再びプシュ~と駐車ブレーキを掛け、アイドリングストップをして、前扉を開けた。

それから約2分後… 再び信号が青になり、約4分遅れで発車しようとしたら、一人のお婆さんが駆け込んで来て「※△×○…?」と、何か言ったようだったけれど、その時の私には“聞き直して返事をする”余裕がなく、ただ「この青信号のうちに… さらなる“新手”が来る前に発車しなければ!」という思いだけだった…

そのお婆さんもお婆さんで、最初から私の返答を聞くつもりがなかったかのように、フリーパスを見せながらサァ~ッとノンストップで通路を歩いて行った… だから私も「いつも乗っているから間違いないんだけど、念の為に聞いてみただけなのかな?」と解釈してバスを発車させた。

老夫婦は5つ目か6つ目のバス停で黙って降りて行き… 駆け込みのお婆さんもいつの間にかいなくなり… 何事もなかったかのようにバスは走り続… 否、気が付けば10分くらい遅れていて、背後には他のバスがいて… 私は2台分の人を乗せながら、満員で終点まで走ったのだった…