<金曜は本の紹介>
「鉄道員裏物語(大井良)」の購入はコチラ
「鉄道員裏物語(大井良)」という本は、某大手私鉄の現役駅員が、駅員として過ごした10数年間の経験について赤裸々に書いたものです。
以下のように内容で3つの章に分かれています。
第1章:人身事故や痴漢、不正乗車、コインロッカーの忘れ物など
第2章:放送している独特の声の謎、乗務員はトイレをどうしているのか、駅員の給料、車両や券売機、改札機の値段、駅の隠れ部屋など鉄道に関する疑問
第3章:本社と現場の違い、ストライキの裏側に潜んでいるもの、労働組合と政治の関連、日勤教育とは何なのか、鉄道員の1日など
どれも、興味深い内容で、とても集中して読んでしまいました。
鉄道好きな方や鉄道の実態に興味がある方にはとても参考になると思います。
とてもオススメな本です!!
以下はこの本のポイント等です。
・人身事故は、その発生時点で警察の介入が求められる。事件の可能性や運転手の過失の有無を調べるためだが、そのとき遺体の引渡しが求められる。電車は、遺体の一部が欠けていると車輪に巻きついている可能性があるため走らせることができないのだ。その関係上、事故が発生すると、警察官による現場検証が済むまでは列車を動かすことができないのが原則である。しかし、それでは電車は何時間も止まることになり、利用者に多大な迷惑が掛かる。人命に関わることに時間など関係ない、と言う人もいるだろうが、電車が数時間止まることになれば利用者は不満の色を隠せなくなるのだ。そこで鉄道員の登場である。駅員は、事故発生の連絡を受けると直ちに現場に急行する。そして、目撃者を募り、同時にバラバラになった遺体の破片をかき集め、大体の人型にしてから電車を発車させる。それは警察官が到着するまでの15分から30分の間に行われる。ところで、遺体の破片を集める駅員は、回収の際にゴム手袋と黒いビニール袋を携帯する。黒のビニール袋は細かい破片である内臓や骨を入れるためのものであり、破片が周囲から見えないようにするため、この色のものを使っている。ゴム手袋は遺体によって感染症に冒されないようにするための予防策である。
・コインロッカーは保管して3日が経過すると管理者が中身を取り出し、別途保管しなければならない決まりになっている。散見されるのが大量の雑誌である。よく路上で見かけるホームレスの雑誌販売だが、あの雑誌は駅のゴミ箱から回収した物がほとんどである。そしてその保管先としてコインロッカーが利用されていることが多いのだ。別途保管としてロッカーを開けて大量の雑誌が出てくるとがっかりする。別途保管物は立ち合いのもと詳細にその内容を記さなければならないことから大変な手間になるのである。しかし、これらの置き去り物はかわいいほうだ。大量のドラッグや骨壺など、警察の手を要するものが発見されることもある。
・私が対応した例でも、定期券によるキセル乗車で80万円以上もの不正金を支払うことになった人がいた。発覚までの経緯は驚きである。内部告発と称して、1本の電話が駅に舞い込んできた。話を聞くと、同僚が定期券を使ってキセル乗車をしているという。その同僚の名前、乗車駅、電車の何両目に乗っているなどの情報が提供され、是非捕まえてほしいとの内容だった。電話を受けた駅は鉄道警察に連絡。鉄警は情報を元に被疑者を尾行。ついには証拠をつかみ駅に引き渡されることになった。蓋を開ければ、一都一県をまたいで不正をしていたため、正規の定期券を購入していれば数万円で済んだものが、先の金額に膨れ上がる結果になった。予想以上の額を提示され肩を落とした利用者は、一括での支払いができないため分割払いを希望し、月々のローンを組むことになった。
・痴漢問題が増加する一方で、冤罪問題も深刻化してきている。万が一、痴漢に勘違いされた場合には黙秘を貫くことが一番である。毅然とした態度で、女性と駅員らにこう言おう。「私は無罪です。弁護士を呼んでください。この女性を名誉毀損で訴えます」これで形勢逆転である。
・私の偏見かも知れないが、鉄道には一風変わったお客さんが多い。それを裏付けるように様々なエリアで名物客の話を耳にすることができる。私の地元で言えば、顔を真っ赤に塗りたくった「赤面おばちゃん」や、上半身はきっちりとしたスーツ姿なのに下半身は網タイツ姿の「網タイツおじさん」などが有名である。私が駅に勤めるようになってからも、変なお客さんは1日に必ず1回は見る。
・周囲から聞かれることの多い、乗務員のトイレ事情。実は鉄道員の中で彼らが最も過酷な仕事なのかもしれない。現在、私は駅員として在籍しているが、そもそもは乗務要員として雇用されていた経緯がああった。その時は乗務員不足だったらしく、上司から再三にわたり乗務員試験を受けることを促されたが、私はそれを断り続けた。その理由は、私が極度の頻尿だったからだ。乗務員のトイレ事情・・・・・・結論から言うと、乗務中はひたすら我慢するしかない。
・私は標準的な駅員であり、年齢的にも30代半ば。鉄道員の給料基準を計るにはもってこいの人材である。基本的に鉄道員の給料は、「基本給+手当額+残業代」で構成されている。私の基本給は26万円であり、その他に宿直や深夜勤務などの手当が1、2万円支給される。先月の給与明細を覗いてみると、基本支給額に残業代の4万円が足された32万円程度が支給されており、これが私の1ヶ月の給料ということになる。2007年に行われた一斉調査において、日本の国民生活基礎所得平均が約434万円であり、これは私の年収とそれほど大きくは変わらない。そう考えると、鉄道員の給料は世間並みということになるだろうか。ただし、運転士や車掌、その他の特殊技能を擁している鉄道員などには、運転手当や特殊技能手当などが加算されるため、額は私のものより多くなる。
・鉄道会社によって事故における賠償の対応はまちまちであるという。全賠償を請求する会社もあれば、人身事故においては請求することなく、さらには香典まで支払う会社もあるらしい。その裁量は事故渉外担当に委ねられているが、人身事故の場合、概ね請求は行わないことが多いようだ。地元と密着することで成り立っている鉄道らしい対応と言えるかもしれない。だが、踏切事故のように過失、不注意によって起こったものの場合は、全賠償とはいかないまでも、大部分を請求するようである。自動車保険での対物保障はぜひ無制限のものをお勧めしたい。
・電車のことは箱の意の「ハコ」、運行図表を示すダイヤグラムは線が網羅されていることから「スジ」と呼ばれ、列車を早めることは「スジを立てる」、遅くすることは「スジを寝かす」、運行を中止することは「スジを殺す」などとやり取りされている。そのことから、ダイヤを編成する課員は、「スジ屋」や「裏スジ」などと呼ばれ、鉄道に関係のない人が聞けば、誤解を与えそうな呼び名になっている。中でも、運行を統括している運転指令長は「ウンチ」などと言われており、「新任のウンチの評判悪いね」などといった会話が成立している。その他にも、運転士は「ウテシ」や「ハンドルヤ」、車掌は列車長の略の「レチ」などと言われている。ホームなどで放送している放送員は「ナキヤ」などと呼ばれ、「放送してくれ」と伝えたい時は「ナイテクレ」などと言ったりしている。よく聞く隠語では、運転士が操縦するマスターコントローラーの略の「マスコン」や、ドアや門のかけがねを意味し、改札を指す「ラッチ」、駅長室が存在する建物を「ホンヤ=本屋」、線路上に架けられている架線(カセン)を河川などと区別するために呼んでいる「ガセン」などがある。また、事故時の隠語として、線路上で動けなくなった自動車などを、虜の意から「トリコ」、轢死体のことを「マグロ」などと呼んでいる。鉄道員同士で交わす隠語では、鉄道マニアのことを「鉄っちゃん」や「鉄キチ」などと呼ぶ。その他にも電話の応答では「もしもし」を「モシ」、「よろしく」を「ヨロ」、「異常なし」のことを「マル=○」、数字のゼロのことを「コロ」などと言い、会話をスムーズに行うために言葉の簡略化が行われている。
・鉄道員は大きく3つに分類できる。それは「縁故組」「鉄道学校組」「学校推薦組」である。この3つに共通しているのは、入社にあたっての仲介がいることだ。一般公募枠がないに等しいとされる鉄道会社に入るためには紹介が欠かせないのである。「縁故組」とは、父親や親戚などが会社に勤めており、その口利きで入社した人たちのことである。安全を第一とする鉄道は、縁故組を好む傾向がある。父親や親戚が現場にいることで、ある程度の信頼を担保にすることができるからである。鉄道員が家族にいれば仕事に対する理解もあり、おかしな言動に走ることも少ない。いわば一番安全な人種なのである。「鉄道学校」とは、鉄道についての知識を選考できる、言わば専門学校のようなものである。鉄道学校は全国に何校か存在しており、主に昭和鉄道高校や岩倉高校(明治時代に岩倉具視が鉄道発足に大きな貢献をしたことからその名が付けられている)などが挙げられる。最後に私の属する「学校推薦組」である。私の場合は就職指導の先生に勧められ、数少ない枠の鉄道会社にねじ込んでもらった。学校の持つ鉄道枠は過去にその学校から入社した人材に問題がなければ、継続されることになっている。
・一見大変そうな鉄道員の勤務形態だが私はけっこう気に入っている。それは、泊勤務であるために出勤日数が少なく、自由な時間が多く持てることにある。実際に月で言えば10日程度しか出勤日がなく、事故などの異常時を除けば、残りはすべて休みである。泊勤務1日分で通常の日勤勤務2日分にあたることが、休みを多く感じるゆえんであろう。だが、裏を返せば、鉄道員には世間一般の休日も祝日も夏休みも正月休みも関係がない。ひたすら勤務サイクルに沿って働いていくことになる。それなりの有給休暇は与えられているものの、周囲が休んでいる時に働いているということはなかなかツラかったりもする。
・愚痴をこぼしながらも、特殊な勤務サイクルを上手に有効活用している者たちもいる。彼らは3ヶ月間みっちりと働き続け、自分の勤務以外の日もそのほとんどを欠員補充にあてて残業代を稼ぎまくる。そして、その期間が過ぎると有給休暇を活用し、1ヶ月間の休暇に入るのである。一般的なサラリーマンが1ヶ月間も休めば仕事が溜まり致命的になるだろうが、仕事のノルマを持たない鉄道員の大きな利点とも言える。ちなみに、私もこの勤務を有効活用している一人である。みっちり働いた後の長期休暇を利用して海外旅行に行ったり、社会から離れた気分を満喫する時間にあてたりしている。ある意味、メリハリが効いた生活に満足しているところだ。こんな勤務サイクルも、出世して上に行けば行くほど休みづらくなる環境が待ち受けていることから、私はこれからもずっと平駅員として生きていうことを決めている。
・交代時間が近づいてくると、明日の朝までの24時間勤務を考えながら重い足取りで事務室に向かう。解放を目前にした勤務者の嬉しそうな顔を横目に、1日の作業工程を確認して点呼簿にハンコをつく。ちなみに印鑑は必需品であるため終日携帯していることになる。交代時間になると、駅長や助役らが交代者の前に並び、昨日の出来事や駅務にあたっての注意事項を述べ点呼が開始される。「お客さまのニーズにあった接客を」などのサービス目標をみなで復唱し、やる気のない体操で腕を回すとそれぞれの持ち場に散っていく。作業工程は、列車監視→改札窓口→事務所待機→昼食→出札窓口→列車監視→改札窓口→中休み→事務所待機→列車監視→改札窓口→夕食→列車監視→構内清掃→改札窓口→列車監視→仮眠→列車監視→交代、などの流れになっている。これらの作業は大体1時間毎に回っており、日によって早番勤務と遅番勤務に振り分けられている。勤務者それぞれで異なるサイクルを受け持つことで、全体的に歯車が噛み合うようになっている。
<目次>
はじめに
第1章 鉄道員の事件簿
目の前の飛び込み自殺
「死体はマグロと一緒だ」
初めての人身事故処理
事故現場
マグロと白子よ、さようなら
人身事故の法則
冷や汗をかいたコインロッカーの中身
不正乗車で捕まったらどうなる?
ドキュメント痴漢逮捕
変わったお客さん
厄介なお客さん
発射禁止になっている駅
深夜の亀甲縛り
伝説の駅員
駅で会った有名人
第2章 誰も書かなかった鉄道の秘密
放送している変な声は?
乗務員のトイレ事情
鉄道員の給料はいくらぐらいなのか?
電車はどういう時に停まるのか?
電車に飛び込んだら1億円請求される?
鉄道隠語集
魔法の鍵、忍錠
宿直の起床はどうしているのか?
運転士になる方法
駅長になる方法
電車はおいくら?
駅は金持ち
乗務員のカバンには何が入っているのか?
白手袋の謎
駅にはこんな隠れ部屋がある
第3章 世にも奇妙な鉄道の世界
鉄道員にはマニアかヤンキーが多い
さまざまな鉄道員
鉄道員の役職
女性専用車両における問題点とは?
Suica導入で何が変わったのか?
鉄道員は泊勤務
駅員の1日
労働組合は外せない
ストライキはなぜ起こる?
鉄道と政治の意外な関係
鉄道会社は現場が強い
現場と本社は大違い
乗務員特有の親子社会
JRと私鉄の関係は?
なぜ福知山線の脱線事故は起こったのか?
恐怖の日勤教育
鉄道博物館に行って
おわりに
面白かった本まとめ(2010年上半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。
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「鉄道員裏物語(大井良)」という本は、某大手私鉄の現役駅員が、駅員として過ごした10数年間の経験について赤裸々に書いたものです。
以下のように内容で3つの章に分かれています。
第1章:人身事故や痴漢、不正乗車、コインロッカーの忘れ物など
第2章:放送している独特の声の謎、乗務員はトイレをどうしているのか、駅員の給料、車両や券売機、改札機の値段、駅の隠れ部屋など鉄道に関する疑問
第3章:本社と現場の違い、ストライキの裏側に潜んでいるもの、労働組合と政治の関連、日勤教育とは何なのか、鉄道員の1日など
どれも、興味深い内容で、とても集中して読んでしまいました。
鉄道好きな方や鉄道の実態に興味がある方にはとても参考になると思います。
とてもオススメな本です!!
以下はこの本のポイント等です。
・人身事故は、その発生時点で警察の介入が求められる。事件の可能性や運転手の過失の有無を調べるためだが、そのとき遺体の引渡しが求められる。電車は、遺体の一部が欠けていると車輪に巻きついている可能性があるため走らせることができないのだ。その関係上、事故が発生すると、警察官による現場検証が済むまでは列車を動かすことができないのが原則である。しかし、それでは電車は何時間も止まることになり、利用者に多大な迷惑が掛かる。人命に関わることに時間など関係ない、と言う人もいるだろうが、電車が数時間止まることになれば利用者は不満の色を隠せなくなるのだ。そこで鉄道員の登場である。駅員は、事故発生の連絡を受けると直ちに現場に急行する。そして、目撃者を募り、同時にバラバラになった遺体の破片をかき集め、大体の人型にしてから電車を発車させる。それは警察官が到着するまでの15分から30分の間に行われる。ところで、遺体の破片を集める駅員は、回収の際にゴム手袋と黒いビニール袋を携帯する。黒のビニール袋は細かい破片である内臓や骨を入れるためのものであり、破片が周囲から見えないようにするため、この色のものを使っている。ゴム手袋は遺体によって感染症に冒されないようにするための予防策である。
・コインロッカーは保管して3日が経過すると管理者が中身を取り出し、別途保管しなければならない決まりになっている。散見されるのが大量の雑誌である。よく路上で見かけるホームレスの雑誌販売だが、あの雑誌は駅のゴミ箱から回収した物がほとんどである。そしてその保管先としてコインロッカーが利用されていることが多いのだ。別途保管としてロッカーを開けて大量の雑誌が出てくるとがっかりする。別途保管物は立ち合いのもと詳細にその内容を記さなければならないことから大変な手間になるのである。しかし、これらの置き去り物はかわいいほうだ。大量のドラッグや骨壺など、警察の手を要するものが発見されることもある。
・私が対応した例でも、定期券によるキセル乗車で80万円以上もの不正金を支払うことになった人がいた。発覚までの経緯は驚きである。内部告発と称して、1本の電話が駅に舞い込んできた。話を聞くと、同僚が定期券を使ってキセル乗車をしているという。その同僚の名前、乗車駅、電車の何両目に乗っているなどの情報が提供され、是非捕まえてほしいとの内容だった。電話を受けた駅は鉄道警察に連絡。鉄警は情報を元に被疑者を尾行。ついには証拠をつかみ駅に引き渡されることになった。蓋を開ければ、一都一県をまたいで不正をしていたため、正規の定期券を購入していれば数万円で済んだものが、先の金額に膨れ上がる結果になった。予想以上の額を提示され肩を落とした利用者は、一括での支払いができないため分割払いを希望し、月々のローンを組むことになった。
・痴漢問題が増加する一方で、冤罪問題も深刻化してきている。万が一、痴漢に勘違いされた場合には黙秘を貫くことが一番である。毅然とした態度で、女性と駅員らにこう言おう。「私は無罪です。弁護士を呼んでください。この女性を名誉毀損で訴えます」これで形勢逆転である。
・私の偏見かも知れないが、鉄道には一風変わったお客さんが多い。それを裏付けるように様々なエリアで名物客の話を耳にすることができる。私の地元で言えば、顔を真っ赤に塗りたくった「赤面おばちゃん」や、上半身はきっちりとしたスーツ姿なのに下半身は網タイツ姿の「網タイツおじさん」などが有名である。私が駅に勤めるようになってからも、変なお客さんは1日に必ず1回は見る。
・周囲から聞かれることの多い、乗務員のトイレ事情。実は鉄道員の中で彼らが最も過酷な仕事なのかもしれない。現在、私は駅員として在籍しているが、そもそもは乗務要員として雇用されていた経緯がああった。その時は乗務員不足だったらしく、上司から再三にわたり乗務員試験を受けることを促されたが、私はそれを断り続けた。その理由は、私が極度の頻尿だったからだ。乗務員のトイレ事情・・・・・・結論から言うと、乗務中はひたすら我慢するしかない。
・私は標準的な駅員であり、年齢的にも30代半ば。鉄道員の給料基準を計るにはもってこいの人材である。基本的に鉄道員の給料は、「基本給+手当額+残業代」で構成されている。私の基本給は26万円であり、その他に宿直や深夜勤務などの手当が1、2万円支給される。先月の給与明細を覗いてみると、基本支給額に残業代の4万円が足された32万円程度が支給されており、これが私の1ヶ月の給料ということになる。2007年に行われた一斉調査において、日本の国民生活基礎所得平均が約434万円であり、これは私の年収とそれほど大きくは変わらない。そう考えると、鉄道員の給料は世間並みということになるだろうか。ただし、運転士や車掌、その他の特殊技能を擁している鉄道員などには、運転手当や特殊技能手当などが加算されるため、額は私のものより多くなる。
・鉄道会社によって事故における賠償の対応はまちまちであるという。全賠償を請求する会社もあれば、人身事故においては請求することなく、さらには香典まで支払う会社もあるらしい。その裁量は事故渉外担当に委ねられているが、人身事故の場合、概ね請求は行わないことが多いようだ。地元と密着することで成り立っている鉄道らしい対応と言えるかもしれない。だが、踏切事故のように過失、不注意によって起こったものの場合は、全賠償とはいかないまでも、大部分を請求するようである。自動車保険での対物保障はぜひ無制限のものをお勧めしたい。
・電車のことは箱の意の「ハコ」、運行図表を示すダイヤグラムは線が網羅されていることから「スジ」と呼ばれ、列車を早めることは「スジを立てる」、遅くすることは「スジを寝かす」、運行を中止することは「スジを殺す」などとやり取りされている。そのことから、ダイヤを編成する課員は、「スジ屋」や「裏スジ」などと呼ばれ、鉄道に関係のない人が聞けば、誤解を与えそうな呼び名になっている。中でも、運行を統括している運転指令長は「ウンチ」などと言われており、「新任のウンチの評判悪いね」などといった会話が成立している。その他にも、運転士は「ウテシ」や「ハンドルヤ」、車掌は列車長の略の「レチ」などと言われている。ホームなどで放送している放送員は「ナキヤ」などと呼ばれ、「放送してくれ」と伝えたい時は「ナイテクレ」などと言ったりしている。よく聞く隠語では、運転士が操縦するマスターコントローラーの略の「マスコン」や、ドアや門のかけがねを意味し、改札を指す「ラッチ」、駅長室が存在する建物を「ホンヤ=本屋」、線路上に架けられている架線(カセン)を河川などと区別するために呼んでいる「ガセン」などがある。また、事故時の隠語として、線路上で動けなくなった自動車などを、虜の意から「トリコ」、轢死体のことを「マグロ」などと呼んでいる。鉄道員同士で交わす隠語では、鉄道マニアのことを「鉄っちゃん」や「鉄キチ」などと呼ぶ。その他にも電話の応答では「もしもし」を「モシ」、「よろしく」を「ヨロ」、「異常なし」のことを「マル=○」、数字のゼロのことを「コロ」などと言い、会話をスムーズに行うために言葉の簡略化が行われている。
・鉄道員は大きく3つに分類できる。それは「縁故組」「鉄道学校組」「学校推薦組」である。この3つに共通しているのは、入社にあたっての仲介がいることだ。一般公募枠がないに等しいとされる鉄道会社に入るためには紹介が欠かせないのである。「縁故組」とは、父親や親戚などが会社に勤めており、その口利きで入社した人たちのことである。安全を第一とする鉄道は、縁故組を好む傾向がある。父親や親戚が現場にいることで、ある程度の信頼を担保にすることができるからである。鉄道員が家族にいれば仕事に対する理解もあり、おかしな言動に走ることも少ない。いわば一番安全な人種なのである。「鉄道学校」とは、鉄道についての知識を選考できる、言わば専門学校のようなものである。鉄道学校は全国に何校か存在しており、主に昭和鉄道高校や岩倉高校(明治時代に岩倉具視が鉄道発足に大きな貢献をしたことからその名が付けられている)などが挙げられる。最後に私の属する「学校推薦組」である。私の場合は就職指導の先生に勧められ、数少ない枠の鉄道会社にねじ込んでもらった。学校の持つ鉄道枠は過去にその学校から入社した人材に問題がなければ、継続されることになっている。
・一見大変そうな鉄道員の勤務形態だが私はけっこう気に入っている。それは、泊勤務であるために出勤日数が少なく、自由な時間が多く持てることにある。実際に月で言えば10日程度しか出勤日がなく、事故などの異常時を除けば、残りはすべて休みである。泊勤務1日分で通常の日勤勤務2日分にあたることが、休みを多く感じるゆえんであろう。だが、裏を返せば、鉄道員には世間一般の休日も祝日も夏休みも正月休みも関係がない。ひたすら勤務サイクルに沿って働いていくことになる。それなりの有給休暇は与えられているものの、周囲が休んでいる時に働いているということはなかなかツラかったりもする。
・愚痴をこぼしながらも、特殊な勤務サイクルを上手に有効活用している者たちもいる。彼らは3ヶ月間みっちりと働き続け、自分の勤務以外の日もそのほとんどを欠員補充にあてて残業代を稼ぎまくる。そして、その期間が過ぎると有給休暇を活用し、1ヶ月間の休暇に入るのである。一般的なサラリーマンが1ヶ月間も休めば仕事が溜まり致命的になるだろうが、仕事のノルマを持たない鉄道員の大きな利点とも言える。ちなみに、私もこの勤務を有効活用している一人である。みっちり働いた後の長期休暇を利用して海外旅行に行ったり、社会から離れた気分を満喫する時間にあてたりしている。ある意味、メリハリが効いた生活に満足しているところだ。こんな勤務サイクルも、出世して上に行けば行くほど休みづらくなる環境が待ち受けていることから、私はこれからもずっと平駅員として生きていうことを決めている。
・交代時間が近づいてくると、明日の朝までの24時間勤務を考えながら重い足取りで事務室に向かう。解放を目前にした勤務者の嬉しそうな顔を横目に、1日の作業工程を確認して点呼簿にハンコをつく。ちなみに印鑑は必需品であるため終日携帯していることになる。交代時間になると、駅長や助役らが交代者の前に並び、昨日の出来事や駅務にあたっての注意事項を述べ点呼が開始される。「お客さまのニーズにあった接客を」などのサービス目標をみなで復唱し、やる気のない体操で腕を回すとそれぞれの持ち場に散っていく。作業工程は、列車監視→改札窓口→事務所待機→昼食→出札窓口→列車監視→改札窓口→中休み→事務所待機→列車監視→改札窓口→夕食→列車監視→構内清掃→改札窓口→列車監視→仮眠→列車監視→交代、などの流れになっている。これらの作業は大体1時間毎に回っており、日によって早番勤務と遅番勤務に振り分けられている。勤務者それぞれで異なるサイクルを受け持つことで、全体的に歯車が噛み合うようになっている。
<目次>
はじめに
第1章 鉄道員の事件簿
目の前の飛び込み自殺
「死体はマグロと一緒だ」
初めての人身事故処理
事故現場
マグロと白子よ、さようなら
人身事故の法則
冷や汗をかいたコインロッカーの中身
不正乗車で捕まったらどうなる?
ドキュメント痴漢逮捕
変わったお客さん
厄介なお客さん
発射禁止になっている駅
深夜の亀甲縛り
伝説の駅員
駅で会った有名人
第2章 誰も書かなかった鉄道の秘密
放送している変な声は?
乗務員のトイレ事情
鉄道員の給料はいくらぐらいなのか?
電車はどういう時に停まるのか?
電車に飛び込んだら1億円請求される?
鉄道隠語集
魔法の鍵、忍錠
宿直の起床はどうしているのか?
運転士になる方法
駅長になる方法
電車はおいくら?
駅は金持ち
乗務員のカバンには何が入っているのか?
白手袋の謎
駅にはこんな隠れ部屋がある
第3章 世にも奇妙な鉄道の世界
鉄道員にはマニアかヤンキーが多い
さまざまな鉄道員
鉄道員の役職
女性専用車両における問題点とは?
Suica導入で何が変わったのか?
鉄道員は泊勤務
駅員の1日
労働組合は外せない
ストライキはなぜ起こる?
鉄道と政治の意外な関係
鉄道会社は現場が強い
現場と本社は大違い
乗務員特有の親子社会
JRと私鉄の関係は?
なぜ福知山線の脱線事故は起こったのか?
恐怖の日勤教育
鉄道博物館に行って
おわりに
面白かった本まとめ(2010年上半期)
<今日の独り言>
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別に顔が赤かろうが、男がタイツを履いていようが、乗車券さえ買ってもらえるならなんにも問題なし。
そんなに立派な職業かね~と思うのですが、最近は開き直って7時まで自動改札のみ、券売すらしないというありさま。住民からどのように言われているか、知っておかないと後が辛いと思いますね。
もはやあれは企業の体裁を成していない・・・あはれなり・・・。