グローバルネイチャークラブのガイド日記

グローバルネイチャークラブ(旧グローバルスポーツクラブ)のガイド仲間が観察した伊豆大島の自然の情報を中心にお届けします。

早春の彩り

2010年02月12日 | 植物
オオシマカンスゲ(カヤツリグサ科)
 Carex oshimensis
 (スゲ属)  (大島の)

 島の林の中でも林の縁でも、いろいろなところで目に付きますが、大部分の人が見栄えのしないこの植物に関心を示さないようです。
 
 今、このオオシマカンスゲの花・・・稈(カン:イネ科植物に見られるような、節と節の間が中空の茎)の先の雄花の黄色い房(おしべの葯の集まり)が、美しく咲いています。特に林縁の日の当たる所に、この黄色の大房が輝いていると、その美しさに見とれてしまいます。ちょっと手を触れると、黄色の花粉が煙のように散ります。

 オオシマカンスゲは、伊豆諸島の環境の中で分化(分かれて進化する)した島の固有種です。伊豆諸島のほかは、伊豆半島の一部、初島などに生育しているようです。近縁種は日本全土に分布するヒメカンスゲC.conicaと考えられています。

 スゲ属の花のつくりは、オオシマカンスゲと似たりよったりです。三陵形の稈の頂上に雄花があり、下の方に雌花があります。雌花のすぐ上に雄花があるものもあります。風が吹くとスゲ属の植物は上の方の雄花のおしべの花粉が散り、めしべに受粉します。風媒花なので、虫を呼ぶ花びらも蜜腺もありません。受粉して出来た種子(果実)は果胞(かほう)に包まれています。果胞は3mm前後の倒卵形ですが、その形、毛の有無など、種類を決めるカギになります。

 葉は、密に叢生(そうせい:むらがり生える)し、濃緑色で3mmから6mmの細い葉がたくさん着きます。



 むかし、大島はスダジイの原生林におおわれていたと想像できますが、原生林の構成種のヤブツバキ、シロダモ、ヤブニッケイ、などや林床のヤブコウジ、テイカカズラ、ベニシダ等に混ざり、このオオシマカンスゲがいつでも代表的な下草でした。だから伊豆諸島を特徴づける原生林群落をオオシマカンスゲ-スダジイ群落といいます。

 オオシマカンスゲを大島では、単に「スゲ」と言っているようです。スゲは、清浄(スガ)の転音であるとか、巣(ス)の様に見える葉を毛(ケ)にたとえたこととか、住宅の敷物をスガタタミといい、これに使用する材料からスガ→スゲと言ったとか色々の語源があります。

 カンスゲとは、冬でも葉が青々としているので「寒さに強いスゲ」という意味です。一見、無用に見える菅(スゲ)も、昔は刈りとって葉の広いものは菅笠(スゲカサ)に、葉の狭いものは蓑(ミノ)にしたそうです。

 島の古い文章にも「菅(スゲ)、諸島産せざるなし、葉を縄綯(なわな)い、又 草席蓬(クサムシロ、ヨモギ)等となす。」と書かれています。家畜の飼料にもしたということです。

 オオシマカンスゲに近い種に、カンスゲC.morrowiiと、ハチジョウカンスゲC.hachijoensisがあります。どちらも「大島植物目録」に記載されています。カンスゲは茨城県以西の太平洋沿岸地方、四国、九州に分布しています。以前、大島の植物調査に来島された緑星研究所の小崎昭則氏が「カンスゲが見つかりませんね。」と言ったことがあります。また、島の固有種であるハチジョウカンスゲは、八丈島と御蔵島だけに分布していることが定説です。

 大島のスゲ属の中に、この2種があるかどうか。又どの位あるのか。今後の調査課題の1つです。(吉田)


 …と以上、『大島自然愛好会会報№145』(1995年3月10日発行)に故吉田三喜男先生が、「島の植物(12)」としてオオシマカンスゲについて書いています。丸写しはズルイ~ッ!!と、他のスタッフから言われるだろうなあ(汗)
 来週の16日は吉田先生の七回忌。先生を偲んで紹介させて頂きました。吉田先生は、1984年から2003年まで、ほぼ毎月、手書きの会報を発行し続けて、主に大島の植物と自然について分かりやすく解説して下さいました。この会報のバックナンバーは、昨日の日記「クズ百面相」(byカナ)の文中に登場している藤井工房でも、町立図書館でもご覧頂けます。
 ハンドブック『伊豆大島の植物』を他の島に先駆けて中心になって作成するなど、いま私たちが大島の自然について学ぶ時の基礎になっています。 

 林床のオオシマカンスゲのような存在と先生をたとえたら、怒られるかな? 

(なるせ) 
コメント
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