
鳴沢了シリーズの多分最終作。上下2巻と長編で読み応え十分、中身は読んでいただきたい。箴言に富んでいるのでいくつかを引用する。
表面に出てこない事件の被害者の様子を把握する場面はケアマネジメントに役立つ。
「 『いいよ。何でも聴いてくれ。俺に何が言えるか分からねえけど』まだ長い煙草をガラス製の灰皿に押しつける。直径二十センチほどもある大きなものなのに、既に煙草を消すためのスペースはほとんど残っていなかった。消え損ねた吸い殻から煙が真っ直ぐ立ち上がり、天井に近づくに連れ渦を巻く。ふいに私は、この男が負ったダメージの大きさを明確に感じ取った。家の中を綺麗に保っているのに、灰皿だけは片づけていない。昨日受けたショックの大きさは、その一点に集中して現れていた。」
もう1つ、
「『結構ですな』腰を下ろしながら薄い笑みを浮かべる。『約束の時間より早く来て待っている人間は信用できる』
『詐欺師は大抵、時間を守りますよね。人を信用させるために』
『褒めているんだから、素直になんなさいよ』」
と。これだけでも読む価値がある。