ここでの結論として「このように介護部門に手厚く財政を振り向けることで、介護産業が活性化され国内の介護技術が向上していく」としているが、議論は単純ではないだろう。社会保障論は制度論、財政から経済学そして哲学を含む学問領域だがこのままの学識だと他分野の研究者から相手にされないだろうと心配する。
その後に続く主張では経済効果などを触れるが、たとえば「賃金の大部分は日本人介護士に支払われるため、国内での消費に回る。『内需刺激策』という意味合いでも公共事業に比べれば効果的だろう」というが、給与支払が内需刺激策となったためしはなく、公共事業の波及効果に及びもつかず社会保障の支出の性格を無視した意見に終始していて残念だ。
「循環型福祉社会システム」と述べるがその説明がないので循環型副士社会システムが何をいうのかよくわからない。たとえば何が循環するのか何を循環させるのか、それと福祉社会とどうつながるのか、さらには福祉社会とはなにをいうのか。これだけで大きなテーマなので、この小論にいれると論理が混乱する。
さらに続けて「『福祉循環型社会システム』を目指して、サービスの充実に伴い介護従事者の賃金を引き上げて雇用を拡大することで、内需の活性化につなげていくべき」と述べるが、サービスの充実が介護労働者の賃上げにつながることの説明がなく内需拡大につなげるというのはどうつながるのか、説明がない。
さらに「もし財政的見地から介護資源の整備を抑制すれば、東京圏を中心とした介護ニーズは深刻化し、娘や息子など家族にしわ寄せが及んでくる」との記述は曖昧。ここは「介護報酬の引き下げにより介護職員の待遇が悪化した場合、介護職員の離職が促進し、結果、介護負担は家族に及ぶ可能性がある」という方があとの記述に続けるためにもいいと思う。
介護不足から地方移住はいままでのつながりがなくなると反対する主張から「介護難民の防止策としては、『社会保障の充実なくしては対処できない』と社会が認識する以外にない」という意見を導きだすのは、地域包括ケアシステムなど反論が想定されるので、論理として飛躍している。社会福祉に関しても論理的記述を求めたい。
「高齢者の介護目的の地方移住は非現実的」「財源を抑制すると介護離職が相次ぐ恐れ」「介護の公費投入を社会投資ととらえよ」と主張される小論があった。論旨は社会保障の充実を求めているようだが、残念ながら論証が不十分で社会保障を充実することの論理に説得力が乏しいと思う。