秘密保護法に関する『信濃毎日新聞』の社説は、その問題点を具体的に記していて、とても参考になる。そこでまとめて掲載させていただく。
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秘密保護法 防衛文書廃棄 政府の体質がにじむ 11月06日(水)
特定秘密保護法が施行されたら、政府が秘密指定する情報は国民の手の届かない場所にしまい込まれ、最後はそのまま破棄されるのではないか―。
そんなことを心配させる事実が明らかになった。
自衛隊法に基づき「防衛秘密」を管理する防衛省が、2011年度までの5年間に約3万4千件の秘密指定文書を廃棄していた。02年に防衛秘密の仕組みが始まって以来、指定が解除されたのは1件だけ。ほかは全て、国民に知らされないまま葬られた。
何が秘密にされたのか、指定は妥当だったのか、チェックするすべはなくなった。
見過ごせない事態である。防衛秘密の仕組みは、衆院に提出された特定秘密保護法案を先取りしている面があるからだ。
防衛秘密は防衛相が指定する。指定が適切か第三者がチェックする仕組みはない。秘密となる分野は「自衛隊の運用」「防衛力の整備」など大ざっぱで、防衛がらみなら何でも指定できそうだ。漏らすと最高で懲役5年になる。
特定秘密保護法案とよく似ている。秘密の対象を外交や公安分野に広げ、最高刑を10年にしたのが秘密保護法案とも言える。
文書を廃棄したことについて防衛省は「法令に基づいて処理しており、問題はない」と説明している。防衛省の勝手な判断で廃棄できる仕組みになっていることこそが問題だ。秘密保護法にも通じる欠陥である。
防衛秘密の仕組みは2001年の9・11テロを受け、テロ対策特別措置法案とセットで議論された。与野党の関心は自衛隊の海外派遣につながるテロ特措法案に集中、防衛秘密を新設するための自衛隊法改正案には十分な審議時間が充てられないまま、可決、成立した経緯がある。
審議が中途半端だった付けが回って、密室での大量廃棄を招いているとも言える。
日本政府にはかねて、情報開示に後ろ向きの姿勢が目立つ。例えば沖縄返還密約だ。
米国の公文書館には密約文書そのものが残っている。日本側で交渉に当たった元外務省高官は密約を結んだことを国会で認めた。なのに外務省は今も「密約は存在しない」の一点張りだ。
こうした政府の姿勢から見ると、特定秘密も闇から闇へと葬り去られる心配が大きい。
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秘密保護法 内部告発制度 厳罰で掘り崩される 11月05日(火)
特定秘密保護法は民主的な社会を支える仕組みを各面にわたり危険にさらす心配が大きい。懸念される一つが公益通報者保護制度。不正を内部告発した人を守る制度である。
保護制度は基本的には公務員に対しても適用される。「政府の違法行為や重大な失態は特定秘密の対象になり得ないので、通報しても罰せられない」。政府は国会で答えている。
ただ通報者保護法には刑事罰に触れる場合も保護するとは書いてない。特定秘密は公表されないので、政府の一方的な解釈により処罰されても反論できない。「処罰しない」とする政府の説明をうのみにはできない。
告発で外部に公表した情報にたまたま特定秘密が含まれていた場合にも処罰される可能性がある。これでは公益通報を考える人はいなくなる。秘密保護法は公務員の口封じをする法律でもある。
公務員とはそもそも何だろう。公務員は「全体の奉仕者」だと憲法は定めている。時の政権ではなく国民全体のために働くことが求められている。
公務員は職務に関し犯罪行為があると分かったときは告発しなければならない―。刑事訴訟法にはこんな意味の規定がある。違法行為は進んで告発するよう、法律は公務員に求めている。
厳罰をもって公務員に秘密保持を義務付けることは、法が公務員に求める役割を損なう心配が大きい。秘密法にはこの面からも賛成できない。
秘密を扱う公務員は「適性評価」の対象となり、家族の国籍や飲酒の程度まで調べられる。秘密法は公務員のプライバシーを損なう心配も大きい。
公務員による秘密漏えいの例として、空自幹部が中国潜水艦事故を記者に話して処分された事件(2008年)と、中国漁船衝突映像の流出(10年)がよく挙げられる。いずれも秘密にすべき事件とは言えないケースで、2件とも起訴猶予で終わっている。
秘密法が成立すれば、こうした情報も国民の手の届かないところにしまい込まれるだろう。警察の捜査費の使い道がテロ対策と絡んで秘密とされれば、裏金問題の追及も難しくなる。
全体の奉仕者であるべき公務員に対し、時の政府が秘密保持のたがをがっちりはめる。そんな法律は民主主義にふさわしくない。
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司法の闇 市民が逮捕される日 11月04日(月)
201X年11月の早朝。長野市はヘリコプターのごう音と振動に包まれた。多くの住民が驚き目を覚ました。
平和運動を進める団体の代表Aさんもその一人だ。窓を開けて上空を見上げると十数機の自衛隊ヘリが北に向かっていた。
県庁に問い合わせたが「訓練の連絡は来ていない」との返事。「住民に何も知らせず、大掛かりな飛行訓練をするのは問題だ」と感じたAさんは、仲間2人とヘリの離陸地点とみられる隣県の陸自旅団に抗議に訪れた。
具体的な飛行訓練計画を明らかにするよう求めるAさんに担当者は「答えられない」の一点張り。業を煮やしたAさんは語気を強めて「なぜ言えないんだ。住民は迷惑している。問題にしてやるぞ」と迫った。担当者は押し黙ったまま。Aさんたちは何の成果も得られないまま引き揚げた。
<ある日突然、捜査員が>
数日後の朝、Aさんの自宅を捜査員が訪れ、逮捕状を示した。「罪名 特定秘密保護法違反」―。
防衛や外交などの情報を秘密指定して、それを漏らしたり、取得したりする行為を罰する特定秘密保護法案。政府が今国会に提出した法案が成立、施行されると、こんな事態も起こり得る―。自衛隊の活動を調査している県護憲連合事務局長の布目裕喜雄さんや、刑事訴訟法が専門の大出良知・東京経済大現代法学部長(九州大名誉教授)は危惧する。
防衛分野の秘密指定範囲は「自衛隊の運用」などと大ざっぱだ。具体的に何が指定されたか国民には知らされない。市民が知らず知らずのうちに法に抵触。裁判になっても、証拠自体が秘密扱いで審理され、有罪判決が出る恐れがある。大出教授の話を参考に、判決までの流れを想定し、法案の危険性を考える。
現行の国家公務員法や自衛隊法でも秘密を漏らすと処罰される。今回の法案は秘密を得た側も処罰されるのが特徴だ。
だましたり、暴行したり、脅迫したりして、特定秘密に指定された情報を取得した場合、最高で懲役10年の罰則がある。未遂も対象。秘密を漏らすようそそのかしたり、あおったりしても最高5年の懲役刑だ。
Aさんが問題にしたのは、実は日本海有事に備えた自衛隊員の大量輸送訓練で、防衛相が秘密指定していた。Aさんは、それを脅して取得しようとした罪(未遂)に問われ、起訴された。
裁判が始まった。Aさんは「脅していないし、求めたものが特定秘密とは知らないので、犯罪の故意がない」などと無罪を主張した。ところが、一番肝心な証拠が開示されない可能性が高い。
<証拠は裁判でも秘密>
“前例”がある。
6年前に発覚したイージス艦情報流出事件の裁判だ。特別防衛秘密(特防秘)を別の自衛官に漏らしたとして海上自衛官が逮捕、起訴された。1954(昭和29)年施行の日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪で初めての起訴だ。
検察側は「機密は裁判所にも明かすことはできない」と、機密部分を黒塗りした資料を証拠提出した。裁判長は資料に「極秘」の記載があることなどから特防秘に当たると「推認」できるとし、有罪判決を出した。
この事件で主任弁護人を務めた田中保彦弁護士は「(秘密を取得した方も罰せられる)今回の法案では、被告がどんな情報を取得したかを聞いた弁護人も罪に問われる危険がある」と指摘する。
Aさんの裁判も同様に進む。
訓練の名称自体も秘密なので、検察側が出す証拠の題名さえこんなものになりそうだ。
「■■■■■■■■にかかわる■■■■■■■■■■の計画」
計画の内容は全面黒塗りだ。
裁判長は、資料に「特定秘密」と記されていることや防衛省担当者の証言から特定秘密と推認できると判断。こんな判決を出す。
被告人を懲役5年に処する
<人権侵害の恐れ>
争点について判決は▽「問題にしてやる」との言葉が「害悪の告知」に当たるなど、脅迫と認められる▽特定秘密の範囲は「自衛隊の運用」と法律に示されており、被告人には、求めた情報がこの秘密に当たるかもしれないという認識(概括的故意)があった―と示した。情状では、反省していないとの指摘も。
未遂なので、最高刑にはならなかったが、懲役3年を超えるので執行猶予が付かず、実刑に―。
あくまで仮定の話だが、ここから浮かび上がるのは、自分のした行為が本当に犯罪になるのかすら確認できず、弁護活動も制限され、市民が犯罪者にされてしまう恐れだ。法案は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、憲法に保障された基本的人権さえ危うくする。成立させてはならない。
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秘密保護法 警察の運用 地方でも監視が強まる 10月31日(木)
国家機密といえば外務省や防衛省などの中央官庁が扱っているもの。地方に暮らす私たちには関係がない―。そう思いがちだ。
ところが、今国会に提出された特定秘密保護法案を読むと、地方にも密接なつながりがあることが分かる。指定された秘密が警察庁を通じて都道府県の警察本部に提供され、一線の警察官も秘密の取扱者になるからだ。
特定秘密を指定する「行政機関の長」には、外相や防衛相だけでなく警察庁長官が含まれる。長官が指定するのは、法が対象とする四つの分野のうち、主に「特定有害(スパイ)活動」の防止やテロ活動の防止に関する情報になる。いずれの分野もその内訳を見ると、「その他の重要な情報」の記述がある。幅広い指定が可能な条文になっている。
長官は捜査などの必要に応じ、特定秘密を都道府県警察に提供することができる(7条)。提供を受けた警察本部長は、家族の状況から飲酒の節度、借金の状況まで調べる「適性評価」をして、取り扱う警察官を決める。こうして、私たちの身近にも特定秘密の取扱者が存在することになる。
警察本部長は「特定秘密の適切な保護のために必要な措置」(5条)を取ることが求められる。特定秘密を守ることが警察の仕事の一つになる。取扱者への接触に目を光らせる。
3年前、警視庁公安部の捜査関連文書がインターネット上に流出した。そこには国内のイスラム教徒の氏名や住所、顔写真、交友関係、活動状況などが記載されていた。都内のイスラム圏の大使館やモスク(イスラム教礼拝所)に出入りする人たちを監視した記録もあった。
文書に掲載されたイスラム教徒たちは「教徒というだけで個人情報を収集され、プライバシーを侵害された」などと提訴した。
警察が集めるこうした公安情報は特定秘密に指定される可能性が高い。法案では「主義主張に基づき、国家に強要する活動」がテロの定義の一つになっている。地方で展開される原発反対デモなどの監視も強化されそうだ。
特定秘密保護法が後ろ盾になり、警察は個人情報をより集めやすくなる。そこに人権侵害があっても秘密の壁で検証は難しい。
法案は、地方を巻き込んで監視社会をつくる危険性をはらんでいる。容認できない。
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秘密保護法 防衛文書廃棄 政府の体質がにじむ 11月06日(水)
特定秘密保護法が施行されたら、政府が秘密指定する情報は国民の手の届かない場所にしまい込まれ、最後はそのまま破棄されるのではないか―。
そんなことを心配させる事実が明らかになった。
自衛隊法に基づき「防衛秘密」を管理する防衛省が、2011年度までの5年間に約3万4千件の秘密指定文書を廃棄していた。02年に防衛秘密の仕組みが始まって以来、指定が解除されたのは1件だけ。ほかは全て、国民に知らされないまま葬られた。
何が秘密にされたのか、指定は妥当だったのか、チェックするすべはなくなった。
見過ごせない事態である。防衛秘密の仕組みは、衆院に提出された特定秘密保護法案を先取りしている面があるからだ。
防衛秘密は防衛相が指定する。指定が適切か第三者がチェックする仕組みはない。秘密となる分野は「自衛隊の運用」「防衛力の整備」など大ざっぱで、防衛がらみなら何でも指定できそうだ。漏らすと最高で懲役5年になる。
特定秘密保護法案とよく似ている。秘密の対象を外交や公安分野に広げ、最高刑を10年にしたのが秘密保護法案とも言える。
文書を廃棄したことについて防衛省は「法令に基づいて処理しており、問題はない」と説明している。防衛省の勝手な判断で廃棄できる仕組みになっていることこそが問題だ。秘密保護法にも通じる欠陥である。
防衛秘密の仕組みは2001年の9・11テロを受け、テロ対策特別措置法案とセットで議論された。与野党の関心は自衛隊の海外派遣につながるテロ特措法案に集中、防衛秘密を新設するための自衛隊法改正案には十分な審議時間が充てられないまま、可決、成立した経緯がある。
審議が中途半端だった付けが回って、密室での大量廃棄を招いているとも言える。
日本政府にはかねて、情報開示に後ろ向きの姿勢が目立つ。例えば沖縄返還密約だ。
米国の公文書館には密約文書そのものが残っている。日本側で交渉に当たった元外務省高官は密約を結んだことを国会で認めた。なのに外務省は今も「密約は存在しない」の一点張りだ。
こうした政府の姿勢から見ると、特定秘密も闇から闇へと葬り去られる心配が大きい。
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秘密保護法 内部告発制度 厳罰で掘り崩される 11月05日(火)
特定秘密保護法は民主的な社会を支える仕組みを各面にわたり危険にさらす心配が大きい。懸念される一つが公益通報者保護制度。不正を内部告発した人を守る制度である。
保護制度は基本的には公務員に対しても適用される。「政府の違法行為や重大な失態は特定秘密の対象になり得ないので、通報しても罰せられない」。政府は国会で答えている。
ただ通報者保護法には刑事罰に触れる場合も保護するとは書いてない。特定秘密は公表されないので、政府の一方的な解釈により処罰されても反論できない。「処罰しない」とする政府の説明をうのみにはできない。
告発で外部に公表した情報にたまたま特定秘密が含まれていた場合にも処罰される可能性がある。これでは公益通報を考える人はいなくなる。秘密保護法は公務員の口封じをする法律でもある。
公務員とはそもそも何だろう。公務員は「全体の奉仕者」だと憲法は定めている。時の政権ではなく国民全体のために働くことが求められている。
公務員は職務に関し犯罪行為があると分かったときは告発しなければならない―。刑事訴訟法にはこんな意味の規定がある。違法行為は進んで告発するよう、法律は公務員に求めている。
厳罰をもって公務員に秘密保持を義務付けることは、法が公務員に求める役割を損なう心配が大きい。秘密法にはこの面からも賛成できない。
秘密を扱う公務員は「適性評価」の対象となり、家族の国籍や飲酒の程度まで調べられる。秘密法は公務員のプライバシーを損なう心配も大きい。
公務員による秘密漏えいの例として、空自幹部が中国潜水艦事故を記者に話して処分された事件(2008年)と、中国漁船衝突映像の流出(10年)がよく挙げられる。いずれも秘密にすべき事件とは言えないケースで、2件とも起訴猶予で終わっている。
秘密法が成立すれば、こうした情報も国民の手の届かないところにしまい込まれるだろう。警察の捜査費の使い道がテロ対策と絡んで秘密とされれば、裏金問題の追及も難しくなる。
全体の奉仕者であるべき公務員に対し、時の政府が秘密保持のたがをがっちりはめる。そんな法律は民主主義にふさわしくない。
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司法の闇 市民が逮捕される日 11月04日(月)
201X年11月の早朝。長野市はヘリコプターのごう音と振動に包まれた。多くの住民が驚き目を覚ました。
平和運動を進める団体の代表Aさんもその一人だ。窓を開けて上空を見上げると十数機の自衛隊ヘリが北に向かっていた。
県庁に問い合わせたが「訓練の連絡は来ていない」との返事。「住民に何も知らせず、大掛かりな飛行訓練をするのは問題だ」と感じたAさんは、仲間2人とヘリの離陸地点とみられる隣県の陸自旅団に抗議に訪れた。
具体的な飛行訓練計画を明らかにするよう求めるAさんに担当者は「答えられない」の一点張り。業を煮やしたAさんは語気を強めて「なぜ言えないんだ。住民は迷惑している。問題にしてやるぞ」と迫った。担当者は押し黙ったまま。Aさんたちは何の成果も得られないまま引き揚げた。
<ある日突然、捜査員が>
数日後の朝、Aさんの自宅を捜査員が訪れ、逮捕状を示した。「罪名 特定秘密保護法違反」―。
防衛や外交などの情報を秘密指定して、それを漏らしたり、取得したりする行為を罰する特定秘密保護法案。政府が今国会に提出した法案が成立、施行されると、こんな事態も起こり得る―。自衛隊の活動を調査している県護憲連合事務局長の布目裕喜雄さんや、刑事訴訟法が専門の大出良知・東京経済大現代法学部長(九州大名誉教授)は危惧する。
防衛分野の秘密指定範囲は「自衛隊の運用」などと大ざっぱだ。具体的に何が指定されたか国民には知らされない。市民が知らず知らずのうちに法に抵触。裁判になっても、証拠自体が秘密扱いで審理され、有罪判決が出る恐れがある。大出教授の話を参考に、判決までの流れを想定し、法案の危険性を考える。
現行の国家公務員法や自衛隊法でも秘密を漏らすと処罰される。今回の法案は秘密を得た側も処罰されるのが特徴だ。
だましたり、暴行したり、脅迫したりして、特定秘密に指定された情報を取得した場合、最高で懲役10年の罰則がある。未遂も対象。秘密を漏らすようそそのかしたり、あおったりしても最高5年の懲役刑だ。
Aさんが問題にしたのは、実は日本海有事に備えた自衛隊員の大量輸送訓練で、防衛相が秘密指定していた。Aさんは、それを脅して取得しようとした罪(未遂)に問われ、起訴された。
裁判が始まった。Aさんは「脅していないし、求めたものが特定秘密とは知らないので、犯罪の故意がない」などと無罪を主張した。ところが、一番肝心な証拠が開示されない可能性が高い。
<証拠は裁判でも秘密>
“前例”がある。
6年前に発覚したイージス艦情報流出事件の裁判だ。特別防衛秘密(特防秘)を別の自衛官に漏らしたとして海上自衛官が逮捕、起訴された。1954(昭和29)年施行の日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪で初めての起訴だ。
検察側は「機密は裁判所にも明かすことはできない」と、機密部分を黒塗りした資料を証拠提出した。裁判長は資料に「極秘」の記載があることなどから特防秘に当たると「推認」できるとし、有罪判決を出した。
この事件で主任弁護人を務めた田中保彦弁護士は「(秘密を取得した方も罰せられる)今回の法案では、被告がどんな情報を取得したかを聞いた弁護人も罪に問われる危険がある」と指摘する。
Aさんの裁判も同様に進む。
訓練の名称自体も秘密なので、検察側が出す証拠の題名さえこんなものになりそうだ。
「■■■■■■■■にかかわる■■■■■■■■■■の計画」
計画の内容は全面黒塗りだ。
裁判長は、資料に「特定秘密」と記されていることや防衛省担当者の証言から特定秘密と推認できると判断。こんな判決を出す。
被告人を懲役5年に処する
<人権侵害の恐れ>
争点について判決は▽「問題にしてやる」との言葉が「害悪の告知」に当たるなど、脅迫と認められる▽特定秘密の範囲は「自衛隊の運用」と法律に示されており、被告人には、求めた情報がこの秘密に当たるかもしれないという認識(概括的故意)があった―と示した。情状では、反省していないとの指摘も。
未遂なので、最高刑にはならなかったが、懲役3年を超えるので執行猶予が付かず、実刑に―。
あくまで仮定の話だが、ここから浮かび上がるのは、自分のした行為が本当に犯罪になるのかすら確認できず、弁護活動も制限され、市民が犯罪者にされてしまう恐れだ。法案は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、憲法に保障された基本的人権さえ危うくする。成立させてはならない。
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秘密保護法 警察の運用 地方でも監視が強まる 10月31日(木)
国家機密といえば外務省や防衛省などの中央官庁が扱っているもの。地方に暮らす私たちには関係がない―。そう思いがちだ。
ところが、今国会に提出された特定秘密保護法案を読むと、地方にも密接なつながりがあることが分かる。指定された秘密が警察庁を通じて都道府県の警察本部に提供され、一線の警察官も秘密の取扱者になるからだ。
特定秘密を指定する「行政機関の長」には、外相や防衛相だけでなく警察庁長官が含まれる。長官が指定するのは、法が対象とする四つの分野のうち、主に「特定有害(スパイ)活動」の防止やテロ活動の防止に関する情報になる。いずれの分野もその内訳を見ると、「その他の重要な情報」の記述がある。幅広い指定が可能な条文になっている。
長官は捜査などの必要に応じ、特定秘密を都道府県警察に提供することができる(7条)。提供を受けた警察本部長は、家族の状況から飲酒の節度、借金の状況まで調べる「適性評価」をして、取り扱う警察官を決める。こうして、私たちの身近にも特定秘密の取扱者が存在することになる。
警察本部長は「特定秘密の適切な保護のために必要な措置」(5条)を取ることが求められる。特定秘密を守ることが警察の仕事の一つになる。取扱者への接触に目を光らせる。
3年前、警視庁公安部の捜査関連文書がインターネット上に流出した。そこには国内のイスラム教徒の氏名や住所、顔写真、交友関係、活動状況などが記載されていた。都内のイスラム圏の大使館やモスク(イスラム教礼拝所)に出入りする人たちを監視した記録もあった。
文書に掲載されたイスラム教徒たちは「教徒というだけで個人情報を収集され、プライバシーを侵害された」などと提訴した。
警察が集めるこうした公安情報は特定秘密に指定される可能性が高い。法案では「主義主張に基づき、国家に強要する活動」がテロの定義の一つになっている。地方で展開される原発反対デモなどの監視も強化されそうだ。
特定秘密保護法が後ろ盾になり、警察は個人情報をより集めやすくなる。そこに人権侵害があっても秘密の壁で検証は難しい。
法案は、地方を巻き込んで監視社会をつくる危険性をはらんでいる。容認できない。