浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

警戒警報・トランプ②

2017-01-02 21:44:42 | その他
 『現代思想』1月号、新田啓子「わたしは予期していた」に、考えさせられることが記されていた。

 アメリカには、アフリカ系の、つまり黒人系の学生に支給される奨学金が数多く存在するという。それは、今までの歴史の中で差別を受けてきた人びとに対する学習「機会の調整」のためである。
 ところが、その奨学金は、アメリカ生まれの黒人たちにはほとんど支給されず、支給されるのは、アフリカやカリブ海地方からの留学生であるというのだ。なぜか。アメリカ生まれの黒人生徒には、SAT(大学入学基礎学力テスト)で点数がとれないからである。アフリカやカリブから来る学生たちは、英才教育を受けるために早い段階でアメリカにやってきているから、当然高得点となる。アメリカでの大学の授業料は、年間300万円、奨学金を得られなければ大学進学は不可能である。つまり、奨学金は、本来支給されなければならない黒人生徒にはわたっていないのだ。そしてアフリカなどからアメリカに来る若者は、当然その地方での富裕層の子弟である。

 新田はこう記す。

 実力主義という、理論上は合理的な奨学金システムが、本来ならばあまり援助を必要としていない裕福な人びとに金を流失させている。しかもそれは外国人だ。そのために、奨学金をもっとも必要としている子供は、その機会を得られないまま、潜在的な能力の芽を出す可能性も封じられる。しかもその果てに待っているのは、現代アメリカ社会における最悪の人種コース、すなわち、おもに黒人男性を飲み込む「収監格差」に足を取られ、落伍のスパイラルに嵌まっていくという顛末である。

 差別を克服するためにもうけられている奨学金制度を利用しているのが、外国からの富裕者の子弟であるというこの矛盾。

 そしてトランプを勝利させたのは、「支援や承認を要する層に反感を抱く人間と、その必要は自覚しつつも、私利や既得権益保守の誘惑に抗えず、だからこそ彼に投票したと公言できない人間たち」であると指摘する。

 トランプを勝利させた人びとは、「利権」、「戦争」、「愚かなリーダー」には「寛容」だが、差別され、貧しき人びとへのある種の「厚遇」には、不寛容なのだ。

 考えてみれば、そういう人は、日本にもいっぱいいる。そういう時代なのだ。
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警戒警報・トランプ①

2017-01-02 13:35:59 | その他
 『現代思想』1月号の特集、「トランプ以後の世界」の巻頭は、チョムスキーへのインタビューである。

 新自由主義経済の展開により、そのしわ寄せを承けた人々は、「中道派エスタブリッシュメントに対する怒り」を持っている。それはその政策展開の中で、「労働者の不安定化」が招来されたからで、それは「労働者に圧力をかければ賃金アップや福祉、安定など要求せず、停滞的な賃金と削減された福祉で満足し、それが新自由主義の基準からすれと健全な経済の証左である」という考え方を権力中枢が保持していることに起因する。

 ついでに付け加えておけば、我が日本でも連合なる全国的な労働組合の連合体は、まさにその新自由主義を支える役割を果たしていると言わざるを得ない。動かない連合、賃金アップなども、あの安倍政権から経営者団体に要請する始末である。もう連合なんていあらないよ、と言いたくなるのが日本の現実である。

 横道にそれたが、新自由主義政策により、「賃金、福祉、安定とは別に、尊厳、未来への希望、自分がこの世界に属し価値ある役割を担っているという感覚、そのどれもが失われて」しまっていると、チョムスキーは指摘する。そのなかでトランプが選出されたのだが、「トランプが起こそうとしている「チェンジ」は有害であり、状況をさらに悪化させるでしょうが、原子化された社会で孤立する人たちが将来をよく見通せないということは理解できます。人びとを啓発し組織する(労働組合のような)アソシエイションが存在しないのです」という現状を憂う。

 日本の現実を見つめると、まさにそのアソシエイションがない。

 トランプが当選したあと、「ビジネス界の直後の反応から、巨大製薬会社、ウオールストリート、軍需産業、エネルギー産業など錚々たる組織が非常に明るい未来を予測している」。

 トランプがいかなる勢力の利害を代表するか、このことでも明らかであり、まさにアメリカ国民は最悪の選択をしたのである。しかしチョムスキーは、こう言って締めくくる。

 一般大衆と政治運動がうまく結びつき力を発揮すれば、状況を大きく変えられるということです。そして得られる成果は非常に大きいということを忘れないでおきましょう。

 その通りであり、まさにアメリカの市民はすでにそうした行動に出てきている。
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トランプという人

2017-01-02 08:39:05 | その他
 『現代思想』1月号は、読み甲斐がある。特集は「トランプ以後の世界」である。秀逸な論文や、今までメディアがあまり報じてこなかった事実も記されている。あと少しで読み終えるが、付箋だらけになっている。


 そのなかで、森政稔の「こういう人物を大統領に選ぶという大きすぎるリスクをアメリカ国民があえて冒したということであり、民主主義はこうした恣意的な支配を招く」という指摘に大きく肯くばかりだ。

 マーク・ウィンチェスターの「「ポスト真実」社会と先住民族」の冒頭部分では、トランプという人物のいかがわしさが数多く列挙されている。

・トランプおよび彼の会社が関わる訴訟が数多くあり、それらは継続中であること。その内容は、トランプの性的暴行、元従業員からの未払い給料などである。

・「地球温暖化の概念は、米国製造業の競争力を奪うために、中国のために中国により作られたもの」と主張していること。

・黒人にアパートを貸さないことにより、司法省より訴えられたこと

・オバマ大統領がアメリカで生まれたことを疑う「バーサ-運動」の中心人物であったこと。

・白人至上主義団体がつくりだした「オルト・ライト」(もうひとつの右翼)について、トランプは「私はオルト・ライトのプラットフォームだ」と発言したスティーヴ・バノンを主席戦略官・上級顧問に任命したこと。

・アメリカの暴力的な白人至上主義組織K・K・Kを肯定したことのあるジェフ・セッションズを司法長官にしたこと。

・トランプが身体障害者を嘲ったこと

・数多くの人種差別発言

・アメリカに白人が上陸して以降、差別され迫害されてきたインディアン居留地を「組織犯罪」の地域であると発言し、そうしたインディアンに手厚い保護策が講じられていることを「ダブル・スタンダード」であると言い張ったこと。

 確かに、なぜこうした人物を大統領にしたのか。しかし選択肢が、新自由主義で莫大な利益を上げているエスタブリッシュメントの立場から立候補したクリントンであったからやむを得ないが・・・
 
 日本で、選挙の際、選択肢のあまりのなさに苦しんでいることと同じではあろうが、アメリカ国民は最悪の選択をしたといえよう。それは同時に、世界的な認識でもある。

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