現在の静岡県のルーツは、徳川幕府が倒壊したあと、徳川将軍家が静岡藩主に任ぜられ、現在の静岡県域(ただし全く同じではない)を支配したところから始まる。ちなみに、「静岡」という地名はそれまではなかった。「駿河府中」であったが、「静岡」へと変更となった。
静岡藩は、1871年の廃藩置県によりなくなった。短い期間であった。
さて本書は、その静岡藩について記されたものだ。その短い時間ではあったが、静岡藩は静岡県に大きな影響を与えた。何と言っても、江戸が現在の静岡県内に移ってきたのである。維新政府の担い手は、薩摩長州などの野蛮な田舎侍であったから、江戸よりも静岡が先進地となったのだ。
構成は以下の通り。章のもとに項目がたてられ、一頁に解説、そして解説に関わる写真が掲載されている。
徳川家の移封と旧幕臣の移住
静岡藩の行政機構
藩主徳川家の家政
藩士の身分と生活
民政と産業振興
静岡藩の学校と教育
静岡藩の陸軍と海軍
静岡藩の病院と医療
明治新政府との関係
静岡藩が後世に残したもの
このあとに、「わが町ゆかりの旧幕臣」が市町村ごとに紹介され、「静岡藩関係略年表」がある。
本書の「まえがき」に「先行する既刊本との重複は可能な限り避ける」とある。確かに静岡藩について私がもっていた認識にはなかった事実が、厚い本でもないのにたくさん書き込まれ、新鮮な感覚で読むことができた。またそれぞれの項目の説明が短いので、それらに関して長文の説明を読みたくなった。
掲載された写真も含めて、著者の長年の研究のエッセンスが詰まったものである。ただ、たとえば維新政府の「神仏分離」政策に、静岡藩がどう対応したかなど、静岡藩政の中身がしるされていればと思った。これについては、『静岡県史』に叙述されていたような気がするが、こうした一般向けの歴史書にも叙述されていれば嬉しい。
本書は、新鮮な知識が詰まっているので、興味深く一気に読んだ。良い本である。