「鈴木理策 熊野 雪 桜」 東京都写真美術館

東京都写真美術館目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
「鈴木理策 熊野 雪 桜」
9/1-10/21

今年度より写美ではじまった、「国際的に活躍する中堅作家」(展覧会チラシより。)を紹介するシリーズの第一弾です。1963年に和歌山で生まれ、最近では当地の熊野を撮り続けている写真家、鈴木理策の近作を紹介します。非常に見応えのある写真展でした。



ある意味で無機的な鈴木作品の特徴をあげるのは難しいのですが、どれも全体と細部が等しく浮かび上がってくるような、半ば写真の眼でしか見ることの出来ない光景が表現されています。例えば熊野の山の滝の筋や十勝の雪原は、その水しぶきや雪の粒が一つずつが浮き上がって静止しているかのように捉えられ、緑の眩しい木々も、その生命感や風の匂いを伝えずにただ泰然とあり、群衆のうごめく火祭りもその炎の赤だけが淡々と灯っていました。モチーフは紛れもなく大自然の光景ですが、そこにある美感は、半ば抽象を見る感覚に近いようにも思います。風景写真に相応しい表現ではないかもしれませんが、その雰囲気は哲学的であるとも言えそうです。



作品に魅力があるのはもちろんのこと、それを映えさせる展示空間がまた優れていました。今回紹介されているのは、主に熊野をモチーフにした「海と山とのあいだ」と吉野桜の「桜」、それに十勝の雪を捉えた最新作の「White」ですが、それぞれがまさに一つの場を作るかのように、ようはあたかもそこへ行ったかのような体験が出来るように展示しているのです。特に、熊野火祭りに見る闇の中の炎が、そのまま暗がりの中で瞬く白い雪の粒へと変化し、さらには輝かしい純白の雪や桜の世界へと導かれる様子は圧巻でした。各々の色と光を全身で浴びながら、写真を見るのではなく入っていくかのように楽しめる展示です。インスタレーションとして見ても高い完成度を誇っています。



鈴木の写真に示された情報の量は膨大ですが、そこより受ける印象は極めて研ぎすまされた純度の高い美の結晶でした。それにしてもこの華やかでなく、ストイックに輝く桜の存在からして特異です。これだけ咲き誇りながらも、ありがちな煩さが全くありません。

「鈴木理策 熊野、雪、桜/淡交社」

10月21日まで開催されています。これは強力におすすめします。(10/6)
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )