「谷文晁とその一門」(後期展示) 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「谷文晁とその一門」
9/8-10/21



幕末の江戸民間画壇の巨星(美術館HPより)・谷文晁(1763~1840)と、その門下の絵師たちの画業を辿る展覧会です。文晁と養子文一、実子文二ら谷一族と、その一門として活動した喜多武清、金子金陵、鈴木鵞湖、そして渡辺華山らが一堂に紹介されていました。



谷文晁というとどうしても文人画のイメージが強いのですが、意外なことにもその一門の作品は水墨や写生画など多岐にわたっています。ピンク色にも映えるすすきが秋を彩る文晁の「武蔵野水月図」はそれこそ抱一画のような詩情も見せ、また文晁の養子として才能を表した谷文一の「玉津嶋・明石浦・住吉浦図」は純大和絵風の作風を示し、さらには文晁の右腕として一門を支えたという喜多武清の「秋草図屏風」では、草花の様子が琳派顔負けにリズミカルに配されていました。もちろん制作の中心となっていたのは文人画ですが、それ以外のジャンルの作品を楽しめるのもこの展示の奥の深いところです。そもそも文晁と抱一との関係は密接だったとは聞きましたが、作品でもそれを表すものがあったとは知りませんでした。



展示のハイライトはやはり文晁の「山水図襖」でしょう。画面の中央にてそびえ立つ岩山が力強く迫出し、木々の生い茂る水際には小舟が風雅に浮いています。また山肌にうっすらと塗られた緑青と、木々の鮮やかな緑も目に飛び込んできました。ちなみにこの裏には、当時、文晁と並んで人気があったという絵師、春木南湖の「後赤壁図」が描かれています。残念ながらこの展示ではそれを見ることは叶いませんが、文晁との合作と言うことで、ある意味で非常に贅沢な作品であると言えそうです。



文晁一門でありながら、南蘋派にも学んだ金子金陵も興味深い存在です。彼は門人に椿椿山や渡辺華山らを抱えていたそうですが、その画風はまさに写実を極めたものとして見応えがあります。珍しいモチーフの西洋犬と牡丹を合わせた「牡丹遊狗図」や、若冲を連想させる鶏を二羽並べた「双鶏図」が印象に残りました。ちなみにその門下の華山では、蝙蝠が波間をぬうようにして群れる「福海図」が特徴的な一枚です。水墨にて即興的にも描かれた蝙蝠が13羽、不気味に舞っている光景が描かれていますが、タイトルにある福とは、蝙蝠の蝠の字がそれに通じていることに由来しているのだそうです。蝙蝠がお目出たい画題だったとは意外でした。



一推しは目賀田介庵の「蛍図」です。このモノクロの画像では分かりませんが、闇に舞う蛍が黄色く瞬き、実に幻想的な光景を見ることが出来ます。また、折重なる一枚の葉の上にのったキリギリスの描写も見逃せません。蛍の灯火を引き立てるかのように暗がりにまぎれて佇んでいます。

お馴染みの個性的なキャプションも健在でした。馴染みの薄い文晁一門の画を楽しみながら見られる良い機会だと思います。江戸絵画ファンには必見の内容です。

次の日曜日、21日まで開催されています。(10/13)
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