「Great Ukiyoe Masters/春信、歌麿、北斎、広重」(前期展示) 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館渋谷区松濤2-14-14
「Great Ukiyoe Masters/春信、歌麿、北斎、広重 - ミネアポリス美術館秘蔵コレクションより - 」
10/2-11/25(前期:10/2-28、後期:10/30-11/25)



確かにこれなら「秘蔵」とするのも間違いではありません。非常に保存状態の良い浮世絵が揃っています。日本美術部門では全米屈指のコレクションを誇る(ちらしより。)という、ミネアポリス美術館蔵の浮世絵展です。約3000点を数えるというそのコレクションのうち、副題にもある春信、北斎、歌麿、それに写楽らの作品全245点が、前後期に分けて紹介されていました。



ともかく挙げるべきは鈴木春信です。そもそも浮世絵でここまで色が美しく、またデリケートに表されているのを見たことがありませんが、この「水売り」(1765)からして繊細な色遣いに感じ入るものがあります。天秤棒に桶を吊るし、冷水を入れて売り歩く様子が描かれていますが、背景における淡く滲み出すような桃色の発色が絶品です。これは紅花よりとられたものですが、光にも弱いこの顔料がこれほど残っている作品は極めて珍しいのだそうです。まるで水彩を見るかのような瑞々しさをたたえていました。



春信では座鋪八景より、「塗桶の暮雪」(1766)も印象に残ります。これは、当時人気のあった近江八景などの山水画の画題を、春信が室内の情景に置き換えて制作した作品で、ここでは「比良の暮雪」の主題を桶の上で乾かす綿に変えて表現されています。(桶に被せられた綿の白みが、降り積もる雪山に見立てられているというわけです。)エンボスで示す綿の立体感はもちろんのこと、二人の女性の着物の細やかな柄と、桶の下に見る薄い朱色が実に魅力的でした。



色の鮮やかさという点においては、北斎の百物語より「こはだ小平二」(1831-32)の右に出るものはありません。上目遣いの亡骸がかやの縁から顔を覗かせる図版でもお馴染みの作品ですが、かやに見る深い青緑の透明感はもちろんのこと、亡骸に象られた筋肉の色までがほぼ完璧に残っていました。この発色の良さはとても150年以上前の浮世絵には見えません。目に染みるような美しさです。



八頭身美人のワイド版で魅せる、鳥居清長の「三囲神社の夕立」(1787)も見逃せない作品です。傘を手に、風雨にも洗われる女性たちが、清長らしい妖艶なポーズをとりながら臨場感も巧みにその場を彩っています。まずは、両端に並ぶ鳥居と門の発色にも見入るところですが、奥行きのある田を中央に配し、横と縦への広がりを感じさせるその構図感にも見事なものがありました。また彼女らの頭上には、この嵐を起こしてる雷神らも見え隠れしています。おおよそ、下界の光景など関せずともいうように寛いだ様を見せているのもまた面白いものです。



この他にも、後摺りだからこその鮮烈な色の輝きを楽しめる「赤富士」や、山肌のモザイクが丹念に塗り分けられている広重の箱根なども印象に残りました。それこそ、惹かれた作品を挙げていくとキリがないような魅力たっぷりの浮世絵展です。

前後期合わせても入場料は600円しかかかりません。内容の割に高価な図録を除けば、これ以上にないほどコストパフォーマンスの良い展覧会だと思います。

前期は28日まで、後期は30日より11月25日までの開催です。もちろん後期も見に行きます。(10/21)

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*関連リンク
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