「美の求道者 安宅英一の眼 安宅コレクション」 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「美の求道者 安宅英一の眼 安宅コレクション」
10/13-12/16



珠玉の東洋陶磁コレクションが何と30年ぶりに大阪からやって来ました。三井記念美術館で開催中の「安宅英一の眼 安宅コレクション」展です。実業家、安宅英一(あたかえいいち。1901~94)氏が収集し、後に大阪市立東洋陶磁美術館へと寄贈された世界屈指の東洋陶磁コレクション(全1000点)のうち、126点をここ東京で楽しむことが出来ます。





まず圧巻なのは国宝と重文の天目の共演です。金色の縁より牡丹雪が降りしきって積もり行くような「油滴天目」(南宋時代。国宝)と、葉脈や虫食いの跡まで残る葉を一枚、ひらりと器にたらした「木葉天目」(南宋時代。重文)は、ともに時間を忘れて見入ってしまうような魅力をたたえていました。これらはそれぞれ、豊臣秀次、加賀前田家が所有していたという歴史にも愛されて来た名品ですが、艶と深みを両立させた色と、思いの外に小ぶりな形の生み出す静けさ、そしてある意味で雄弁な滴の表情などを見る喜びは格別のものがあります。この2点だけを楽しむだけでも、日本橋まで足を運ぶ価値が十分にあるといえそうです。

安宅コレクションの中心は朝鮮陶磁です。特に、高麗時代、12、13世紀の青磁、及び白磁が充実しています。中でも、水辺で小さな白い鶴が群れる光景が描かれた「青磁象嵌六鶴文陶板」(高麗時代)や、花の模様が力強く這う「青磁逆象嵌牡丹文梅瓶」(高麗時代)などが印象に残りました。ちなみに逆象嵌とは、背景を象嵌(模様を彫った部分に赤土や白土を塗って白黒の色を加える方法。)したものだそうです。どこかゆるみを感じさせる紋様でありながら、無骨でかつシンプルな味わいに独特な美意識を見るような気がしました。



中国陶磁へ戻りますが、青みの鮮やかな「青花蓮池魚藻文壺」(元時代)も忘れられない一品です。水草の間をぬうようにして進む大きな金魚が、実にユーモラスな出で立ちで表現されています。どっしりとした壺に体躯の良い金魚と、何やら重厚感も思わせている壺です。思わず水をたっぷりと注ぎたくなります。



「油滴天目」と並んで評判の高い「飛青磁花生」(元時代)は、残念ながらその素晴らしさを感じるまでに至りませんでした。現在、大阪市立東洋陶磁美術館は改装のために休館していますが、今度は是非、現地でこの作品の魅力を発見したいと思います。

ところで展覧会のタイトルが、単に「大阪市立東洋陶磁美術館名品展」となっていないのは訳があります。それはもちろん、これらのコレクションが安宅氏のものであったことにも因んでいますが、随所にてそれぞれの作品を彼がどのように取得し、また愛していたのかというミニエピソードが紹介されているのです。(文章は東洋陶磁美術館の館長、伊藤郁太郎氏です。)価格が高過ぎて問題だとか、二点セットでないと売れないなど、生々しい話も満載でした。こちらも必見です。

三井での開催の後は福岡、さらに金沢へと巡回します。金沢21世紀美術館で見る東洋陶磁というのも興味がわきました。

12月16日までの開催です。おすすめします。(10/21)
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