ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007 「交響曲第8番、15番」 井上道義

ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007(Concert 8)

ショスタコーヴィチ 交響曲第8番、第15番

指揮 井上道義
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団

2007/12/9 15:00~ 日比谷公会堂 階下



日比谷公会堂をショスタコーヴィチ一色に染めたビックイベントも、とうとう千秋楽を迎えてしまいました。井上道義によるショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクトです。最終日は第8番と第15番のプログラムでした。

井上と新日フィルと言えば相思相愛ならぬ、意思疎通も密な関係にあるのかと思いますが、大変失礼ながらもこの日の演奏自体の精度はそれほど高いものではなかったように感じます。ヴァイオリンをはじめとする新日フィルの弦セクションはいつもながらの温かみと厚みのある音色でホールを満たしてくれましたが、如何せんトロンボーンをはじめとする金管のセクションがかなり不安定です。井上の解釈は8番でも15番でも、各フレーズをやや遅めのテンポでじっくり歌い上げるものでしたが、終始、言わばオーケストラとの噛み合ない部分があるように思えてなりませんでした。もちろん、井上のこの企画にかける類い稀な努力にはただただ頭が下がるばかりですが、最終日と言うことでどこか力んでしまった感もある、あまり突き抜けない演奏になってしまったのかもしれません。私はこの日の演奏であるならば、技術的にはもう一段難も多かったものの力強かった名フィルとの特に11番や、名演とも言って良い水準にあった広響との14番に軍配を挙げたいと思います。

第15番をホールで聴くのは初めてでしたが、どこをとっても非常に興味深いフレーズのオンパレードで楽しめました。ロッシーニ畢竟の名作「ウィリアム・テル」の序曲が殆ど茶化すかのようにして何度とも登場するかと思いきや、第二楽章では身の切れるほどに痛々しくまた美しい葬送曲が奏でられ、さらに第三楽章では一転して空元気などほどに高らかに鳴るファゴットや訥々と語るティンパニ、そして糸が絡むかのようにまとわりついて離れないヴァイオリンやトライアングル群が小刻みに動き回り、最終楽章では今度はトリスタン主題へと向かいながらもロマンス風の調べへと転化するという、少し追っかけるだけでも一として同じ表情をとらない目まぐるしさを見せています。まるでショスタコーヴィチが当時の体制と不思議な距離感を保ちながら、手を替え品を替え、全てに異なる表情を持った15曲の交響曲をつくってきた歴史を見るかのような印象さえ感じられました。彼は何故、ここに来て、かの侵略のエピソードの音楽を最後に挿入したのでしょうか。

終演後はミッチーに惜しみのない拍手が贈られて幕となりました。比較的マイナーとも言えるショスタコーヴィチの交響曲を、同一の会場で、しかもこれほど短いサイクルで演奏するというまさに金字塔をなし得た井上には心から感謝したいと思います。それこそショスタコーヴィチが一般化する(例えば、在京オケの定期でも頻繁に曲が演奏されることになるということですが。)契機にもなる演奏会だったかもしれません。終演後、井上によって掲げられ、そしてワインを振りかけられそうにもなったショスタコーヴィチの苦虫を噛み潰したような顔の写真も目に焼き付きました。

また僅か数回ではありますが、何度となく足を運んだ日比谷公会堂も名残惜しく感じられてなりません。音響面よりも設備的に色々難しい部分がありそうですが、是非この地で再度音楽を楽しみたいとも思いました。
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