「乾山の芸術と光琳」 出光美術館

出光美術館千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「乾山の芸術と光琳」
11/3-12/16(会期終了)



一度、乾山焼をじっくりと拝見したいと思っていた矢先、この上ない内容の展示に接することが出来ました。今月16日まで出光美術館で開催されていた「乾山の芸術と光琳」展です。

事実上、尾形乾山の回顧展の形式をとりながら、兄光琳との関係にも触れるという、意欲的でかつ充実した展覧会です。かの有名な鳴滝窯より晩年の江戸入谷時代までと、乾山の制作の過程を時系列に分かり易く追うことが出来ました。それにしても、乾山のことを殆ど知らない私にとっては、例えば光琳、乾山兄弟の父宗謙の末弟三右衛門が、樂家五代の宗入であったという事実からして驚きです。また乾山が一時、放蕩も伝えられる光琳にたまった借金の整理をすすめるなど、生々しい兄弟のエピソードなども紹介されていました。一般的に琳派の巨匠、光琳だけを見ると、なかなか乾山まで結びつかないことが多い(どうしても琳派の系譜から、関心のベクトルが宗達や光悦に向いてしまいます。)のですが、逆の乾山から入ると、兄弟関係を通しての新たな光琳の姿が浮かび上がってくるようにも思えます。もちろん展示では、主に鳴滝窯末期の頃に制作された兄弟合作の器も出ていました。見入ります。



「見知らぬ乾山」として興味深かったのは、彼が参禅した黄檗宗との関連から、それより摂取した中国や西欧の器を参考に様々な制作を続けていたということです。中国の氷裂文を原形に、緑や青などをモザイク状に配した「色絵石垣文角皿」は、まるでステンドグラスをのぞき込むかのような美しさをたたえています。(クレーの絵画を見るようでもありました。)また、デルフト窯をモチーフにとった「色絵阿蘭陀写横筋文向付」なモダンな味わいも大変に魅力的です。この色、形であれば、おそらく現代のダイニングにも十分に違和感なく溶け込んでいくでしょう。贅沢な話ですが、思わず日常で使ってみたくなるような作品でした。



乾山の類い稀な造形才能を感じる作品として一番に挙げたいのが、この「色絵芦雁文透彫反鉢」です。金色にも輝く芦雁文はかの宗達の意匠を思わせますが、直線上に配された黒の霞と、開口部に切り取られた透かしが何とも見事に組み合わされていました。言い換えれば、雁が下部でそよぐ緑色の草の元より飛び立ち、霞の雲を超え、さらには透かしの向こう側の空間へと消えて行く動きが鮮やかに表現されているとも出来るでしょう。造形と絵の意匠が、他に見られない一種の小宇宙を作り上げています。これは傑作です。

今回は陶片室でも関連の展示がありました。(また鳴滝窯の最新の発掘調査の成果も紹介されていました。)リニューアル後となる出光の、今年最後を飾るのに相応しい展覧会だったと思います。
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