都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ベルギー象徴派展」 Bunkamuraザ・ミュージアム 5/7

「ベルギー象徴派展」
4/15~6/12
先日、Bunkamuraザ・ミュージアムで「ベルギー象徴派展」を見てきました。期待以上の素晴らしい展覧会でした。
惹かれた作品はたくさんありました。まずは、ロップスの「魔性の女たち」です。「偶像・生贄・磔刑」の三連作ですが、どれも被写体はグロテスクであるのに、全体は鉛筆画の持つ柔らかな質感で覆われています。また、鈍く輝く光沢感もあって、独特の美しさも持ち合わせています。タッチの繊細さと造形の深さにも魅せられました。表現力に優れた作品だと思います。
メルリの作品では、静寂を感じさせる室内を描いた、「ベギン会修道院」と「扉」が美しいと思いました。「修道院」が鉛筆画、「扉」が油絵と、質感は全く異なりますが、淡い光が差し込んだ薄暗い室内の様子が同一の印象を与えて、一切の生活感を感じさせません。「修道院」では、背中を向けた一人の修道女が部屋へ入って行く光景が描かれていますが、彼女は浮遊しているかのような実体のなさで、生身の人間かどうかすら疑わせるような存在感を漂わせていました。
展覧会前半のハイライトは、フレデリックの三枚の大作である「聖三位一体」ではないでしょうか。主題の「父・子・精霊」が、妖気を思わせるような表現で描かれています。私が一番気に入ったのは、三枚目の精霊を描いた作品です。精霊は鳩に表されていますが、フレデリックの創作だという、白いローブに身をまとった少女の姿が印象的です。彼女は素足で大蛇の頭を力強く踏みつけていて、その傍らに食べかけのリンゴが転がっています。「原罪」のイメージを思わせるモチーフと、苦しみを感じさせるような表現に目を奪われました。また他にも、画面から飛び出してくるのではないかと思わせるほど生々しい老人の姿を描いた「祝福を与える人」や、艶やかな「赤」と底抜けの「黒」の強烈な対比が見事な「三姉妹」も面白い作品だと感じました。
ローデンバックの「死都ブリュージュ」を思わせるような暗鬱なブリュージュの街を、パステルで繊細に表現したクノップフの「ブリュージュ」(正門、ブリュージュのたたずまい、聖ヨハネ施療院など。)の作品は、詩的な幻想世界がこの世に存在するかのようなリアリティーが感じられます。パステルの持つ軽やかなタッチは、ブリュージュの湿り気のある雰囲気を醸し出しています。水面に映る建物の陰や、街に降り注ぐ穏やかな光の細やかな線も見事で、ブリュージュの詩的慕情に誘われるものばかりでした。
風景画では、グルーの「夜の効果」と、ヌンクの「爛れた森」も素晴らしかったと思います。「夜の効果」は、クノップフの「ブリュージュ」と同じパステル画です。キャプションにも書かれていましたが、この作品は幻想的というよりも神秘的な夜の風景が描かれています。あまりにも美しくてただただ見とれるばかりです。地平線が広がる豊かな大地に佇む小さな家々。そこに住むのは人間ではなく妖精かもしれません。一方、「爛れた森」は、池か沼の淵のある水に浸食された深い森が、幹ばかりたくさん描かれた視点の低い作品です。幹から根にかけてのたくましい表現力は、いまにも動き出さそうとするような木々の生命感を感じさせます。木の上部の枝や葉は殆ど描かれていません。全体像が掴めないのも、森の底抜けの深さを思わせます。人の立ち入りを拒むかのような険しい森でもありました。
これぞ象徴派というようなデルヴィルの作品の中では、有名な「死せるオルフェウス」に最も魅せられました。光沢感のある美しい「青」が、竪琴に合わさったオルフェウスの甘いマスクの描写と相まって、荘厳な世界観を見せてくれます。彼の他の作品よりも断然飛び抜けて感じられました。これは深く印象に残ります。
象徴派と関係の深いワーグナーも登場します。彼の肖像(ワーグナーの肖像」)を描いたグルーは、オランダ人のゼンタも描いています。(「ゼンタ、さまよえるオランダ人より」)剛胆なゼンタが、まるで天女のように荒波の上に立ち、不適な笑みを浮かべながらこちらを見つめていました。ぞくっとするような目つきです。また、デルヴィルにも「パルジファル」という作品がありました。こちらは、祝福の光を浴びる輝かしいパルジファル描いたもので、鮮やかな金髪が後ろへなびくパルジファルの姿が印象的でした。
作品数は決して多くありません。クセのあるものや、完成度があまり高くないと見受けられる作品もありました。しかしながらその点を省けば相当にハマった展覧会です。耽美と幻想には、我を忘れてしまう恐ろしい魔力が秘められているのでしょうか。久々に恍惚とした時間を過ごしました。
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サテュロスの引き揚げ料はいくら?
こんにちは。
至宝サテュロスの現金な話です。
発見の漁師ら、報奨金心待ち 万博で展示のブロンズ像(Sankei Web)
愛知万博に展示されている古代ギリシャのブロンズ像「踊るサテュロス」を海底から網で引き揚げたイタリア・シチリア島の漁師たちが、発見の報奨金支払いを心待ちにしている。ANSA通信が11日、伝えた。
像は1998年3月、操業中の漁船が水深500メートルの海底から引き揚げた。500万ユーロ(約6億8000万円)相当の価値があるとされる。
イタリアでは、拾い主に価値の25%を支払うことが義務づけられているそうです。サテゥロスは第一級の「超お宝」ですから、漁師の方々も相応の取り分を期待されているのでしょう。しかし、価値の500万ユーロとはどのような算定にて決定されたのでしょうか。気になるところです。
現在サティロスは愛知万博で展示されています。私も東京国立博物館の特別展示で拝見しました。(その時の記事はこちら。)東博での展示もバッチリ決まっていましたから、万博でもその魅力を十分に発揮しているのでしょう。このまま平穏に展示が終わり、イタリアへ無事に凱旋することを祈りたいです。
至宝サテュロスの現金な話です。
発見の漁師ら、報奨金心待ち 万博で展示のブロンズ像(Sankei Web)
愛知万博に展示されている古代ギリシャのブロンズ像「踊るサテュロス」を海底から網で引き揚げたイタリア・シチリア島の漁師たちが、発見の報奨金支払いを心待ちにしている。ANSA通信が11日、伝えた。
像は1998年3月、操業中の漁船が水深500メートルの海底から引き揚げた。500万ユーロ(約6億8000万円)相当の価値があるとされる。
イタリアでは、拾い主に価値の25%を支払うことが義務づけられているそうです。サテゥロスは第一級の「超お宝」ですから、漁師の方々も相応の取り分を期待されているのでしょう。しかし、価値の500万ユーロとはどのような算定にて決定されたのでしょうか。気になるところです。
現在サティロスは愛知万博で展示されています。私も東京国立博物館の特別展示で拝見しました。(その時の記事はこちら。)東博での展示もバッチリ決まっていましたから、万博でもその魅力を十分に発揮しているのでしょう。このまま平穏に展示が終わり、イタリアへ無事に凱旋することを祈りたいです。
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東京都、文化施設に「指定管理者制度」を導入
こんにちは。
東京都の文化施設に「指定管理者制度」が導入される模様です。09年度からだそうです。
都の文化施設の運営主体、企業にも門戸 09年度から(asahi.com)
東京文化会館や江戸東京博物館、都現代美術館など、首都の文化を支えてきた東京都の主要文化施設6館が民間企業によって運営される可能性が出てきた。都が09年度以降の6館の運営主体を、企業にも門戸を開いた公募で決め、委託する方針を固めたためだ。03年秋に導入された「指定管理者制度」で可能になった。6館で年間計600万人超が訪れることもあり、全国への波及も予想される。
記事にもありますが、6館とは、
東京文化会館
都美術館
江戸東京博物館
都現代美術館
都写真美術館
東京芸術劇場
のことです。
現在、全ての施設は東京都歴史文化財団(特殊法人)によって委託管理されていますが、09年度には民間会社の委託運営となるかもしれません。東京都では、少し前に都響の「リストラ」が発表されたところです。管理者制度とは異なる施策ではありますが、既存の文化への「合理化」と、その上での新たな可能性を見出そうとする視点は同じかと思います。
全国への波及とも書かれていますが、既に「指定管理者制度」の導入を検討している自治体はかなりあるようです。asahi.comの別の記事には、島根県の例が取り上げられていました。
現代美術館や写真美術館などは、今でも集客を相当に意識した展覧会が行われています。制度による民間委託によって、さらなる経済性を求められた時、どのような運営になるのか、そしてそこで提示される「文化」が如何なるものになるのかは、今の段階では未知数です。選考は06年度だそうです。どのような企業が手を挙げるのでしょうか。官にはない民の知恵が上手く生かされることを願うばかりです。
東京都の文化施設に「指定管理者制度」が導入される模様です。09年度からだそうです。
都の文化施設の運営主体、企業にも門戸 09年度から(asahi.com)
東京文化会館や江戸東京博物館、都現代美術館など、首都の文化を支えてきた東京都の主要文化施設6館が民間企業によって運営される可能性が出てきた。都が09年度以降の6館の運営主体を、企業にも門戸を開いた公募で決め、委託する方針を固めたためだ。03年秋に導入された「指定管理者制度」で可能になった。6館で年間計600万人超が訪れることもあり、全国への波及も予想される。
記事にもありますが、6館とは、
東京文化会館
都美術館
江戸東京博物館
都現代美術館
都写真美術館
東京芸術劇場
のことです。
現在、全ての施設は東京都歴史文化財団(特殊法人)によって委託管理されていますが、09年度には民間会社の委託運営となるかもしれません。東京都では、少し前に都響の「リストラ」が発表されたところです。管理者制度とは異なる施策ではありますが、既存の文化への「合理化」と、その上での新たな可能性を見出そうとする視点は同じかと思います。
全国への波及とも書かれていますが、既に「指定管理者制度」の導入を検討している自治体はかなりあるようです。asahi.comの別の記事には、島根県の例が取り上げられていました。
現代美術館や写真美術館などは、今でも集客を相当に意識した展覧会が行われています。制度による民間委託によって、さらなる経済性を求められた時、どのような運営になるのか、そしてそこで提示される「文化」が如何なるものになるのかは、今の段階では未知数です。選考は06年度だそうです。どのような企業が手を挙げるのでしょうか。官にはない民の知恵が上手く生かされることを願うばかりです。
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「屏風というかたちで」/「中岡真珠美展」 東京オペラシティーアートギャラリー 5/3
東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿)
「収蔵品展 屏風というかたちで」
「projectN 21 中岡真珠美」
4/8~6/26
「谷口吉生のミュージアム」と同時開催中の展覧会です。大変失礼ながら、このシリーズはいつも流し目で通り過ぎてしまうのですが、今回は興味深く拝見することができました。見応えのある作品ばかりです。
まずは収蔵品展の「屏風というかたちで」です。これは、現代作家による屏風画(日本画)が一同に会した内容となっています。私はいわゆる現代アートで、このような形態の作品を初めて見たのですが、こうしてまとまって展示されること自体が貴重な機会だと思いました。どうなのでしょうか。
会場に並ぶ屏風画はどれも凄まじい存在感です。屏風という特殊な形に魂が吹き込まれると、何故にこうも迫力が増すのでしょうか。細かく書き込まれた可愛らしい魚が、巨大な海中を遊泳する西野陽一の「竜宮」や、ゴツゴツした質感が圧倒的な山口啓介の「RNA World:5つの空5つの海」を前にした時、ただただ唖然と佇むしかありません。屏風は、平面でありながらある意味で立体という特性がありますが、それを生かした表現は無限大に広がりそうです。
「projectN」は、オペラシティーが若手作家を支援する目的で開催しているシリーズです。今回は、1978年生まれで、最近グループ展でご活躍中という中岡真珠美さんの展示でした。彼女の作品は、水色や藤色などの「和」を思わせるような絵の具が、カンヴァス一面に伸びやかに広がっていくものです。所々で光沢感と艶を感じる「色」もありましたが、それはアクリル絵の具を使用した質感とのことでした。また、一見抽象的でありながらも、どことなく具体的な何かに見える気配が感じられます。パンフレットによれば、彼女は写真で風景を撮り、それを「形」に置き換えながらカンヴァスへ移すのだそうです。この行為を「翻訳」と説明されていましたが、その過程で具体と抽象が入り交じるのでしょうか。豊かな想像力を思わせるような作品でした。
谷口展と同じチケットで入場出来ます。(個人的には分けて販売しても良いかとは思いますが…。)建築とはジャンルが異なるせいか、あまり立ち寄っておられる方がいらっしゃいませんでしたが、大変面白い展覧会でした。
「収蔵品展 屏風というかたちで」
「projectN 21 中岡真珠美」
4/8~6/26
「谷口吉生のミュージアム」と同時開催中の展覧会です。大変失礼ながら、このシリーズはいつも流し目で通り過ぎてしまうのですが、今回は興味深く拝見することができました。見応えのある作品ばかりです。
まずは収蔵品展の「屏風というかたちで」です。これは、現代作家による屏風画(日本画)が一同に会した内容となっています。私はいわゆる現代アートで、このような形態の作品を初めて見たのですが、こうしてまとまって展示されること自体が貴重な機会だと思いました。どうなのでしょうか。
会場に並ぶ屏風画はどれも凄まじい存在感です。屏風という特殊な形に魂が吹き込まれると、何故にこうも迫力が増すのでしょうか。細かく書き込まれた可愛らしい魚が、巨大な海中を遊泳する西野陽一の「竜宮」や、ゴツゴツした質感が圧倒的な山口啓介の「RNA World:5つの空5つの海」を前にした時、ただただ唖然と佇むしかありません。屏風は、平面でありながらある意味で立体という特性がありますが、それを生かした表現は無限大に広がりそうです。
「projectN」は、オペラシティーが若手作家を支援する目的で開催しているシリーズです。今回は、1978年生まれで、最近グループ展でご活躍中という中岡真珠美さんの展示でした。彼女の作品は、水色や藤色などの「和」を思わせるような絵の具が、カンヴァス一面に伸びやかに広がっていくものです。所々で光沢感と艶を感じる「色」もありましたが、それはアクリル絵の具を使用した質感とのことでした。また、一見抽象的でありながらも、どことなく具体的な何かに見える気配が感じられます。パンフレットによれば、彼女は写真で風景を撮り、それを「形」に置き換えながらカンヴァスへ移すのだそうです。この行為を「翻訳」と説明されていましたが、その過程で具体と抽象が入り交じるのでしょうか。豊かな想像力を思わせるような作品でした。
谷口展と同じチケットで入場出来ます。(個人的には分けて販売しても良いかとは思いますが…。)建築とはジャンルが異なるせいか、あまり立ち寄っておられる方がいらっしゃいませんでしたが、大変面白い展覧会でした。
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「谷口吉生のミュージアム」 東京オペラシティアートギャラリー 5/3

「谷口吉生のミュージアム -ニューヨーク近代美術館[MoMA]巡回建築展- 」
4/8~6/26
こんにちは。
オペラシティアートギャラリーで開催中の「谷口吉生のミュージアム」を見てきました。
展覧会のスペースの約半分は、MoMAの紹介で占められています。展示室に入ってすぐ目につくのはMoMAの大きな模型です。1929年の創立以来、一度の移転と三度の増改築を行なってきたMoMAは、谷口の手によってさらに大きく生まれ変わったようです。一棟の高層ビルといくつかの中層ビルが重なり合った建物は、思ったよりも狭い敷地にありました。大きな箱がいくつか合わさったような複合的な形です。また、美術館内部の動線やスペースの確保などにも当然のごとく細心の注意が払われたのでしょう。模型と並んで展示されている写真からは、シンプルでかつ開放的で、光がたっぷり取り込まれた様子が見てとれました。また、ミニマル音楽にのってスクリーン上映されるMoMAの様子も臨場感を高めます。膨大な設計図も自由に閲覧することが可能で、まさに至れり尽くせりの展示だったと思います。
MoMA以外は、国内の谷口建築が紹介されていました。私が一番印象に残ったのは、子どもの頃から何度か訪れたことのある葛西臨海水族園でしょうか。最近でこそあまり出向かなくなりましたが、昔はこの水族館が大好きで、エントランスドームの淵から、東京湾やディズニーランドを良く眺めていたことを覚えています。また、ドームの周囲に張られている水面と、後ろに広がる海水面が重なって見えるのも、美感をそそる演出です。キラキラしたガラスドームと、東京湾のメタリックな光沢の一体感は、何とも言えない開放感があります。久々にまた行きたくなりました。
豊田市美術館も気になりました。ここは前々から行きたくて仕方がないのですが、映像でも美しく見えた円形のプールが印象的でした。また、愛知万博での実現しなかった作品も、後背の森と一体化するような建物で、完成していたらさぞかし面白かっただろうと思わせるものです。近未来を感じさせるような広島のゴミ処理場も楽しめました。
私のような素人でも楽しめる分かりやすさがある一方で、一定の専門性も確保した、バランスの良い展覧会だったと思います。建築展は実際の建物への興味を増幅させます。この目で見て、この手で触りたい建物ばかりでした。
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「魅惑の17-19世紀フランス絵画展」 損保ジャパン東郷青児美術館 5/3

「南仏モンペリエ ファーブル美術館所蔵 魅惑の17-19世紀フランス絵画展」
4/23~7/15
こんにちは。
新宿の東郷青児美術館で「魅惑の17-19世紀フランス絵画展」を見てきました。
メインはやはりクールベの作品でしょうか。日本初公開という「出会い、こんにちはクールベさん」が一番目立つところに展示されています。あまりにもストレートなタイトルなので、見る前の期待感が殆ど湧きませんが、実際に拝見すると予想以上に素晴らしい作品です。光がたっぷり取り込まれたカンヴァスの中に、クールベ本人を含めた男性が三名。機嫌の良さそうな犬がアクセントとなっています。大木を前にして挨拶を交わしているのでしょうか。木の影が三人の後方へ長く伸びている様も印象的です。日常の一コマを堂々とした歴史画のような表現で描いた作品とのことですが、確かに見応えはありました。
カミーユ・ロクプサンの「海景、人物のいる浜辺」は、陽の光が燦々と降り注ぐ美しい海岸が印象的な作品です。太陽の光が、絶え間なく打ち寄せる波にたっぷり反射しているせいか、カンヴァス全体が明るさで満ち溢れています。幸福感が漂います。また、同じ風景画では、コローの「朝、霧の効果」も素晴らしい作品だと思いました。高台から見下ろした雄大な景色は一面の朝霧で覆われています。水墨画のような繊細で動きのあるタッチが、全体を淡い基調で整えて美しさを引き出しています。ぼやけるようにして薄く見える画面右側の大きな木の表現も良いと思いました。
幻想的で詩的な世界を見せてくれたのはカリエールの作品です。「髪を結う女性」と「マルグリット・カリエールの肖像」は、二点とも人物画ですが、霞がかかったような独特の表現が夢の世界へと誘ってくれます。ただ、これらは幻想的で恍惚とするだけの作品ではありません。その向こう側にある苦悩や絶望などの感情も投影してくるような作品です。その辺もカリエールの味わいなのでしょうか。こういう作品はとても惹き込まれます。
肉感的で温かみのある表現が美しいグルーズの「両手を合わせた少女」や、色とりどりの点描で世界を鮮やかに描き出したロジェの「通称ロールの道」も印象に残りました。また、マティスやドラクロワの描いた比較的マイナーな作品も展示されています。じっくり立ち止まって鑑賞したくなるものと、殆ど素通りしてしまう作品に二分されるようにも思いましたが、隠れた名画探しの趣きも感じられる穴場的な展覧会でした。
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「加藤泉展 裸の人」 SCAI THE BATHHOUSE 5/5

「加藤泉展 裸の人」
4/9~5/7
こんにちは。
上にアップした写真のような、一見、人の形をした立体作品が、SCAIの中にポツンポツンと置かれています。大きさやポーズは様々ですが、どの作品も質感が荒々しくて、目を凝らすと生傷を見ているような生々しさを感じます。全ての作品は壁面に沿うように置かれていて、中には壁に手をかける仕草をしているものもありました。奇妙な哀愁感を漂わせています。また、今日ほどSCAIの空間が広く感じたことはありません。作品の「何か」が空間を広く見せていたのでしょうか。どことなく曖昧で、ゆったりとした時間が流れていました。
平面作品の一つに惹かれました。濃い紺色で覆われたカンヴァスの中に、人のような形をした存在が一つ。カンヴァスの中へ溶け込もうとしているのか、それとも出ようとしているのか、どんよりと淀んでいる「紺」の動きも印象的でした。加藤氏は、立体よりも先に平面の方の造形に取り組んでいたそうです。カンヴァスの中の存在が外へ飛び出したのが立体作品なのでしょうか。
何だかよく分からない存在を、恐らくこうだろうとして見ることを拒絶するかのようです。空間や形、それに見る人の関係を混ぜ合わせるような力を感じました。作品を通した孤独や不安感が脳裏に浮かぶ展覧会です。明日までの開催です。
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5月の気になる展覧会/コンサート/映画
こんにちは。
ゴールデンウィークも終盤に差し掛かりました。幸いにも全国的に天候が恵まれていて、行楽地はどこも混雑しているそうです。色々とゴタゴタのあった愛知万博も、ここに来て入場者数が大きく伸びてきたとか…。報道によると、一部のパビリオンは朝から六時間待ちだったとも言われています。ゴッホ展の行列ですら恐れをなしている私にとっては、驚異的な待ち時間です。もう少し忍耐強くならなくてはいけません…。(?)
さて、今月の予定をたててみました。
展覧会
「谷口吉生のミュージアム」 東京オペラシティアートギャラリー(6/26まで)
「魅惑の17-19世紀フランス絵画展」 損保ジャパン東郷青児美術館(7/15まで)
「加藤泉展 -裸の人- 」 SCAI THE BATHHOUSE(5/7まで)
「ゴッホ展 -孤高の画家の原風景- 」 東京国立近代美術館(5/22まで)
「小倉遊亀展」 三越日本橋本店新館ギャラリー(5/29まで)
「クールベ美術館展 -故郷オルナンのクールベ- 」 三鷹市美術ギャラリー(6/5まで)
「ベルギー象徴派展」 Bunkamuraザ・ミュージアム(6/12まで)
「秘すれば花 東アジアの現代美術」 森美術館(6/19まで)
「時代を切り開くまなざし -木村伊兵衛写真賞の30年- 」 川崎市市民ミュージアム(6/19まで)
コンサート
「コンチェルト・ケルン 熱狂の日音楽祭」 ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」/ロイス/東京国際フォーラム 1日20:45~
「新日本フィル第385回定期」 ブルックナー「交響曲第7番」他/ハウシルト/トリフォニーホール 20日19:15~
「フィラデルフィア管弦楽団来日公演」 マーラー「交響曲第9番」/エッシェンバッハ/サントリーホール 23日19:00~
映画
今月の予定はありません。
展覧会のうち、オペラシティーの「谷口展」と、損保ジャパンの「フランス絵画展」は、昨日見てきました。ちなみに「谷口展」では、同時開催中の収蔵品展、「屏風というかたちで」と、projectNの「中岡真珠美展」も大変興味深い内容でした。こちらの感想も合わせて近いうちにアップしたいです。
SCAIでの「加藤泉展」は、feltmountainさんのレビューと、作品の奇妙な写真を見て興味を覚えました。今週の土曜日までの開催なので、明日か最終日にでも行こうかと思っています。
三鷹市民ギャラリーの「クールベ展」は、先日「フランス絵画展」で接したクールベの作品を、もっと見ようと思って計画した展覧会です。おけはざまさんのご感想も合わせて参考にさせていただきました。
「ベルギー象徴派」や、先月行き損ねた「ゴッホ展」と「東アジアの現代美術」は、今月の目玉的な展覧会となりそうです。さらに一段と混雑が増したという「ゴッホ展」は、なるべく平日に行こうかと思っています。
三越での「小倉遊亀展」は、以前に拙ブログでも紹介させていただいた画家の個展です。実は私、この展覧会の開催を全く知らなかったのですが、ご親切にもTakさんが教えて下さいました。改めましてありがとうございます。
川崎市民ミュージアムも楽しみです。木村伊兵衛賞の回顧的な写真展ももちろんですが、まだ一度も行ったことのない美術館です。(しばらく前にNHKのクローズアップ現代でも取り上げられていて、記事にしたことがありました。)どうなのでしょうか。
コンサートは、先日感想をアップしたコンチェルト・ケルンを含めて三つほど予定してみました。ハウシルトのブルックナーは今まで一度も聞いたことがないのですが、知人からなかなか立派な演奏であるとの噂を聞きました。先入観なしで聴いてみます。フィラデルフィアのマーラーももちろん楽しみです。
映画については予定を入れませんでした。ですが、来月に有楽町でドイツ映画祭が、また、横浜でフランス映画祭が行なわれるそうなので、そちらを拝見しようかと思っています。
*4月の記録*(リンクは私の感想です。)
展覧会
2日 「横山大観展」 三越日本橋本店ギャラリー
3日 「長谷川等伯の美」 出光美術館
9日 「スペイン現代写真家10人展/写真はものの見方をどのように変えてきたか第1部」 東京都写真美術館
16日 「ルオー展」 東京都現代美術館
29日 「桜さくらサクラ・2005」 山種美術館
30日 「タピエス展」 原美術館
コンサート
10日 「N響第1538回定期Aプロ」 バルトーク「管弦楽のための協奏曲」他/メルクル
18日 「ベルリン・ドイツ響来日公演」 ブルックナー「交響曲第6番」他/ナガノ
映画
24日 「ラミアの白い凧」 アラブ映画祭2005
四月も盛りだくさんでした。展覧会はどれも素晴らしかったものばかりです。独特な質感の味わいが良いルオーと、タピエスの深い余韻感。スペインの写真展も予想以上に美しいものでした。また、今月はかなり多くの日本画を鑑賞しました。大観はしばらく追っかけるかもしれません…。
コンサートは予定していた「フィガロ」をパスしてしまいましたが、何と言ってもナガノとベルリン・ドイツ響の演奏が一番であったと思います。何故かあまり演奏されないブルックナーの第六交響曲を、これでもかと言うほど力強く聴かせてくれました。
映画は、アラブ映画祭の人気作品である「ラミアの白い凧」を鑑賞しました。この企画は毎年行なわれているのでしょうか。来年も是非参加したいです。
五月も欲張り気味に予定を立てました。積極的に見て聴きたいと思います。
ゴールデンウィークも終盤に差し掛かりました。幸いにも全国的に天候が恵まれていて、行楽地はどこも混雑しているそうです。色々とゴタゴタのあった愛知万博も、ここに来て入場者数が大きく伸びてきたとか…。報道によると、一部のパビリオンは朝から六時間待ちだったとも言われています。ゴッホ展の行列ですら恐れをなしている私にとっては、驚異的な待ち時間です。もう少し忍耐強くならなくてはいけません…。(?)
さて、今月の予定をたててみました。
展覧会
「谷口吉生のミュージアム」 東京オペラシティアートギャラリー(6/26まで)
「魅惑の17-19世紀フランス絵画展」 損保ジャパン東郷青児美術館(7/15まで)
「加藤泉展 -裸の人- 」 SCAI THE BATHHOUSE(5/7まで)
「ゴッホ展 -孤高の画家の原風景- 」 東京国立近代美術館(5/22まで)
「小倉遊亀展」 三越日本橋本店新館ギャラリー(5/29まで)
「クールベ美術館展 -故郷オルナンのクールベ- 」 三鷹市美術ギャラリー(6/5まで)
「ベルギー象徴派展」 Bunkamuraザ・ミュージアム(6/12まで)
「秘すれば花 東アジアの現代美術」 森美術館(6/19まで)
「時代を切り開くまなざし -木村伊兵衛写真賞の30年- 」 川崎市市民ミュージアム(6/19まで)
コンサート
「コンチェルト・ケルン 熱狂の日音楽祭」 ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」/ロイス/東京国際フォーラム 1日20:45~
「新日本フィル第385回定期」 ブルックナー「交響曲第7番」他/ハウシルト/トリフォニーホール 20日19:15~
「フィラデルフィア管弦楽団来日公演」 マーラー「交響曲第9番」/エッシェンバッハ/サントリーホール 23日19:00~
映画
今月の予定はありません。
展覧会のうち、オペラシティーの「谷口展」と、損保ジャパンの「フランス絵画展」は、昨日見てきました。ちなみに「谷口展」では、同時開催中の収蔵品展、「屏風というかたちで」と、projectNの「中岡真珠美展」も大変興味深い内容でした。こちらの感想も合わせて近いうちにアップしたいです。
SCAIでの「加藤泉展」は、feltmountainさんのレビューと、作品の奇妙な写真を見て興味を覚えました。今週の土曜日までの開催なので、明日か最終日にでも行こうかと思っています。
三鷹市民ギャラリーの「クールベ展」は、先日「フランス絵画展」で接したクールベの作品を、もっと見ようと思って計画した展覧会です。おけはざまさんのご感想も合わせて参考にさせていただきました。
「ベルギー象徴派」や、先月行き損ねた「ゴッホ展」と「東アジアの現代美術」は、今月の目玉的な展覧会となりそうです。さらに一段と混雑が増したという「ゴッホ展」は、なるべく平日に行こうかと思っています。
三越での「小倉遊亀展」は、以前に拙ブログでも紹介させていただいた画家の個展です。実は私、この展覧会の開催を全く知らなかったのですが、ご親切にもTakさんが教えて下さいました。改めましてありがとうございます。
川崎市民ミュージアムも楽しみです。木村伊兵衛賞の回顧的な写真展ももちろんですが、まだ一度も行ったことのない美術館です。(しばらく前にNHKのクローズアップ現代でも取り上げられていて、記事にしたことがありました。)どうなのでしょうか。
コンサートは、先日感想をアップしたコンチェルト・ケルンを含めて三つほど予定してみました。ハウシルトのブルックナーは今まで一度も聞いたことがないのですが、知人からなかなか立派な演奏であるとの噂を聞きました。先入観なしで聴いてみます。フィラデルフィアのマーラーももちろん楽しみです。
映画については予定を入れませんでした。ですが、来月に有楽町でドイツ映画祭が、また、横浜でフランス映画祭が行なわれるそうなので、そちらを拝見しようかと思っています。
*4月の記録*(リンクは私の感想です。)
展覧会
2日 「横山大観展」 三越日本橋本店ギャラリー
3日 「長谷川等伯の美」 出光美術館
9日 「スペイン現代写真家10人展/写真はものの見方をどのように変えてきたか第1部」 東京都写真美術館
16日 「ルオー展」 東京都現代美術館
29日 「桜さくらサクラ・2005」 山種美術館
30日 「タピエス展」 原美術館
コンサート
10日 「N響第1538回定期Aプロ」 バルトーク「管弦楽のための協奏曲」他/メルクル
18日 「ベルリン・ドイツ響来日公演」 ブルックナー「交響曲第6番」他/ナガノ
映画
24日 「ラミアの白い凧」 アラブ映画祭2005
四月も盛りだくさんでした。展覧会はどれも素晴らしかったものばかりです。独特な質感の味わいが良いルオーと、タピエスの深い余韻感。スペインの写真展も予想以上に美しいものでした。また、今月はかなり多くの日本画を鑑賞しました。大観はしばらく追っかけるかもしれません…。
コンサートは予定していた「フィガロ」をパスしてしまいましたが、何と言ってもナガノとベルリン・ドイツ響の演奏が一番であったと思います。何故かあまり演奏されないブルックナーの第六交響曲を、これでもかと言うほど力強く聴かせてくれました。
映画は、アラブ映画祭の人気作品である「ラミアの白い凧」を鑑賞しました。この企画は毎年行なわれているのでしょうか。来年も是非参加したいです。
五月も欲張り気味に予定を立てました。積極的に見て聴きたいと思います。
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来年の「熱狂の日」はモーツァルト!?
今日の朝日新聞朝刊文化面に、「クラシック活性化にヒント 熱狂の日音楽祭に30万人」というタイトルの記事が掲載されていました。内容は、今回の「熱狂の日」を「大成功」として位置づけた上で、それをクラシック業界の今後にどう繋げるのかを問うものです。その中に「来年も5月4日~6日、モーツァルトをテーマに開催が決定。」と書かれていました。まだ公式のアナウンスがありませんので何とも言いようがありませんが、2006年の「熱狂の日」はモーツァルトということでほぼ決定の模様です。これは今から楽しみです。
公式HPにも記事にも載っていましたが、主催者側のアンケート(解答430人。)によれば、来場者の約半数以上がクラシックビギナー(年のコンサート回数が一回から二回以下。)の方だったそうです。また、来年も参加したいと答えた方は何と全体の95%以上だったとか。主催者側としても、予想以上のチケットの売れ行き(目標を3万5千枚上回った。)や、このようなアンケートの声に自信を持って来年の企画に取り組むのでしょう。今年の不備をカバーしながら、是非とも息の長い企画としていただきたいものです。
公式HPにも記事にも載っていましたが、主催者側のアンケート(解答430人。)によれば、来場者の約半数以上がクラシックビギナー(年のコンサート回数が一回から二回以下。)の方だったそうです。また、来年も参加したいと答えた方は何と全体の95%以上だったとか。主催者側としても、予想以上のチケットの売れ行き(目標を3万5千枚上回った。)や、このようなアンケートの声に自信を持って来年の企画に取り組むのでしょう。今年の不備をカバーしながら、是非とも息の長い企画としていただきたいものです。
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原美術館 「タピエス - スペインの巨人 熱き絵画の挑戦」 4/30

「タピエス - スペインの巨人 熱き絵画の挑戦」
3/30~5/29
先日、原美術館でアントニ・タピエスの個展を見てきました。国際巡回展であるこの展覧会は、日本では原美術館のみの開催です。タピエスはまとまった形で紹介されることが少ないと聞きました。今回は貴重な機会なのかもしれません。
さて、タイトルに「熱き絵画の挑戦」とありますが、私には「熱き」という言葉の説明されるような要素を殆ど感じとることが出来ませんでした。もちろん、だからと言って、冷たくて無機質な印象を受けたわけではありません。むしろ、土着的な人懐っこさから生まれる素朴な表情と、原始宗教での信仰の対象となりそうな、言わばアニミズム的な世界観をイメージさせられます。言わば、作品には、それぞれの精霊や霊魂が宿っているような、神秘的な気配すら漂っていました。
また、タピエスの作品を「絵画」と定義するのも無理があるように思います。もちろん、カンヴァスに絵具という構成も多いのですが、その質感はもはや絵画を大きく超えていて、何かのオブジェのような印象を受けます。「熱き絵画の挑戦」とは一体何を意味するのでしょうか。先入観をあまり持たないで作品と対峙した方がより面白く味わえそうです。
彼の作品は、観る者をジワジワとその世界へ引き込む力があります。しかし、その作品を言葉で説明するのはかなり難しいことだと感じました。(私の語彙力のなさを棚に上げて偉そうに語っていますが…。)作品を前にして、そこにある形や素材、そして全体の質感などを丹念に一つずつ追いかけていき、その上で、作品と触れ合うように鑑賞する。デリケートな扱いを要求します。「美術」として構えて、その「意味」や「意義」を見出そうとすると、面白くない作品として捉えてしまう恐れがあるかもしれません。あくまでも自然体で鑑賞したいものばかりです。
「白のレリーフ」(1959年)は、カンヴァスから湧いて溢れるような「白」が印象的でした。全体からはどことない寂しさが発せられていますが、不思議にも広がりを感じるのに限界を思わせる作品でもあります。また、「赤い十字架のある絵画」(1954年)は、画面の上部で傾く赤い十字架と、それを受けるかのような下部の「黒」の関係が謎めいていました。祈りなのかそれとも絶望なのか…。これなどは「熱き」どころか「諦念」すら感じました。さらに、「もの派」を思わせるような「四つ」(1992年)も、安らぎの境地が微かに漂う気配です。パンフレットの表紙に載っている「鏡と紙吹雪」(1970年)は、置かれている部屋から立ち去る時に後ろ髪を引かれるような作品でした。一番見入っていたかもしれません。紙吹雪に覆われて反射することを殆ど拒否した「鏡」に何を見出すのか。その辺が問われそうです。
見ているときは淡い印象に終始しながらも、見終わってからしばらくすると作品の雰囲気が何度も思い起こされます。余韻の強く残る世界です。何年か経った時には全く違った印象を受けるかもしれません。もし機会があれば、この余韻が消えないうちにもう一度見たいと思います。見る側の感性がこれほどまでに作品へ投影するのも珍しいのではないでしょうか。作品との「共鳴」や「対話」の重要性を考えさせられた展覧会でした。
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「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2005」が閉幕
「熱狂の日」音楽祭が閉幕、3日間で29万人来場(YOMIURI-ON-LINE)
東京・有楽町の東京国際フォーラムで4月29日から開かれていたクラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭2005」(東京国際フォーラム主催、読売新聞社、日本テレビ放送網など特別協力)が1日閉幕した。
有楽町の東京国際フォーラムで連日開催されていた「熱狂の日音楽祭2005」が終了しました。「特別協力」の読売新聞の報道によれば、三日間でなんと約30万人もの方が押しかけたそうです。「大盛況」と言って問題ないでしょう。
既に拙い感想をアップしましたが、私は最終日の「ミサ・ソレムニス」だけを聴いてきました。熱心なクラシックファンの中には、朝から夜遅くまでひたすらコンサート三昧という方もいらっしゃったそうです。主催者としては予想以上の人出だったのか、当日券のチケット販売にかなりの不手際があり、長時間待たされたあげく、結局入場出来なかったという例もあったと聞きました。その辺は残念ではありますが、老若男女、様々な方々が東京国際フォーラムへ足を運んで、ベートーヴェンを堪能したというのは事実のようです。
普段クラシック音楽を聴かない人々を取り込んだイベントでもありました。そう言われれば、確かに会場はカジュアルでかつ華やかな印象で、クラシックコンサートにありがちな独特の窮屈な雰囲気は見られませんでした。(それはそれで結構好きなのですが…。)またフォーラムの中庭には世界の食べ物(?)を売るワゴンが出ていたりして、ワインやビールなどを片手に談笑されている方も多く見かけます。さらには、普段ならまず売れなそうなベートーヴェンのグッズもたくさん並べられていました。これらは見るだけでも楽しめます。(グッズは9日まで販売しているそうです。)
チケット販売の不備はともかくも、価格設定は嬉しい限りでした。(「ミサ・ソレムニス」はコストパフォーマンス的にも最高の公演でしょう。)来年はモーツァルトのメモリアルイヤーでもありますが、日本での企画は単発のものなのでしょうか。街全体を盛り上げて音楽祭を開催するには、東京は少々図体が大きすぎますが、取りあえずの利便性やキャパシティを考えると、会場はここぐらいしか思いつきません。是非、息の長い企画にして、ゴールデンウィーク中の都心の新しい目玉にしていただきたいものです。
東京・有楽町の東京国際フォーラムで4月29日から開かれていたクラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭2005」(東京国際フォーラム主催、読売新聞社、日本テレビ放送網など特別協力)が1日閉幕した。
有楽町の東京国際フォーラムで連日開催されていた「熱狂の日音楽祭2005」が終了しました。「特別協力」の読売新聞の報道によれば、三日間でなんと約30万人もの方が押しかけたそうです。「大盛況」と言って問題ないでしょう。
既に拙い感想をアップしましたが、私は最終日の「ミサ・ソレムニス」だけを聴いてきました。熱心なクラシックファンの中には、朝から夜遅くまでひたすらコンサート三昧という方もいらっしゃったそうです。主催者としては予想以上の人出だったのか、当日券のチケット販売にかなりの不手際があり、長時間待たされたあげく、結局入場出来なかったという例もあったと聞きました。その辺は残念ではありますが、老若男女、様々な方々が東京国際フォーラムへ足を運んで、ベートーヴェンを堪能したというのは事実のようです。
普段クラシック音楽を聴かない人々を取り込んだイベントでもありました。そう言われれば、確かに会場はカジュアルでかつ華やかな印象で、クラシックコンサートにありがちな独特の窮屈な雰囲気は見られませんでした。(それはそれで結構好きなのですが…。)またフォーラムの中庭には世界の食べ物(?)を売るワゴンが出ていたりして、ワインやビールなどを片手に談笑されている方も多く見かけます。さらには、普段ならまず売れなそうなベートーヴェンのグッズもたくさん並べられていました。これらは見るだけでも楽しめます。(グッズは9日まで販売しているそうです。)
チケット販売の不備はともかくも、価格設定は嬉しい限りでした。(「ミサ・ソレムニス」はコストパフォーマンス的にも最高の公演でしょう。)来年はモーツァルトのメモリアルイヤーでもありますが、日本での企画は単発のものなのでしょうか。街全体を盛り上げて音楽祭を開催するには、東京は少々図体が大きすぎますが、取りあえずの利便性やキャパシティを考えると、会場はここぐらいしか思いつきません。是非、息の長い企画にして、ゴールデンウィーク中の都心の新しい目玉にしていただきたいものです。
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コンチェルト・ケルン 「ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス」 5/1
コンチェルト・ケルン ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン音楽祭2005/東京
ベートーヴェン ミサ・ソレムニス
指揮 ダニエル・ロイス
ソプラノ クラウディア・バラインスキー
アルト エリザベス・ヤンソン
テノール ダニエル・キルヒ
バス クレメンス・ハイドリッヒ
合唱 RIAS室内合唱団/カペラ・アムステルダム
2005/5/1 20:45 東京国際フォーラムホールC 3階
「熱狂の日音楽祭」の最終日に、古楽器オーケストラとして名高いコンチェルト・ケルンの演奏で、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を聴いてきました。期待を裏切らない素晴らしい演奏です。ホール全体に美しい「祈り」が満ち溢れていました。
コンチェルト・ケルンの響きは、まさに古楽器を聴く喜びを十分に感じさせてくれます。ノン・ヴィブラートの切れ味の良さは、まるで森の中の澄んだ泉で水しぶきを浴びているような清々しさがあって、身も心もリフレッシュするかのようです。冒頭のキリエでは、柔らかく膨らみのある響きが体を包み、鋭角的で起伏の激しいグローリアでは、表現の鮮烈さと緊張感が印象に残ります。残念ながらホールの響きが芳しくなく、ステージとの一体感がなかなか得られなかったのですが、それを差し引いてもこのオーケストラの素晴らしさを感じることができます。それにしても、時折あまりにも素晴らしい静謐な響きが聴こえてきたので、思わず涙腺が潤むくらいでした。ロイスの構えたところのない素朴な指揮と相まって、自然体で肩の力を抜いたような微笑ましい「ミサ・ソレムニス」になっていたと思います。
RIASとカペラ・アムステルダムの合唱団も、オーケストラに負けることのないぐらいの存在感です。声量が逞しい上に、清涼感すら得られるような瑞々しさがあります。合唱指揮者でもあるロイスとの息もピッタリで、一つ一つ声が全体として一体感を持って大きな「楽器」となった時、どれだけに深い表現が可能なのかと言うことを痛感させられるような素晴らしい合唱でした。この合唱を聴くだけでも十分に価値があります。
ソリストの方々は、オーケストラや合唱の素晴らしさと比べると、やや分が悪かっかもしれません。ただ、もしかしたらホールとの適性の問題もあるのでしょうか。ちょっと気の毒にも思いました。
終演後の聴衆の反応は、「熱狂の日」の最後にふさわしいような熱いもので、一部ではスタンディングすら起きていました。「ミサ・ソレムニス」のような宗教曲で、このようなエネルギッシュな反応には驚かされましたが、確かに強く賞賛したくなるような素晴らしい演奏であったのは事実だと思います。会場を後にして家に着くまで、「サンクトゥス」や「アニュス・ディ」の深い祈りが頭から離れませんでした。コンチェルト・ケルンは意外にも初来日とのことですが、是非また清々しい響きを聴かせていただきたいものです。
ベートーヴェン ミサ・ソレムニス
指揮 ダニエル・ロイス
ソプラノ クラウディア・バラインスキー
アルト エリザベス・ヤンソン
テノール ダニエル・キルヒ
バス クレメンス・ハイドリッヒ
合唱 RIAS室内合唱団/カペラ・アムステルダム
2005/5/1 20:45 東京国際フォーラムホールC 3階
「熱狂の日音楽祭」の最終日に、古楽器オーケストラとして名高いコンチェルト・ケルンの演奏で、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を聴いてきました。期待を裏切らない素晴らしい演奏です。ホール全体に美しい「祈り」が満ち溢れていました。
コンチェルト・ケルンの響きは、まさに古楽器を聴く喜びを十分に感じさせてくれます。ノン・ヴィブラートの切れ味の良さは、まるで森の中の澄んだ泉で水しぶきを浴びているような清々しさがあって、身も心もリフレッシュするかのようです。冒頭のキリエでは、柔らかく膨らみのある響きが体を包み、鋭角的で起伏の激しいグローリアでは、表現の鮮烈さと緊張感が印象に残ります。残念ながらホールの響きが芳しくなく、ステージとの一体感がなかなか得られなかったのですが、それを差し引いてもこのオーケストラの素晴らしさを感じることができます。それにしても、時折あまりにも素晴らしい静謐な響きが聴こえてきたので、思わず涙腺が潤むくらいでした。ロイスの構えたところのない素朴な指揮と相まって、自然体で肩の力を抜いたような微笑ましい「ミサ・ソレムニス」になっていたと思います。
RIASとカペラ・アムステルダムの合唱団も、オーケストラに負けることのないぐらいの存在感です。声量が逞しい上に、清涼感すら得られるような瑞々しさがあります。合唱指揮者でもあるロイスとの息もピッタリで、一つ一つ声が全体として一体感を持って大きな「楽器」となった時、どれだけに深い表現が可能なのかと言うことを痛感させられるような素晴らしい合唱でした。この合唱を聴くだけでも十分に価値があります。
ソリストの方々は、オーケストラや合唱の素晴らしさと比べると、やや分が悪かっかもしれません。ただ、もしかしたらホールとの適性の問題もあるのでしょうか。ちょっと気の毒にも思いました。
終演後の聴衆の反応は、「熱狂の日」の最後にふさわしいような熱いもので、一部ではスタンディングすら起きていました。「ミサ・ソレムニス」のような宗教曲で、このようなエネルギッシュな反応には驚かされましたが、確かに強く賞賛したくなるような素晴らしい演奏であったのは事実だと思います。会場を後にして家に着くまで、「サンクトゥス」や「アニュス・ディ」の深い祈りが頭から離れませんでした。コンチェルト・ケルンは意外にも初来日とのことですが、是非また清々しい響きを聴かせていただきたいものです。
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「ラミアの白い凧」 国際交流基金フォーラム アラブ映画祭2005 4/24
2005-05-01 / 映画

「ラミアの白い凧」
(2003年/レバノン/ランダ・シャハル・サッバーグ監督)
4/24(アラブ映画祭2005)
こんにちは。
赤坂の国際交流基金フォーラムで「ラミアの白い凧」という映画を見てきました。4月14日から24日にかけて同フォーラムで開催された「アラブ映画祭2005」でのレバノンの作品です。国境線によって分断された村での悲劇的な愛を描いた佳作でした。
砂と岩が延々と広がるゴラン高原の村は、イスラエルとレバノンの国境線によって分断されています。そこがこの映画の舞台です。有刺鉄線と軍隊と地雷の存在が、村の自由な往来を阻害します。双方に取り残された親族や友人は、緩衝地帯越しに拡声器で連絡を取り合っています。にわかには信じがたい光景です。レバノン側に住む16歳の少女ラミアは、イスラムの掟なのか、ほぼ強制的に、村の長老会議によって、イスラエル側のもう一方の村に住む従兄のところへ嫁がされます。そして、この過程のやり取りももちろん拡声器によって行なわれますが、それをイスラエル側のとあるアラブ人兵士(問題を単純化出来ない要素がここにあります。)の若者が聞き、彼女に淡い恋心を寄せます。ラミアは結局、従兄である夫と反りが全く合わずに元々住んでいた村へ帰ります。しかしそこで先ほどの兵士と出会うことになるのです。二人の運命は一体どうなるのか…。結末は暗示的に「悲劇」として迎えられます。
この映画の最大の良さは、この村を取り巻く厳しい状況が、そこに住む逞しい人々の生活によって生々しく描かれていることです。「分断の悲劇」とは、残念ながら未だこの地上から消え去らない現実として存在していますが、その意味や背景を深く考えさせる要素をこの映画は持っています。ラミアは「分断の悲劇」の象徴として生き、最後には現実に押しつぶされるかのように消えて行きます。タイトルの「凧」とはラミアの意思なのかもしれません。糸の付いた「凧」は、あくまでもそれを揚げる人間によって拘束されています。しかし、糸がプッツリと切れると、凧は意思を持つように大空高く舞って自由を満喫すると同時に、すぐに地上へ落ち、動くことすら叶わなくなります。ラミアの恋も人生も、まさにそんな「凧」の生き様に近いものがあります。映画の冒頭には、村の子どもたちが地雷と有刺鉄線の近くで凧揚げを楽しそうにするシーンが登場しますが、その姿と「凧」としてのラミアが重なってくる時に、また悲しみが増すのではないかと思いました。
2月に「西ベイルート」を見た時にも書きましたが、今、レバノンやイスラエルをを取り巻く情勢は大きく動いています。ゴラン高原一帯は、歴史的にも紛争を繰り返してきた厳しい地域ではありますが、ラミアの悲劇を繰り返すことだけは何とか避けて欲しいと願うばかりです。
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