僕はびわ湖のカイツブリ

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“男のためのガーデニング”改め

岩屋山 仙禅寺跡磨崖仏(岩屋観音)~滋賀県甲賀市信楽町~

2019-08-25 17:25:25 | 御朱印蒐集・仏像・磐座・巨樹・古墳・滝・登山
 信楽焼の窯が点在する信楽の町から、朝宮茶(日本茶)の茶畑が続く地に鎌倉時代の磨崖仏が残されているといいます。
朝宮茶の産地は、宇治茶の産地である宇治田原と隣り合わせになる地域にあり、一帯は日本茶の産地となっています。

磨崖仏の祀られている岩屋観音(仙禅寺)へは茶畑の間に続く細い山道を行くことになる。
道路は舗装されてはいるものの、途中で茶畑の作業に向かわれる軽トラックとのすれ違いに難儀しながらも何とか目的であった寺院跡へ到着。



信楽の中心地にいた時には降っていなかった雨が朝宮に入った頃から急に降り出し、現地に着いた時は霧雨状態になる。
傘がいるほどではなかったが、横の渓谷には岩谷川が流れており、山の廃寺に独りでいることの心地よさと共に、多少の怖さも感じてしまう。



寺院の前には芭蕉の句碑“木隠れて茶摘みも聞くやほととぎす”(一声鳴いて飛び去ったホトトギスの声を、茶畑の茶の木に見え隠れする茶摘み女たちも聞いたであろうか…)と並んで「朝宮茶発祥の地の碑」が立てられている。
朝宮茶は、嵯峨天皇御代に岩谷山(現在の仙禅寺一円:信楽町朝宮)に茶の実を植えられたのを起源として現在まで続いてきたとされ、政所茶や土山茶と並ぶ近江の銘茶となっています。



岩屋山仙禅寺は奈良時代の723年に創建され、山城国鷲峰山金胎寺の別院として僧房五宇を有し栄えたと伝えられています。
その後、暦応(南北朝時代)・文明(戦国時代)の2度の兵火により焼失してしまい、現在は小堂を残すのみ。



仙禅寺の元寺である金胎寺(京都府相楽郡の寺院で滋賀県栗東市の寺院とは別)は山岳信仰の霊地で、山内には現在も奇岩怪石が連なる行場があるそうですから、この仙禅寺も山岳信仰の色濃い寺院だったことが伺われます。
また、小堂とはいえ手入れがよくされているのは地域の方による“オコナイ”という祭事が行われている(らしい)ことによるものなのかもしれません。

“オコナイ”は滋賀県の湖北地方で行われる「五穀豊穣や村内安全」を祈願する神事で、湖北特有のものかと思っていました。
調べてみると、甲賀・湖南でも“オコナイ”が行われているようで、村の神社をでの神事として行われる湖北のオコナイとは違って、甲賀・湖南では寺院を中心として行われる祭事だそうです。



面白いのは「浄水」と書かれた手水なのですが、よく見ると山の斜面に這わせたホースで水を引いています。
おそらく山の更に高い所にある湧水か何かを水源にしているのでしょうけど、中々手間のかかることだったと思います。



磨崖仏は、御堂の中に床下から2階にかけて安置されている3mあまりの巨岩に三尊形式の磨崖仏が彫られています。
しかし、堂内は真っ暗で裸眼では三尊は見えず、やむなくフラッシュを使って確認してみます。



かなり風化してはいますが、三尊のうちの中心である薬師如来の姿が確認出来ます。
脇像の下に建長元年(1249年)11月8日と陰刻されているといい、鎌倉時代の磨崖仏であることは確認されているそうです。



御堂の2階へ上がると、光が差し込んでくるので三尊磨崖仏が裸眼で確認出来るようになりました。
中尊は高さ80cmの薬師如来像、右に不動明王・左に毘沙門天が浮き彫りされているとされているようです。



下の写真の左の階段が2階(堂への入口)へつながるのですが、堂の後方には山の斜面に向かって巨岩が折り重なるように続きます。
この地にはかつて山岳信仰や巨岩信仰があったことが伺われ、天台系の三尊形式からは密教的な影響がみられます。



境内から道路と岩谷川を挟んだ向こうには木々の茂る山の斜面が続く。
ちょうど仙禅寺の辺りは、斜面に連なっていた朝宮茶の茶畑がなくなって険しい山間道が続く場所になるようです。
ここで折り返しましたが、そのまま進めばMIHO MUSEUN方面へ続くのかと思います。



信楽へと戻る道には祠が2ヶ所。
一つは「薬師堂」で、屋根には草がぼうぼうと生えていたものの、周辺の草刈は出来ており、出来る範囲での整備がされているようでした。



道中には何かよく分らない岩が祀られていました。
これは“さざれ石”なのでしょうか。見ようによってはそう見えます。



地蔵石仏が集められている場所もあり、周辺にはかつて墓石だったかのような丸い石が転がっています。
地域に散らばっていたものを祠に見立てたこの場所に集めてお護りしているのかもしれませんね。



国道から集落を抜けて茶畑のエリアへ入る場所には鎌倉期のものといわれる宝篋印塔がかつての名残を残します。
後方に朝宮茶園が見えますが、斜面でアップダウンの多い場所での茶摘みはさぞや重労働でしょう。

しかも茶摘みというのは年に3~4回(一番茶~四番茶)あることもあるようですので大変な作業です。
この日も軽トラの荷台に収穫した朝宮茶を収納する大きなフレコンを積んでいるのを見ましたが、雨にも関わらず収穫をされていたのでしょう。



薄暗い木陰には大きな白いキノコが生えていました。
何というキノコかは知りませんが、暗がりの中ということもあって妖しく咲く花のような印象を受けます。



滋賀県では古寺や探鳥で訪れる山間部に有名無名に関わらず茶園があることが多いように感じます。
滋賀県は茶畑が多い所だと思いますが、高級茶の茶所としての歴史と共に、農作物に適さない土地で作る家庭茶もあったのだと思います。
コーヒー豆の違いや焙煎法による飲み比べや酒蔵での利き酒のように、お茶の飲み比べがしてみたくなります。

<追記>
世の中には同じようなことを考えたり、目ざとく商品化したりする方がいるもので、「きき茶」セットなるものを見つけました。
このセットには滋賀県三大銘茶を呼ばれる「朝宮茶」「土山茶」「政所茶」が含まれています。
「きき茶」とはなんとも贅沢で優雅な趣向です。




コメント
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