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つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。~滋賀県立美術館~

2024-06-05 06:52:22 | アート・ライブ・読書
 滋賀県立美術館では「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人『―たとえば、「も」を何百回と書く。』と題したアールブリュット展が開催されています。
この美術展は45人の日本のアールブリュット作家の作品が約450点展示される大規模な美術展で、多様性に富んだ作品が鑑賞出来ます。

美術展の構成は「1 色と形をおいかけて」「2 繰り返しのたび」「3 冒険にでる理由」「4 社会の密林へ」「5 心の最果てへ」で構成されます。
滋賀県では馴染みのある作家や書く都道府県で活躍されている作家、既に製作を止めてしまわれてる作家など多様な作家の作品が集められています。



「第1章 色と形をおいかけて」では伊藤善彦さんの粘土細工の作品「鬼の面」「鬼の顔(土鈴」が気にかかる。
伊藤さんは30年に渡って粘土作品を制作されていたといい、生前“人間の、奥の奥には、鬼が棲んでいる”と発言されていたといいます。



畑中亜未さんの「一灯式青い蛍光灯」「一灯の裸電球」「二灯の裸電球」「赤ちょうちん」...などの作品は灯りに興味を持った作品群です。
絵の中に作品名を書き込んでいて、ごくシンプルなクレヨン画ですが味わい深い。



舛次崇さんの絵には「きりん2」「ノコギリとパンチとドライバーとトンカチと左官」「うさぎと流木」などのタイトルが付いている。
絵とタイトルはパッ見ると合っているように見えないが、それはモチーフを独自の視点で見ているからなのでしょう。



「やまなみ工房」の作家の中でも有名な鎌江一美さんの作品「かお」は、ヒダのような突起物で作品が覆われるまでの初期の作品とのこと。
突起物に覆われた「まさとさん」とは少し違う鎌江さんの作品の源流ともいえる作品群です。



カラフルな色彩の楽しそうな絵を描かれるのは八重樫道代さんで、作品は「ダンス」と「チャグチャグ馬コ」です。
チャグチャグ馬コってなんぞやというと、岩手県滝沢市の蒼前様(農業の神・馬の守り神)の祭りに登場する馬たちのようです。



「第2章 繰り返しのたび」では繰り返し反復するミニマル・ミュージックのような作品が並び、齋藤裕一さんの作品はその典型的なものになります。
タイトルは「ドラえもん」や「はみだし刑事」なのですが、ドラえもんは「も」の反復で描かれ、「はみ」の反復ははみだし刑事のこと。



色鮮やかなマーカーの反復で描かれるのは上田志保さんの「こゆびとさん」。
小人?小指?恋人を連想させるキャラクターは上田さん独自のイメージの世界で、現代アートの作品のようにも見えます。



「第3章 冒険に出る理由」では木村茜さん、伊藤峰尾さん、佐々木早苗さん、石野敬祐さんの制作風景が動画で流されます。
それぞれの作家の日常の製作風景は、生活の一部のように日常に融け込んでいます。
まだ半分とはいえ、たくさんの作品を見て疲れたので、会場の中にある額縁のような枠の奥にある庭園を望むソファーで一息入れる。



「第4章 社会の密林へ」でインパクトがあったのは、宮間栄次郎さんの「横浜の金魚の帽子おじさん」シリーズでしょうか。
宮間さんは横浜の繁華街を自転車に乗って回遊するパフォーマンスをされていたといい、その奇抜で派手な服装から「帽子おじさん」と呼ばれるようになったそうです。





作品の横には宮間さんご自身が写るスライドが流れています。
ご本人の姿も楽しそうですが、映像に移っているギャラリーも笑顔です。



木工で精密なバスやトラックや車を作られているのは西本政敏さんは、メーカーのロゴまで再現した完成度の高い作品です。
この精密な表現は、通所する福祉施設で木工を担当して得た技や知識が役に立っているようです。



太い線でデフォルメされた平野信治さんの作品は「志村けん(子役)」「舘ひろし」「モナ・リザ」「ライオン」のタイトルが付いている。
平野さんは志村けんに特別な想いがあったといい、縁あって志村けんに直接バカ殿を描いた作品を渡す機会に恵まれたそうです。
しかし、その翌日から絵を描かなくなってしまったといいます。



みんなほっぺがピンク色の人物画を描かれるのは大久保寿さんで、実際に人物名が付いている絵と無題の絵があります。
平野さんは46歳から絵を描き始められ、大胆な線でサッと描いたように見えて、実際はとてもゆっくりと指を動かして描かれていたそうです。



ペーパークラフトで角ばった女の子たちを作るのは石野敬祐さんでタイトルは全て「女の子」ですが、イシノ52のような作品群です。
製作風景は第3章で見ることが出来ますが、とても手早く器用に女の子たちを作り出していかれます。



「第5章 心の最果てへ」では記憶や精神疾患によって見ることの出来たモチーフを作品にしたものが多く登場します。
内山智昭さんは聴覚障害があって意思表示が困難だった頃、粘土造形を始めて精神的に落ち着きを得ていかれたそうです。



上は「遠い国の人」、下は「花を抱いた女」。
内山さんは5~6年間に300点近い作品を製作されてそうですが、手話を身に着けて施設を退所して以降、作品は全く製作されなかったそうです。



昭和の時代には封切り映画がやってくると、映画の宣伝用の看板が描かれることがあり、蛭子能収さんも「ガロ」でデビュー前に看板店で絵を書いていたそうです。
木伏大助さんは、小学校の時に映画館や街角に貼られた映画のポスターを毎日眺めていて、福祉施設に入ってから映画ポスターそっくりの絵を描き始められたそうです。
役者の名前まで正確に書かれていますので、その記憶力たるや恐るべしです。



富塚純光さんの「青い山脈物語111万円札と花を貰ったの巻」「青い山脈物語8おっかけられたの巻」は彼の記憶を絵と言葉で描いたもの。
壁一面に貼られた記憶のメモから月一回の絵画クラブで1枚を選び、渾然一体の作品となっていくという。



美術館では図録が販売されていましたので購入して、各作家の詳細を知り、参考にさせて頂きました。
滋賀県立美術館はアール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の公立美術館で、世界有数のアール・ブリュットのコレクションを有する美術館となったようです。



アールブリュット作品には現代アート作品を感じさせる作品や現代アートへ影響を与えたと感じられる作品があります。
現代アート系の作品は作為的に意味を求めるような作品がありますが、アールブリュット作品は無作為なところに魅力があるのかもしれません。



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