山崎ナオコーラ『あきらめる』(2024年3月30日小学館発行)を読んだ。
登山で頂上まで行く? 途中で降りられる?
「『あきらめる』って言葉、古語ではいい意味だったんですってね。『明らかにする』が語源らしいんです」
近所の川沿いを散歩するのが日課の早乙女雄大。
入院中の愛する人との残り少ない日々の過ごし方や、
ある告白をきっかけに家を出てしまった家族のこと、
あれこれと思い悩みながら歩いていると、親子風の二人組に出会う。
親に見える人は何やら思い詰めた表情で「自分の人生をあきらめたい」と言う…。
ふとしたきっかけで生まれた縁だったが、
やがて雄大は彼らと火星に移住し、「オリンポス山」に登ることを決意する…!?
「あきらめる」ことで自らを「あきらかにしていく」――
火星移住が身近になった、今よりほんの少し先のミライが舞台の新感覚ゆるSF小説。
成熟者:年を増やしたプラス面が引き立つ、高齢者に代わる流行りの言葉。
火星移住:12期の火星移住を募集中。地球での生活に行き詰まりを覚えた人に希望者が多い。成熟者と7歳未満の子どもとその家族は優先。
登場人物
早乙女雄大:「孤独散歩」が日課。「あきらめる」が口癖。想いを打ち明けた親友が病院にいる岩井で、大学に勤める長女が塔子
博士:雄大の息子。小学生から高校生までひきこもり、20歳で大学に入り、絵を楽しみ、細々と暮らす。分身ロボットを火星に移住させ、自身は地球に残る。あきらめたと考えても、評価に対する拘泥が深く根を下ろしていることに気が付く。
弓香:3年前に岩井への気持ちを告白してから、連絡が取れない妻。1年前火星に移住。
秋山輝(あきら):美人。恋愛できないが、育てたい人間。
龍:輝と同居。輝の元パートナー英二の連れ子。5歳。感覚過敏で、指示に従うことができない性質なので、特別支援学級に入れないので、療育に通う。絵を描くのが好き。
雪山雪:ネグレクト気味のシングルマザー。息子はトラノジョウ。「いつか誰かが私を断罪してトラノジョウを救うんだろう」と思っている。
雪山トラノジョウ:雪の息子。5歳。物を組み立てたりするのが好き。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
様々な生きづらさを抱えた人が登場し、独自の世界を展開する話を、硬い言葉、直球メッセージで語るので、読んでいてくたびれる。さらに、話しが執拗で長い。例えば、雄大の岩井との夢や、博士の恨み節が延々10頁も続きうんざり。
多様性が妨げられているという著者の主張が生に近い形で、強く出ていて、楽しく読めない。
数人の登場人物たちが、章ごとに代わって語り、また違る面が汲み取れる構成は良かった。
火星移住、身代りロボットが、ただ登場するだけでほとんど物語との絡みが少ない。SFの要素は感じられない。
…
いや、みなさんには、あきらめたくないこともいっぱいあるでしょう。知っています。あきらめない方がいいこともありますよ! でも、あきらめたっていいことも、実は結構あるんです。
今の社会は、あきらめずにがんばった人ばかりが受け入れられる社会ではありません。あきらめた人も生きていけます。そういう小説です。
あなたも、何かをあきらめてみませんか? あきらめて、あきらめて、あきらめた先に、小さなキラキラした光が見えるかもしれません。実はこの社会、わりと優しいんですよ。あなたを受け入れます。
…
本書の著者紹介にはこうある。
作家。性別非公表。2004年にデビュー。
目標は、「誰にもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
他の著書に、『美しい距離』『母でなくて、親になる』『ニセ姉妹』『ミライの源氏物語』など。日常の社会派。趣味は育児、
火星に持っていきたいものは、タブレット。
メモ
・人を嫌いになりそうなときは離れるのが一番だ。距離は人を好きにさせる。(p86)