村上春樹著「めくらやなぎと眠る女」2009年11月、新潮社発行を読んだ。
新潮社HPでの宣伝は以下。
短篇作家・村上春樹の手腕がフルに発揮された粒ぞろいの24篇を、英語版と同じ作品構成・シンプルな造本でお届けします。「野球場」(1984年発表)の作中小説を、実際の作品として書き上げた衝撃的な短篇「蟹」、短篇と長篇の愉しみを語ったイントロダクションなど、本邦初公開の話題が満載!
この『Blind Willow, Sleeping Woman(めくらやなぎと眠る女)』は、1993年の『象の消滅』(英語版は1991年)に続いて外国の読者に向けて編まれた第2短編集だ。それを日本版とする際に、いくつかは書き直されているし、未発表の「蟹」を追加している。
英語版のための序文で著者はいう。
長編小説を書くことは「挑戦」であり、短編小説を書くことは「喜び」である。
僕が小説家としてデビューしたのは1979年のことだが、それ以来ほぼ一貫して、長編小説と短編小説を交互に書き続けてきた。集中して長編小説を完成させてしまうと、短編小説がまとめて書きたくなり、短編小説をワンセット書いてしまうと、今度は集中して長編小説が書きたくなる。・・・
通常の長さの短編小説の場合、だいたい1週間あればひとつの作品をかたちとして完成させることができる。
僕が小説家としてデビューしたのは1979年のことだが、それ以来ほぼ一貫して、長編小説と短編小説を交互に書き続けてきた。集中して長編小説を完成させてしまうと、短編小説がまとめて書きたくなり、短編小説をワンセット書いてしまうと、今度は集中して長編小説が書きたくなる。・・・
通常の長さの短編小説の場合、だいたい1週間あればひとつの作品をかたちとして完成させることができる。
私でも、幾つかは既に読んだことがあるものだったが、どの短編も例外なく楽しめた。
村上春樹は文章が上手いとよく聞く。パラパラめくって適当に拾い、「貧乏な叔母さんの話」のはじまりをご紹介する。
そもそもの始まりは、文句のつけようもなく見事に晴れあがった、7月の日曜日の午後だった。7月の最初の日曜日だ。小さな雲の塊が2つか3つ、よく吟味された品の良い句読点みたいに、ずっと遠くの空に浮かんでいた。太陽の光は何物にも遮られずに、心おきなく世界に降り注いでいた。芝生の上に誇らし気に光り輝いていた、じっと見ていると、箱の中に箱がある仕掛けのように、光の中にもうひとつ別の光があることがわかった。・・・
サラリと読めて、しかも晴れた日の光が見える。村上さんはあまり風景描写はしない方だと思うが、見事なものだ。こんな光景を実際に見ながらでなく、頭に浮かべるだけで書けるとしたら、やはり天才なのだろう。描写が的確で無駄がなく、しかも、滑らかだ。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
村上春樹の自薦の短編がまとめて24も読めるのだから、村上ファンにはお勧めだ。
私は村上さんのあまりにも長い小説は敬遠するが、普通の長編小説は好きだ。とくに短編は、ゴツゴツしたところが少しもなくサラリと読めるし、寂しげで、軽く思いを残すその後味が快い。突然の場面展開やありえない話も、短編ではシラけることもない。本質的ではないのだろうが、気の利いたセリフや、マニアックなジャズの話などおしゃれな雰囲気も好きだ。
とくに、村上さんは比喩が上手い。
まったくのところ、それはおそろしく葬式の多い年だった。僕のまわりでは、友人たちやかっての友人たちが次々の死んでいった。まるで日照りの夏のとうもろこし畑みたいな眺めだった。
「日々移動する腎臓のかたちをした石」には男女のしゃれたセリフが多くでてくる。
女性の職業を小説家である主人公が当てることになる場面での会話。
「ヒントはない。むずかしいかしら?でも、観察して判断するのがあなたの仕事でしょう?」
「それは違うね。観察して、観察して、更に観察して、判断をできるだけあとまわしにするのが、正しい小説家のあり方なんだ」
「それは違うね。観察して、観察して、更に観察して、判断をできるだけあとまわしにするのが、正しい小説家のあり方なんだ」
ただし、その回答は最後の方にでてくるのだが、「私とても、ついていかれません」
24編の短編題名は以下。
「めくらやなぎと、眠る女」
「バースデイ・ガール」
「ニューヨーク炭鉱の悲劇」
「飛行機-あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか」
「鏡」
「我らの時代のフォークロア-高度資本主義前史」
「ハンティング・ナイフ」
「カンガルー日和」
「かいつぶり」
「人喰い猫」
「貧乏な叔母さんの話」
「嘔吐1979」
「七番目の男」
「スパゲティーの年に」
「トニー滝谷」
「とんがり焼の盛衰」
「氷男」
「蟹」
「螢」
「偶然の旅人」
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」
「バースデイ・ガール」
「ニューヨーク炭鉱の悲劇」
「飛行機-あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったか」
「鏡」
「我らの時代のフォークロア-高度資本主義前史」
「ハンティング・ナイフ」
「カンガルー日和」
「かいつぶり」
「人喰い猫」
「貧乏な叔母さんの話」
「嘔吐1979」
「七番目の男」
「スパゲティーの年に」
「トニー滝谷」
「とんがり焼の盛衰」
「氷男」
「蟹」
「螢」
「偶然の旅人」
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」
村上春樹は、1949年京都市生まれ、まもなく西宮市へ。
1968年早稲田大学第一文学部入学
1971年高橋陽子と学生結婚
1974年喫茶で夜はバーの「ピーター・キャット」を開店。
1979年 「風の歌を聴け」で群像新人文学賞
1982年「羊をめぐる冒険」で野間文芸新人賞
1985年「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で谷崎潤一郎賞
1986年約3年間ヨーロッパ滞在
1991年米国のプリンストン大学客員研究員、客員講師
1993年タフツ大学
1996年「ねじまき鳥クロニクル」で読売文学賞
1999年「約束された場所で―underground 2」で桑原武夫学芸賞
2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞
2007年朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞受賞
2008年プリンストン大学より名誉博士号(文学)、カリフォルニア大学バークレー校よりバークレー日本賞
2009年エルサレム賞、毎日出版文化賞を受賞。
その他、『蛍・納屋を焼く・その他の短編』、『若い読者のための短編小説案内』