白石一文著『ほかならぬ人へ』2009年11月、祥伝社発行を読んだ。
祥伝社のHPにはこうある。
第142回直木賞受賞作品
愛の本質に挑む 純粋な恋愛小説
愛するべき真の相手は、どこにいるのだろう?
「恋愛の本質」を克明に描きさらなる高みへ昇華した文芸作品
第22回山本周五郎賞受賞第一作!
愛の本質に挑む 純粋な恋愛小説
愛するべき真の相手は、どこにいるのだろう?
「恋愛の本質」を克明に描きさらなる高みへ昇華した文芸作品
第22回山本周五郎賞受賞第一作!
「ほかならぬ人へ」
宇津木明生は、名家に生まれ、大学教授の父、学者への道を進む二人の兄を持ち、元麻布に広大な屋敷に住んでいる。しかし、家族と比べ、とくに優れたところのない彼は小さい時から「俺はきっと生まれそこなったんだ」と思ってきた。
明生はスポーツ用品メーカーに就職し、キャバクラで美人のなずなと出会い結婚した。
しかし、なずなは過去の男が忘れられないと言い出す。一方、失意の明生は職場のできるが醜い女性の先輩東海に相談、慰められる。やがて、・・・。
「かけがえのない人へ」
みはるは、出世頭の水鳥と婚約を控えているが、かつての上司黒木とも切れていない。会社は業績不振で合併話が進行し社内抗争の中で黒木は・・・。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
私の好みで言えば、「ほかならぬ人へ」は共感できるが、「かけがえのない人へ」は本物の愛というより、必ずしも悪いことではないのだが、単に肉欲ではないのではないかと思える。恋愛への障壁が少ない現代では、真の愛を描くのが大変で、ご苦労さまと言いたくなる。
もちろん、私なぞが言うのも何だが、「ほかならぬ人へ」は良く書けている。いいところのお坊ちゃん明生の劣等感もそうだが、ブスと言われて毎度傷つきながら、凛として跳ね返す大人の東海さんが魅力的で良く書けている。
二つの小説ともに、表面的な愛と(本物の?)芯からの愛が対比され、表面的な愛を知ることによって逆に、自分は困難であってもかけがえのない愛を貫くしかないと知るが、覚悟したときにはその愛は失われてしまったという話だ。
子どもっぽい議論になるが、理屈で考える私には、直感的な本物の愛というものが必ずしも真実であるとは思えない。肉付きの仮面のように穏やかに始まり、かけがえのない愛になっていく、二人で作り上げていく愛もあるだろう。むしろその方が私には真の愛に思える。
白石一文(しらいし・かずふみ)は、1958年福岡県生れ。早稲田大学経済学部卒業。文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、本書で直木賞受賞。
祥伝社のHPには冒頭にあげた宣伝文句につづき、題名の由来がわかる試読部分がある。長いが引用しよう。
「だけどさ、アキちゃんの奥さんって偉いよね。ちゃんと戻って来たんだから。いまだってきっといろんなぐちゃぐちゃした思いはあるんじゃない。それでもやっぱり自分にとってアキちゃんがベストの相手だって気づいたから帰ってきたのかな」
そう言われると「そんなことはないだろう」と明生は当たり前に思う。明生自身もなずながベストの相手だとは思えなくなっていた。
「何か証拠があるんだよ」
気づくと明生はそう口にしていた。
「証拠?」
渚が訊き返してくる。
「うん。ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
「それ本当?」
「たぶんね。だってそうじゃなきゃ誰がその相手か分からないじゃないか」
「だからみんな相手を間違えてるんじゃないの」
「そうじゃないよ。みんな徹底的に探してないだけだよ。ベストの相手を見つけた人は全員そういう証拠を手に入れてるんだ」
「そうかなあ」
渚が再び疑問を呈する。
「渚には靖生兄貴が必要な人だけど、靖生兄貴には麻里さんが必要なんだ。でも、そういうときには両方とも間違っているんだよ。ほんとは2人ともベストの相手がほかにいるんだ。その人と出会ったときは、はっきりとした証拠が必ず見つかるんだよ」
いままで思ってもみなかったことが口からすらすら出てきて、明生は内心びっくりしていた。
「ふーん」
「だからさ、人間の人生は、死ぬ前最後の1日でもいいから、そういうベストを見つけられたら成功なんだよ。言ってみれば宝探しとおんなじなんだ」
そう言われると「そんなことはないだろう」と明生は当たり前に思う。明生自身もなずながベストの相手だとは思えなくなっていた。
「何か証拠があるんだよ」
気づくと明生はそう口にしていた。
「証拠?」
渚が訊き返してくる。
「うん。ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」
「それ本当?」
「たぶんね。だってそうじゃなきゃ誰がその相手か分からないじゃないか」
「だからみんな相手を間違えてるんじゃないの」
「そうじゃないよ。みんな徹底的に探してないだけだよ。ベストの相手を見つけた人は全員そういう証拠を手に入れてるんだ」
「そうかなあ」
渚が再び疑問を呈する。
「渚には靖生兄貴が必要な人だけど、靖生兄貴には麻里さんが必要なんだ。でも、そういうときには両方とも間違っているんだよ。ほんとは2人ともベストの相手がほかにいるんだ。その人と出会ったときは、はっきりとした証拠が必ず見つかるんだよ」
いままで思ってもみなかったことが口からすらすら出てきて、明生は内心びっくりしていた。
「ふーん」
「だからさ、人間の人生は、死ぬ前最後の1日でもいいから、そういうベストを見つけられたら成功なんだよ。言ってみれば宝探しとおんなじなんだ」
ベストな相手はどこかに居るんじゃなくて、互いに作り上げていくんじゃないかと思う冷水でした。