前田司郎著『逆に14歳』2010年2月、新潮社発行、を読んだ。
この本には小説「逆に14歳」と、NHKで放映された老夫婦ドラマ「お買い物」の戯曲が載っている。
「逆に14歳」の主人公の丸田史郎(著者の40年後?)は若い頃は小説を書きながら戯曲なども作っていたのだが、70歳を超えた(?)現在はさっぱり書けないし、書く気もない。
大学時代の演劇仲間で元役者の白田がひとり者の彼の家に転がり込んで来る。そして、自分たちはあと14年は生きられるのではないか、つまり逆から数えると今14歳なんじゃないかと話しあい、やりたいことをやろうとの話になる。
死に向けて坂を転がっていく彼ら2人は、逆にデート、同棲、演劇、トキメキなど若者の特権を再体験していく。
戯曲「お買い物」は、年寄夫婦が、夫の昔からの趣味のアンティークカメラ展のために、こわごわ田舎から渋谷に出てくる。高額のカメラを買うことになり、ホテルでなく、東京に住む孫(娘さん)のところに泊まることになる。TV放送は、ギャラクシー賞などを受賞した秀作だ。
初出:逆に14歳「新潮」2009年10月号、お買い物「ドラマ」2009年3月号
前田司郎は1977年東京生れ。
1997年五反田団を旗揚げし、作、演出、出演
2004年、『家が遠い』で京都芸術センター舞台芸術賞受賞
2005年、『愛でもない青春でもない旅立たない』で小説家デビュー
2008年、『生きてるものはいないのか』で岸田國士戯曲賞受賞
2009年、『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞受賞、本書の脚本によるNHKドラマ『お買い物』はギャラクシー賞と放送基金文化賞、ソウル国際ドラマ賞などを受賞
他に『恋愛の解体と北区の滅亡』『グレート生活アドベンチャー』『誰かが手を、握っているような気がしてならない』『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
「逆に14歳」も笑っているうちに元気をもらったが、老夫婦ドラマ「お買い物」も夫婦のひっそりとした愛情がほのぼのとして良かった。
「逆に14歳」出だしはこうだ。
一番そういうのの進行を感じるのは意外と二の腕の内側である。
ここがそうなってくるともうあれだ。つい10年くらい前までは、この辺はけっこうあれだったが最近はもうあれな感じになってしまった。あれ、シミだらけ。
ここがそうなってくるともうあれだ。つい10年くらい前までは、この辺はけっこうあれだったが最近はもうあれな感じになってしまった。あれ、シミだらけ。
あれだの、これだの代名詞の連発や、話が途中で横にずれ、そのうち何の話だったかわからなくなってしまう。「私だって、これほどひどくないぞ。でも、あるある」と安心して笑える。
戯曲「お買い物」は、2009年2月14日21時からNHK総合TVで放映された。私もみたのだが、めずらしく今でも憶えていて、静かだが印象深いドラマだった。脚本というものを、私はほとんど読んだことが無いのだが、TVでは何気ない仕草も、ト書きなどではっきり書いてある部分もあり著者の意図がはっきりとしていた。
田舎の年寄夫婦がこわごわ渋谷に出てくるところがよく書けているし、高額なカメラ購入に迷う夫と、過去の事情からすんなりお金を出す妻。夫婦の思いやり、年寄が何事にもとまどうところ、そして、東京に住む孫の娘さんとのやりとりもほのぼのとしている。