青山七恵著『風』(2014年5月30日河出書房新社発行)を読んだ。
3編と掌編の、著者が長編執筆の合間に楽しんで書いたという短編集。
「予感」
見返し(表紙の裏)と後見返し(裏表紙の裏)に著者直筆(勿論コピー)で記されている。
旅行を終えて帰ってくると、わたしの家は消えていた。
と始まる、手書き4ページの掌編。「ダンス」
優子は踊らない子どもだった。大人になっても踊らなかった。人生の長い時間を踊らないで過ごした。
と始まる。幼稚園でもどんなに言われても踊らないので先生がお遊戯会で苦労し、林間学校のフォークダンスも踊らず、都市銀行の窓口嬢となって休暇で旅行した香港のナイトクラブでも踊らなかった。
結婚して産んだ娘は踊り好きで、幼稚園の運動会の演目に「親子ダンス」とあった。・・・
「二人の場合」
大手の肌着メーカーに同期入社した実加と未紀、二人の友情の始まりと別れ。
営業に配属された二人は落ちこぼれとなる。2人とも、企画を希望していたし、背格好も似ていた。「女子トイレの縦行列と化粧直しの横一列」「本屋の店先で雑誌を立ち読みしている女たちの姿」に二人とも不快感を覚え、「女の集団が嫌い」など二人は共通点が多く、深い友情を築いていった。
「会社を辞めるかもしれない」「一生結婚しない」と言っていた実加だったが・・・。
「結局、自分がつまらない人間であることを認めていく過程が人生なのだ」と、美加は勤めを続け、結婚し娘を持ち、少しずつ普通?になっていき、一方、美紀は会社を辞め結婚もせず自分の好きな道を進んでいく。
美紀は「美加は一人ぼっちだ、夫も娘も部下もいるけれどあたしにはわかる、美加はあたしより、ずっとずっと一人ぼっちだ・・・。」と思う。
美加は「美紀は自分を軽蔑しているのではないか、もしくは憎んでいるのじゃないかという、恐怖だった。」
「風」
金持ちの父親に守られ、社会に出ることもなく老いてしまった姉妹、55歳のこれ以上ないほど太った澄子と、52歳で痩せこけた貴子。父親の遺言で、緑地の平屋に、2人で住むことになる。互いに真似をし、邪魔にし合って言い争うが、2人は決して離れられない。
そこに保険外交員の若い男が訪ねてきて、姉妹をなんとか保険に入らせようと、マーチングバンドへ勧誘する。妹は入団し、姉は拒否したが、練習には姉も必ず同伴し、・・・。
初出:ダンス「新潮」2013年1月号、二人の場合「文藝」2012年春季号、風「文藝」2013年秋季号、予感「すばる」2014年1月号
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
どれも乗り切れない。著者は極端に振って、楽しんで書いているかもしれないが、読む方は共感できないし、違和感が強くなってしまう。
「予感」
確かににありそうな、というか、ふとそんな恐怖がよぎるときもあるので、共感はできないが、とんでもない話とは感じられない。
「ダンス」
著者はダンス嫌いで、折に触れ嫌な思いをしたかもと思わせる。実感を極端にして話を作っているわざとらしさが感じられてどうも・・・。
「風」
子どもの姉妹げんかをそのまま大人になっても続けているだけで、新鮮さがない。太っちょと痩せのコンビはなんか絵になりそうではある。
「二人の場合」
この本ではもっとも普通の話で、たまたま分かれ道で進んだ方向の違いで、離れていく親友の気持ちが良く書けている。ほぼ著者の実話なのかなとも思うが、当たり前すぎて物足りない。このテーマならもっと膨らませて、奥行き深く、長編にして欲しかった。
青山七恵は、1983年、埼玉県生まれ。
筑波大学図書館情報専門学群卒業。旅行会社に勤務し、(2009年)退社。
2005年、在学中に書いた「窓の灯」で文藝賞、
2007年『ひとり日和』で芥川賞受賞。
2009年『かけら』で川端康成文学賞を最年少で受賞。
その他、『やさしいため息』、『魔法使いクラブ』、『あかりの湖畔』、『わたしの彼氏』、『花嫁』。
こう書いてくると、けっこう読んでいる。まだ読んでない本は、『窓の灯』『お別れの音』『私の彼女』『すみれ』『快楽』『めぐり糸』だけだった。う~ん、といっても、まだまだ未読の本はある。作家って、ほんと良く書くね。