hiyamizu's blog

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梨木香歩『海うそ』を読む

2014年09月27日 | 読書2

梨木香歩著『海うそ』(2014年4月9日岩波書店発行)を読んだ。

裏表紙にはこうある。
昭和の初め、人文地理学の研究者、秋野は南九州の離島へ赴く。かつて修験道の霊山があったその島は、豊かで変化に富んだ自然の中に、無残にかき消された人びとの祈りの跡を抱いて、彼の心を捉えて離さない。そして、地図に残された「海うそ」ということば・・・。五十年後、不思議な縁に導かれ、秋野は再び島を訪れる――。いくつもの喪失を超えて、秋野が辿り着いた真実とは。

東日本大震災に触発されて書かれたこの物語のテーマは「喪失」という。

昭和の初頭。南九州の島・遅島を青年研究者・秋野が人文地理調査に訪れる。許嫁、両親と恩師を相次いで亡くした彼が見たものは、濃い緑の樹木、カモシカや、野生のヤギ、あふれる自然と穏やかで優しい島人だった。しかし、島を巡ると、立ち並んでいた修験道の寺院は、明治初年の廃仏毀釈で打ち壊され、残骸は藪や、海底に沈み、島の歴史は失われようとしていた。

また、海で死んだ霊魂を慰めるモノミミという信仰がかつてこの島に根付いていて、各家にモノミミの御霊棚も取り付けられていたとわかる。しかし、廃仏毀釈運動は、寺院を破壊し、僧侶を弾圧するだけではなく、各地に長く、深く続いていた固有の民間信仰をも壊滅させていたのだ。

そして、50年後の島は・・・。


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

四つ星にしたが、一般受けはしないだろう。「変わった小説!」と切り捨てる人が多いと思う。

九州の南の島に、かっては修験道の寺が立ち並び、土着的信仰が明治までは深くしみ込んでいた。その面影がかすかに残る昭和初期のこの島。素朴で温かい人々、カモシカ、野鳥、珍しい植物に囲まれた島を、著者は丁寧に描き、雰囲気を伝えてくれる。昭和初期には、すでに失われようとしていたこれらを、喪失感を抱えた青年研究者が痕跡をたずね歩く。

しかし、正直言えば、延々と島の山中を訪ね歩き、植物や動物に詳しい著者に付き合うのは少々退屈な面もあった。そして、50年後の島のバブル状況には、今更、それは・・・とも思う。

小説、全体構成には、なっとくできない点があり、テーマも今一つと思うが、著者の描写力には感心させられる。こう書いてくると、三つ星でもよかったかなとも思う。


梨木香歩(なしき・かほ)
1959年生れ。同志社大学卒。在学中と1987年頃と二度、英国留学。
主婦業のかたわら児童文学を書き、『西の魔女が死んだ』で1994年にデビュー
受賞歴
西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学書受賞
『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞受賞
『家守綺譚』で本屋大賞3位
『沼地のある森を抜けて』でセンス・オブ・ジェンダー賞大賞、紫式部文学賞受賞
『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門受賞
その他のエッセイに、『春になったら苺を摘みに
エストニア紀行

自分の個人的な顔や個人情報を表に出さないタイプの作家の一人
ペンネームの由来は「京都の梨の木神社(同志社大学の隣)を香(かおる・本名)が歩く。
(より)藤本英二氏の「梨木香歩の世界」



コメント
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