今村夏子著『こちらあみ子』(ちくま文庫2014年6月10日筑摩書房発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「こちらあみ子」
小学一年のあみ子は、お母さんが家で開いている書道教室を覗き、見かけたのり君を好きになってしまう。同じクラスだったのり君と時々学校から一緒に帰るようになったが、のり君はほとんど喋らなかった。
ある日、表面のチョコを舐めとった菓子をのり君にあげる。彼は「チョコじゃないじゃんか、クッキーじゃんか」「おいしいじゃろ」「しけっとるし」・・・あみ子はスキップ(兄からは地団駄だと言われている)して家に帰る。
母の妊娠は死産に終わり、あみ子は、金魚の墓の隣に弟の墓を作って喜んでもらおうと母に見せてしまう。その日から、母はやる気を失くし、兄は不良になった。しかしあみ子は、何も変わらなかった。
あみ子は、時々しか学校へ行かず、行っても先生に怒られ、風呂に入らずクラスでも臭いと気味悪がられる。そして一途の愛は変わらずにのり君を追いかける。
あみ子はまともに生きていけない。仲間からはいじめられ、家族は分解する。しかし、状況がわかっていないあみ子はとことん自由だ。そして、対のないトランシーバーに何度も「応答せよ」と繰り返す。
「ピクニック」
ビキニ姿のローラースケート履いた女の子が接客する『ローラーガーデン』に、30代の七瀬さんが入って来た。皿洗い希望だったが、接客係りになった。ただ、ローラースケートは無理なので、裸足となった。
七瀬さんは、有名なお笑いタレント・春げんきと付き合っているという。七瀬さんは恋の相談をルミたちにし、ルミたちも七瀬さんの恋愛を応援する。七瀬さんは、春げんきの落とした携帯を探しに、ドブさらいに通うが、なかなか見つからない。
「チズさん」
88歳になったチズさんはまっすぐ立つことができず、5分で行けるところも一緒に行くと30分かかった。
単行本は2011年1月発行
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
変わった小説に拒否感がある人には三つ星だ。ともかく変な小説というか、主人公のあみ子は変わっている。
「こちらあみ子」も、「ピクニック」「チズさん」もあちら側の人の立場から書かれていて、我々は変わっていると思うのだが、我々の中にも残っている一途の心を拡大して見られる小説になっているような気がする。映画だとわざとらしくなるし、漫画では絵空事と捉えてしまいがちだ。小説だけが表現できるのかもしれない。
漢字も読めないあみ子さんには軽い知的障害があるかもしれない。他人の反応を読み取れないので発達障害でもありそうだ。それでも、あみ子さんは、厳しい状況にあり、本当は優しのに、ルールが分からず周りの人間を傷つけてしまう。不幸の中にいるのに、本人は無邪気に輝いているし、幸せそうだ。それだけにやるせなさと、かすかな明るさを感じる。確かに、周りの人は大変だろうが。
太宰賞受賞会見で、ある記者からの「特異なケースの人の話で自分たちとは関係ないと思う人もいるのではないか」との質問に、選考委員の町田康さん(本書の解説を書いている)は「こわれたトランシーバーで交信しようとする姿はまさにぼくたちの姿じゃないのですかッ!?」と答えたそうだ。
「ピクニック」の場合は、七瀬さんが自分自身もだましているような気がして、ちょっとひっかかる
今村夏子の略歴と既読本リスト