ペトラブッシュ著、酒寄進一訳『漆黒(しっこく)の森』(創元推理文庫Mフ31-1、2015年2月13日東京創元社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
取材で黒い森を訪れた編集者のハンナは、トレッキングの最中に女性の死体を発見してしまう。被害者は10年前に村を出て帰郷したばかりの妊婦だったが、胎児が消えていた。村に伝わる“鴉谷(からすだに)”の不吉な言い伝えや、過去の嬰児失踪事件と関わりが?堅物の刑事と敏腕女性編集者が、閉ざされた村での連続殺人を解き明かす。ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞の清冽なデビュー作!
「漆黒の森」の原題は“Schweig still, mein Kind”(沈黙の我が子?)
死んでいたのは兄が村長を務めるこの村の名家ゾマー家の長女エリーザベトで、10年前からこの地を離れていて、最近突然戻ってきた。彼女は妊娠していたが、おなかは切られ胎児は残っていなかった。
ここは鴉(からす)谷と呼ばれる呪われた地で、無実の罪で処刑された男が亡霊となってさまよっているとしておどろおどろしい祭りが行われる。
ゾマー家の末っ子ブルーノは自閉症・サヴァン症候群で、素晴らしい記憶力で、植物にはとくに詳しい。母フリーダはそんなブルーノを偏愛し、兄ゾマー、姉エリーザベトには異常なほど冷たい。
10年前、エリーザベト親友、当時16歳のジーナが、父親の知れない子を産み、その子が消え、村人は未婚の母が子供を殺したと非難し、のけ者にし続けた。
これらの事件をよそものの警部モーリッツ、地元の婦警や発見者で女性編集者のハンナが、村人やゾマー家の人々が互いに疑心暗鬼の中、事件の捜査を始める。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
犯人探しに至る過程には、大きな驚きはなく、巧みな技も感じられない。
おどろおどろしい村や、閉鎖的な村人、異常な性格のゾマー家に人々が醸し出すあやしげな雰囲気は良く出ている。
エリートのエルリンシュピール首席警部と、鼻っ柱の強い編集者ハンナ・ブロックのやり取り、からみがもっと書き込まれれば、ほほえましさが加わって、奥行きが出たと思うが。それは第2作以降なのだろうか?
自閉症の男性が重要な位置を占め、かなり詳しくその特性、行動を書いているが、関係者を傷つける怖れははにのだろうか?
ペトラ・ブッシュ
1967年、ドイツのメーアスブルク生まれ。ジャーナリストやコピーライターとしても活躍。
大学で数学、情報科学、文学史や音楽学を学ぶ。中世の研究で博士号を取得。
2011年デビュー作の『漆黒の森』でドイツ推理作家協会賞新人賞受賞。
エルリンシュピール首席警部とハンナ・ブロックのシリーズは現在3作刊行されている。
酒寄進一(さかより・しんいち )
1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。
主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン『ベルリン 1919』『ベルリン 1933』『ベルリン 1945』、ブレヒト『三文オペラ』、フォンシーラッハ『罪悪』『コリーニ事件』『禁忌』ほか多数。