酒井順子著『男尊女子』(2017年5月31日集英社発行)を読んだ。
日本社会の「男尊女卑」感は、男性側だけによるものでなく、女性側の「男が上、女が下」、あるいはそうしておいた方が楽という意識に支えられている。「男尊女子」とは、「男を立てる」「男を支える」ことに生きがいを感じる女性たちを指す酒井さんの造語。制度的に男女平等化への道が整ってもなかなか実現しないのは、男尊女子の存在も一因と、バランスに配慮して柔らかに主張している。
計20章のエッセイ集。
「共稼ぎで明らかに夫より稼ぎが多い女性が夫を『主人』と呼んで立てたり、会社のエレベーターでエレベーターガール役を買って出たり、飲み会で『等々力』を『とうとうりょく?』と読んで男性に『バッカだな~』といわれ、『バカじゃないもん!』と口を尖らせる、あえて何も知らないフリをする女など、男尊女子は多い。
「小さな女子マネ」
女子高出身者の中に、大学に入って、男子運動部の女子マネージャーになる者が多かった。喜々として男子の汚れ物を洗う彼女達を見て、初めて「男尊女子」がいることが分かった。酒井さんも男女共学になって、「一歩引いておくと、ラク! そして面倒臭くない!」と自分自身のなかに「男尊女子」が存在することを知った。
「お茶女子」
雇用機会均等法施行初期、意識の高い総合職女性は、職場で認められるように死に物狂いで働いていた。政治の世界で言うなら、市川房江~土井たか子路線。
「九州男女」
男尊女卑の九州男児はリベラル東京女と相性が悪い。九州女子は男子一般に受けが良い。日本で男として生まれた人で、「一歩下がる女」が大嫌いという人はあまりいない。
「言葉の女装」
「一歩二歩、後ろを下がって歩く女性がいいですね」というマッチョ感覚の男性も、夫に対して敬語で話す「正調男尊女子」も、過去のコスプレっぽくあるが、日本には残り続ける一方、言葉の女装・男装から解放された若者達が、フリースタイルで交際を進めていくことでしょう。
「主人」
女性芸能人ブログでの「夫」の呼び名
「主人」10人、「夫」4人、「旦那さん/ダンナさん」7人、「パパ」4人、「名前」2人、「彼」1人
「男女」
「私、結婚しても『うちの嫁が』とかって絶対言われたくないのよね。だって嫁という字は女に家と書いて・・・」などと言っていたら、嫁と言われたくてたまらない男尊女子が手作りハンバーグとともにどこからともなくやってきて、あっという間に男性をかっさらっていくことでしょう。
「おわりに」
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考えに賛成か、反対かという調査
2009年 女性37%賛成、59%反対、男性46%賛成、51%反対 ・・・反対が多い
2012年 女性 賛成と反対がほぼ同数、男性55%賛成、41%反対 ・・・賛成が激増
初出:集英社WEB「レンザブロー」2016年1月~2017年3月
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ジェンダー関連の用語の使われ方、その背景を分析し、歴史的経緯も簡潔にとらえている。
ジェンダーに関する言葉は複雑なニュアンスを持ち、ある面と違う面を含み一概に正悪を決められない。著者は、二面性を正確にとらえ、上手く説明している。そうだそうだ、なるほどと思う
さまざまな話題に関するエッセイを集めたものではなく、全体のテーマが統一されているため、読みやすい。
酒井順子(さかい・じゅんこ)
1966年東京生まれ。立教女学院在学中から雑誌にコラムを執筆。
立教大学社会学部観光学科卒。博報堂入社。3年で退社。
2003年『 負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞・講談社エッセイ賞受賞。
『女も、不況?』『儒教と負け犬』『もう、忘れたの? 』『 先達の御意見』『ズルい言葉』『泡沫日記 』『ほのエロ日記 』、『そんなに、変わった?』(一回目)、『そんなに、変わった?』(二回目)、『中年だって生きている』『子のない人生』他