hiyamizu's blog

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本谷有希子『異類婚姻譚』を読む

2017年08月17日 | 読書2

 

 本谷有希子著『異類婚姻譚』(2016年1月20日、講談社発行)を読んだ。

 

 表題作は芥川賞受賞作。他に3短編。

 

「異類婚姻譚」

ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。

と始まる。

 安逸な専業主婦生活を送る私・サンちゃんは、30歳くらい年上だが近所友達のキタヱさんに、

「気を付けたほうがいいよ。サンちゃんみたいな、なんでもかんでもうけいれちゃうような子は、あっという間に・・・・・かれちゃうんだから。」

と言われる。

 いろいろと格好をつけて疲れてしまいバツイチになった夫は「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言し、テレビのバラエティ番組を飽きもせずに眺めている。

 とくに何事もなく流れていく夫婦の日常。夫が突如大量の揚げものづくりに熱中したり、元妻が変なメールを送ってくるようになったり、キタヱさんの家の猫のサンショが所嫌わず粗相するようになって、山に捨てるのを手伝う話が持ち上がる。

 

 ある日、夫の顔が崩れているのに気がつき、コインを集めるだけのiPadの単純なゲームの世界にはまった夫の顔の崩れはいよいよ酷くなって、なにか異形のものと感じられるようになってくる。

 やがて、サンちゃんも、

朝起きて、鏡を見ると、顔がついに私を忘れ始めていた。

 恐らくその日、私の目鼻は油断していたのだろう。鏡をひょいと覗き込むと、エッ、ウソ、と慌てたように集合し、どうにか元の場所に収まろうとしたが正確には思い出せず、結果、なんとなくぼやけた感じになっていた。

 

 サンちゃんは自分の身体をいつも旦那に飲み込ませていて、お互いを尻尾から食い合って最後は姿を消してしまう二匹の蛇の寓話、蛇ボールになった気がする。もうお互いに人間ではない異形なのだ。異類の婚姻なのだ。

 

 

 “異類婚姻譚”とは、「鶴の恩返し」のように、人間が人間以外のものと婚姻し、何かが起こるという日本古典の説話。

 

 

他、3短編。

「(犬たち)」:人里離れた山小屋で犬たちと暮らす女

「トモ子のバウムクーヘン」:トモ子はキッチンでバウムクーヘンを作る。愛猫ウーライを突如怖いと思い、穏やかな生活に緊張が走る。

「藁の夫」:運動不足の私をジョギングに連れ出してくれた夫は、藁(わら)で出来ていた。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 単純理工系の私でも、日常の中で信じられない不可思議なことが起る話でもなんとか受け入れて、けして拒否ベースではない。しかし、カフカの「変身」や、川上弘美のいくつかの作品のように、主人公が不可思議現象を大きな混乱なく受け入れて、全体として穏やかなユーモアに包まれていることが前提だ。

 

 本谷有希子の作品を初めて読んだが、けっこう面白く読めた。話は日常の何気ない描写の中、不思議なことも淡々とけだるく進んでいく。この不思議さに敢えて抵抗せずに、そんなことがあったとしてもよかろうと、一応受け入れた形にできる人だけが楽しめる。まあ、芥川賞受賞という実績も拒否しにくい点ではあるが。

 

 

本谷有希子(もとや・ゆきこ)

1979(昭和54)年、石川県白山市生れ。2000(平成12)年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。

2002年より小説家としても活動を開始。

2006年『生きてるだけで、愛。』が芥川賞候補。

2007年『遭難、』で鶴屋南北戯曲賞を最年少で受賞。

2009年『幸せ最高ありがとうマジで!』で岸田國士戯曲賞を受賞。

2011年『ぬるい毒』で野間文芸新人賞

2013年『嵐のピクニック』で大江健三郎賞受賞、シンガーソングライターで映画監督の御徒町凧と入籍。

2014年『自分を好きになる方法』で三島由紀夫賞受賞

2016年本書『異類婚姻譚』で芥川賞受賞

他の作品に、『江利子と絶対』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『生きてるだけで、愛。』『あの子の考えることは変』『自分を好きになる方法』などがある。

 

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