東野圭吾著『嘘をもうひとつだけ』(講談社文庫 ひ17-24、2003年2月15日講談社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに一人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが…。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。
5編からなる短編集
嘘をもうひとつだけ
弓削バレエ団の事務員で1年前まではダンサーだった早川弘子がトウシューズを履いて7階の自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は、状況から自殺として処理される方向に向かっていた。だが、加賀刑事はこの事件を元プリマバレリーナで事務局長、早川と同じマンションの斜め上に住む寺西美千代による他殺だと考えていた。加賀刑事は彼女に罠を掛け、もうひとつだけ嘘をつかせる。
真田(演出家)、寺西智也(作者・演出家、美千代の夫(故人))
冷たい灼熱
田沼洋次の自宅で彼の妻・美枝子が殺され、一歳になる息子の裕太が行方不明となった。部屋は荒らされ、通帳などがなくなっていることから、犯人は強盗目的で部屋に侵入、美枝子を殺害し、裕太を連れ去ったかに思われた。だが、加賀刑事は、美枝子殺害と裕太の行方不明の予想外の真実を暴いていく。
第2の希望
楠木真智子は5年前に離婚し、11歳の理砂を育てている。真智子の自宅マンションで恋人の毛利が殺害された。部屋は荒らされ、強盗目的と思われたが、細かい矛盾を見つけた加賀刑事に追及は執拗で厳しい。耐え切れなくなったときの真智子の「第2の希望」は自供だったのだが、それさえ・・・
狂った計算
坂上奈央子の夫・隆正が交通事故で亡くなった。同じ日、坂上夫妻の自宅を建てた建築士・中瀬も行方不明になる。突然の不幸に見舞われた奈央子に加賀刑事は無遠慮に迫っていく。穏やかでない奈央子に対し加賀は水鉄砲で罠を仕掛ける。
友の助言
加賀刑事の友人・荻原が交通事故にあった。荻原は、相談事のために加賀刑事に会いに行く途中で、居眠り運転をして交通事故に遭ったのだ。加賀は不審に思い、真相を調べるが、荻原は居眠り運転だと主張する。
2000年4月講談社より単行本として刊行
初出:「嘘をもうひとつだけ」は「イン・ポケット」1999年5月号、他は「小説現代」1996年~1999年
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
加賀恭一郎シリーズは、犯罪の影の人間ドラマに深みがあり、加賀のやさしさがじっくり光る。しかし、本作品は短編小説集で、謎解きに主眼が置かれ、その分、人間の掘り下げが十分でない。
意外性を持たせるため、被害者/遺族が実は何らかの形で犯行に関わっているケースが多い。その場合、加賀の被害者へのしつこい質問がいやらしい。質問された者はそのたびにドキドキして焦り、十分注意しながらも加賀の罠に陥る。「いやな奴」と、おもわず殺人者の身になって思っている自分に気がつく。
「冷たい灼熱」は殺人が三重になっており、複雑で思い掛けない結末だった。美枝子は浮気しているのだと思って読み進めたのだが、それではなぜ赤ん坊が死んでいるのかがわからなかった。
以下、メモ