朝倉かすみ著『平場の月』(2018年12月20日光文社発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
「おまえ、あのとき、なに考えていたの?」
「夢みたいなことだよ。夢みたいなことをね。ちょっと」
朝霞、新座、志木――。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。
50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる――。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。
「ちょうどよく幸せなんだ」
もう若くはない
男と女の、静かに滾(たぎ)る
リアルな恋。
山本周五郎賞受賞、直木賞候補作品
平場とは、
ヤッソさんと話をしていると、ここは平場だ、と強く感じる。おれら、ひらたい地面でもぞもど動くザッツ・庶民。空すら見なかったりの。
各章での須藤の“つぶやき”が章の名前になっている。
一「夢みたいなことをね。ちょっと」(p12)
二「ちょうどよくしあわせなんだ」(p30)
三「話しておきたい相手として、青砥はもってこいだ」(p66)
四「青砥はさ、なんでわたしを『おまえ』って言うの?」(p95)
五「痛恨だなぁ」(p117)
六「日本一気の毒なヤツを見るような目で見るなよ」(p156)
七「それ言っちゃああかんやつ」(p203)
八「青砥、意外としつこいな」(p208“七”の終わりから2頁目と、p213)
九「合わせる顔がないんだよ」(p243)
青砥が胃の調子が悪く内視鏡検査を受診したら生検になり、落ち込んでいるときに、中三で告白し断られた須藤に会った。須藤は青砥に提案する。「景気づけ合いっこしない?」「どうということない話をして、そのとき、その場しのぎでも『ちょうどよくしあわせ』になって、おたがいの屈託をこっそり逃すやつ‥‥」
青砥健将:50歳。6年前地元に戻り、寡婦になった母の近くに住んだが、妻子に出て行かれた。息子は26歳と24歳で独立している。
須藤葉子:ハコ。青砥の中学の同級生。良い大学出て一流企業に勤め、親友をDV夫と別れさせて結婚。41歳で夫に先立たれ、地元に戻った。内視鏡検査を受ける。
ウミちゃん:ウミウシ似。中央病院の売店でパート。
安西知恵:旧姓橋本。青砥の勤める印刷会社のパートタイマー。青砥と小中同窓。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お好みで)(最大は五つ星)
どうということない日常の会話が続き、読ませていく。これってかなりな文才、文章力を要求されるような気がする。
率直な青砥と、意地っ張りでこだわりのある須藤。不運の中、生きてきた中年同士、長らくの無沙汰を経た中学の同級生同士が、少しずつ距離を縮めていく過程が、実にこまやかに描かれている。同級生で中年の好き同士の微妙な距離感がある二人の、現実感あるリアルな会話がこの作品のポイントだと思う。
しかし、平場とあるのに、最後の方では、がん、闘病、‥‥と多くの小説のようにドラマチックになってしまうのは残念。
1年も会わないことにするのが不自然。何故、妹に連絡しないのか不可解。
読みはじめが分かりにくかった。いつ頃の話なのか、誰の話なのか、分かりにくい描写だと思った。また、「元男子」、「元女子」という言葉に、「LGBT?」と惑わされた。