国電を降りると、テクシーで家に向かう。前を行くギャルの柳腰が気になり、追い越して振り向くと、バックシャンだった。「ガチョーン!」
格子戸を開けて、玄関で、こうもり傘を置いて、シャッポを脱ぎ、襟巻きをはずし、ズックを土間に脱ぎ捨てる。居間のちゃぶ台とおひつをチラッと見て、奥の間に入り、国防色のズボンを脱ぎ、股火鉢で暖まりながら、「ああ、俺ってナウイなあ」と思う。
国電:JRが国有鉄道(国鉄)だったので国電という。私の親父は省電と言っていた。鉄道省だったから。
テクシー:タクシーに乗らずテクテク歩くこと。親父はタクシーを円タクと言っていた。1円で乗れたから?
ギャル:軽薄だが元気な若い女性のこと。ギャル曽根って知らない?
バックシャン:後姿だけが美しい人。シャンはドイツ語で美しいこと
ガチョーン:クレージーキャッツの谷敬のお得意のギャグネタ。「えっ!クレージーキャッツを知らないの? ガチョーン!」って使うんだよ。
格子戸:細い木を縦と横に組んだ扉や引き戸。風や光を通すので解放的。
シャッポ:元はフランス語。帽子のこと。
ちゃぶ台:畳に座って食事するとき使う、折りたためる4脚を持つ低いテーブル。怒ったとき、ひっくり返すもの。
おひつ:炊いたご飯の木製の入れ物。保温するため小さな布団でくるむこともある
2006年6月の「昔の名前が出てきます」の再掲でした。