高田郁著『晴れときどき涙雨』(ハルキ文庫た19-30、2023年2月18日角川春樹事務所発行)を読んだ。
高田郁(かおる)の初のエッセイ集『晴れときどき涙雨 高田郁のできるまで』(創美社)に加え、同名の本(幻冬舎)が刊行されていて、今回の本は、2012年と2014年刊行分にその後の九年間の出来事を加筆した3冊目のエッセイ集。
- 川富士立夏のころ(2005~2009)45編+現在のコメント
- 高田郁のできるまで(~2014)1冊目と2冊目のあとがきの2編
- 明日に繋ぐ想い(~2023) 10編
法曹界を志し10年ほど頑張ったが挫折、交通事故に遭い後遺症に苦しんだ日々、阪神淡路大震災、作者の歩みは順風満帆ではなかった。山本周五郎に衝撃を受け、生きることの切なさを表現できる作家になりたいと漫画原作者から時代小説作家への転身に苦労する。
著者は、あちらこちらと曲がりくねりながら、誰かの人生の伴走者になりうるような小説を目指して、ひたむきな努力を重ねる。この間、著者は運よく多くの素晴らしい人たちに助けられたと語るが、それは真面目、生一本で努力を重ねる著者をまのあたりにして、どうしても手を伸ばしたくなったためだろう。
「あかんたれ」
司法試験の論文式の合格発表の日、危篤状態の父に合格の知らせを届けたくて電話で問い合わせた。ダメだった。・・・
トイレの手洗いで顔をバシャバシャと洗いながら、あかんたれ、あかんたれ、と胸のうちで繰り返した。・・・病室に戻ると、父が目を開けて私の帰りを待っていた。・・・「まだ死なれへんなァ」
「煙に目が沁みる」
小学校の頃、学校のすぐ傍に火葬場があった。……高い煙突から上がる煙を眺めて「ああ、焼いてはるわ」と友達と話しながら登下校したものだ。
(私の小学校も全く同じで、煙と同時に独特のくさい臭いがしたものだった。)
「明日は味方」
両眼の網膜に立て続けに孔が開いた。もし今、筆を折るとしたら一番の後悔は何だろう、と。「まだ時代小説を書いていない」――それが大きな心残りだった。
時代小説の文学賞の奨励賞に選ばれ、憧れの山本一力からサインをもらった。「明日は味方」とあった。
皆の衆、今日は試練の一日だったとしても、「明日は味方」だ。
初出:2012年7月集英社クリエイティブより刊行
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
『みをつくし料理帖』で絶賛の人気作家となりながら、顔出しせず、謎が多い高田郁の過去から現在までがわかり、ファンとしては面白く読める。ただし、前半部は『晴れときどき涙雨 高田郁のできるまで』と同じ。
エッセイとしては、真面目一直線で、遊び、面白味が少ない。