辻村深月著『島はぼくらと』(講談社文庫つ28-18、2016年7月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花。源樹、新の四人の島は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。
地方都市の閉塞感を描いてきた辻村深月の直木賞受賞第一作(単行本)は、課題に立ち向かう離島を舞台にした若者たちの青春小説だ。地方の嫌なところも出てくるが、Iターン、Uターン、シングルマザーに優しいコミュニティー作りなど基本は地方を肯定的に描いている。いずれ離れ離れになる若者たちものびやかだ。
初出:2013年4月刊行
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
なにしろ青春小説だ。私にとって、気分を60年ほどさかのぼらせるのは難しい。全体として美し過ぎる話で、大人の狡さは一部描かれるが、若者のいやらしさや惨めさはほとんで現れない。
作者はミステリー作家でもあるが、ちょっと読むと、4人の行く末は必然的に想像がついてしまう。私には、「幻の脚本」の謎は最後まで分からなかったが。それにしても、約10年後の衣花と朱里が登場する最後の5ページは蛇足では?
人口3千人ほどの瀬戸内海の小島・冴島に住み、フェリーで渡る本土の高校の同級生4人が主人公。
池上朱里(あかり):母と祖母の女三代で暮らす伸びやかな少女
榧野衣花(かやの・きぬか):美人・オシャレ・気が強く、どこか醒めている網元の一人娘
青柳源樹(げんき):2歳の時に父親と共に島に来た。ホテル青屋の息子
矢野新(あらた):真面目で誠実、鈍感。なかなか練習に参加できないが熱心な演劇部員
多葉田蕗子(ふきこ):元背泳ぎの銀メダリスト、シングルマザー、保育園児・未菜(みな)の母
本木真斗(まさと):ウェブデザイナー、元民宿に住む
池上明実:朱里の母、食料加工品会社「さえじま」で働く
矢野:冴島保育園の園長、大阪に住む端乃と新・真砂の母
大矢:村長、元大学教授、40代で島にUターン
ヨシノ:コミュニティーデザイナー
霧先ハイジ:島に幻の脚本を探しに来た作家?、本名富戸野
赤羽環(あかばね・たまき):著名な脚本家