hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

内田樹・高橋源一郎『嘘みたいな本当の話みどり』を読む

2016年09月23日 | 読書2

 

内田樹・高橋源一郎選『嘘みたいな本当の話みどり』(文春文庫う-19-22、2016年7月10日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

あらゆる場所の、あらゆる年齢の、あらゆる職業の語り手による、信じられないほどに多様な「作り話のように聞こえる」実話――。市井の人々から寄せられた話をより選った日本版『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』第二弾は、応募作145篇と、横尾忠則、立川談春、田原総一郎らの「嘘みたいな本当の話」8篇を収録。

 

『嘘みたいな本当の話』の第二巻であり、元となる情報は、「Webメディア・マトグロッソ ナショナル・ストーリー・プロジェクト<日本版>」で公開されている。

 

本家の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」は作家のポール・オースターが、アメリカの普通の人たちからいろいろな実話を集めてラジオで朗読したもの。4000ほど集まったという。

 

「まえがき」で内田樹が、採択の基準として、カテゴライズしにくい「奇妙な後味」と、「そういうことって、あるよね」感があることをあげている。

「奇妙な後味」の例として、古典的ショートショート

「地球最後の男が、地球最後に残ったシェルターで、いま死を迎えようとしていた。すると、ドアをノックする音がした。」

を挙げている。《女じゃないの??》

もう一つ、

猫と並んで昼寝をしていたら、猫が人間の言葉で寝言を言ったので(・・・)、がばっと起き上がって、「いま、寝言言ったの、おまえ?」と猫に問いかけたら、猫が「しまった」という顔をしたという話を村上春樹さんがエッセイに書いていますけれど、こうゆうのが「そういうことって、あるよね」文の代表例です。

 

 

この人です

私は小さな歯科医院を経営する歯医者。医院の慰安旅行の前日の夜、猛烈な歯の痛み。早朝友人の歯科医に神経を抜いてもらい、空港で職員と落ち合う。上空へ行くと気圧が変わり、猛烈な痛みが襲い、座席で悶絶。

「お客様、どうされましたか、お客様」

「歯が、歯が」

そのとき、機内にアナウンスが響き渡った。

「お客様の中に歯医者様はいらっしゃいませんか。お客様の中に歯医者様はいらっしゃいませんか」

涙でにじむ視界の向こうから爆笑する職員たちが私を指さしている。

「この人です」

                   ペンシルベニア州 しんしん (内田)

 

十七時にはあがります

今日が自分の誕生日だったと気がついた友人が近くのケーキ屋へ電話をかけた。店員が電話にでる。

「今日、何時までですかね?」

女の子は一、二秒沈黙して、

「・・・えっ、あたしですか?」

と言った。

                   神奈川県 吉田敬普  (内田) 

 

うっそ~

お向かいのロビンは、とても賢い。

夕方、帰宅する私の足音を聞いて、いつも喜んでくれる。

ある日、履き慣れないハイヒールで帰ってくると、そのロビンが吠えた、足音が違うから、しょうがないかな、と思いながら近づいてゆくと、ロビンが一瞬吠えるのをやめた。

あ、きがついた。

が、次の瞬間、今度は脇の電信柱に向って、吠え始めた。

ねーさん、あっしはこの電信柱が前から怪しいと睨んでたんでさ。

賢い犬はウソもつく。

                        東京都 ふう (内田)

 

三十六年ぶりに

 8歳の時に両親の離婚で別れた母親と14年ぶりに再会した。

その時の最初の会話。

「寂しかった?」

「いや、別に」

「良かった。私も」

その後いつのまにか連絡も途絶え、36年ぶりに83歳の母親と会った。ガンで入院中だった。

その時の最初の会話。

「あら。老けたわねぇ」

「そっちこそ」

「あんたの父親はもっとハンサムだったけどねぇ」

私の性格は母親譲りだとあらためて思った。

              東京都 忙中有閑  (内田・高橋)

 

初出:2012年7月イースト・プレス

 


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 第一巻に続き同様な話が続くので、私の壺にはまる話は1/5くらい。それでも寝転んで読み、楽しめた。この感想文書くためにパラパラと読み返すと、まだ笑ってしまう話は、1/20くらいか?

この種の話はそれで良いと思う。また、何年後かに読むと、違ったところで笑ってしまうのだろう。

 

 

内田樹(うちだ・たつる)

1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒、東京都立大学博士課程中退、神戸女子学院大学文学部名誉教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。

著書に、『ためらいの倫理学』『「おじさん」的思考』『下流志向』

『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、伊丹十三賞受賞。

 

高橋源一郎
1951年広島生まれ。小説家、明治学院大学教授。横浜国立大学除籍。

1981年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀賞
1988年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞
2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞を受賞。
一億三千万人のための小説教室
小説の読み方、書き方、訳し方』(柴田元幸と共著)
山田詠美と共著『顰蹙(ひんしゅく)文学カフェ

訳書に、ジェイ・マキナニーの『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』
5回結婚し、57歳当時、35歳の長女を頭に、1歳と3歳の子供がいた。

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