伊兼源太郎著『密告はうたう 警視庁監察ファイル』(実業之日本社文庫、い13-1、2019年4月15日実業之日本社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
かっての仲間も容赦しない。それが俺の仕事だ――
警察職員の不正を取り締まる部署、警視庁人事一課監察係に所属する佐良(さら)は、元同僚で、現在は運転免許場に勤務する皆口菜子(みなぐちさいこ)の監察を命じられた。彼女が免許証データを売っているとの、内部からの密告があったのだ。佐良は、上司とともに皆口の尾行を始めるが、やがて未解決事件との接点が……実力派の俊英が放つ警察ミステリー!
解説/池上冬樹
私は、WOWOWで放送された(2021年8月~- 9月、全6話)「密告はうたう 警視庁監察ファイル」を見た。主演はTOKIO松岡昌宏で、ほかに仲村トオル、泉里香らが出演した。映像を観たイメージがあるうちに、原本を読むのも善し悪しだが、このTV番組は原本をかなり忠実にたどっているので、違和感、不満はほとんどなく、逆に原本や、作者の他の本を読みたいと思った。
本書は、警視庁監査ファイルシリーズ3作の第一作。
「密告はうたう」は、「密告は、真実かガセか、背景か、何かを語っている」(p332)の意味。
目白駅暴行殺人事件:佐良や皆口、宇田が池袋西署にいた5年前、目白駅で会社員の男が口論のすえ、殴り殺された。犯人は捕まっていない。捜査一課からは新穂らが参加。
武蔵野市の町工場の社長刺殺事件:捜査一課の佐良と斎藤、吉祥寺署の皆口は、斎藤の情報に基づき関係者の密会場所へ行き、叫び声に一人飛び出した斎藤は銃撃で死亡した。
佐良が異動し一年後、人事一課に「皆口が免許証データを売っている」との密告文書が届き、佐良は須賀と共に皆口を行確(こうかく、行動確認。警察職員を見張って、不正の有無を確かめる。)することになる。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
警察職員の不正を暴くための部署・警視庁警務部人事一課監察係という存在がそのものが面白い。刑事を張り込み、尾行し、捜査するという高度な技。警察内部からも裏切者と毛嫌いされ、敵視、警戒される組織の面白さ。
捜査中に部下が殺されてしまったという傷を抱えたまま、仲間の警察職員を調べ、罪を暴く監察係になって、かつての仲間からも敵視されながら、捜査に当たる主人公の背景が物語に深みを増す。
ミステリーでも過去の傷に苦しみながら、かっこよく邁進する主人公は多い、本書ではその過去の事件が直接、現在の捜査にからんできて、両事件の謎が解明される。もっとも、さらにその奥の深い謎は、シリーズ第3作『残響 警視庁監察ファイル』で明らかにされるのだが。
主人公が傷に苦しみながらの嫌な仕事となって、半分自棄になり、淡々と仕事を進めるうちに、上司たちの高度な技と、仕事に徹底した考え方に感心し、監察業務に打ち込んでいく過程に心惹かれる。
佐良(さら):警務部人事一課監察係主任。一年前に捜査一課から配属され、20人以上行確した。
須賀:警務部人事一課監察係係長。いくつもの班を束ね、班長に指示を出す。40代半ば。本件は佐良と組む。
能馬:警務部人事一課監察官。無表情で能面の能馬のあだな。公安部出身。
皆口菜子(さいこ):交通部府中運転免許試験場課員。一年前に捜査一課から配属。31歳。高校で有名な空手選手。
斎藤:元刑事部捜査一課員(殉職)。
宇田:高井戸署刑事課主任。元池袋西署。25年前高卒入庁。落としの宇田、武者と呼ばれる。
梶原:高井戸署長。皆口と斎藤の結婚式で、当時の署長で斎藤側の主賓。池袋西署で佐良と宇田の上司。親分肌。
堤:成城署長。皆口と斎藤の結婚式で、当時吉祥寺署長で皆口側の主賓。管理職肌。
六角:警務部長。人事一課が直属する。警視庁で警視総監、副総監に次ぐ地位。
新穂:刑事部捜査一課。目白駅暴行殺人事件専従捜査班長。あと一年で定年。
北澤:刑事部鑑識課員。佐良の同期。あと数年で捜査一課に戻るはず。
夏木:早稲田署生活安全課。池袋西署で皆口の一つ上の姉貴分。
佐々木:自称フリーライター。皆口と会っていた。47歳。
虎島:弁護士。
エス:情報屋
ハム:公安を揶揄する呼び名
うたう:自白の意味
マルタイ:捜査対象
帳場:捜査本部
吉祥寺署:吉祥寺署はない。実際は武蔵野警察署。高井戸署はある。
アーケード街(サンロード)にあるドイツパン屋(p20)=リンデ Linde
精肉店のさとうでは連日メンチカツを求める行列ができ、焼き鳥店のいせやは昼の開店と同時に…。
「レンタカー店。井の頭通り添い、駅の西側」(p268)。実際は東側。