真保裕一著『英雄』(2022年9月30日、朝日新聞社出版発行)
……主人公となる植松英美は中学に入る頃、自分だけ弟妹とは父親が違うと教えられた。しかしその名前も聞かされぬまま、母の秋子は七年前に他界。ところが三十歳近くなったある夜、突然ふたりの刑事が実家を訪ねてきたことを機に、実父の素性を知らされる。
一年半ほど前、東京・足立区の河川敷で胸を二発の弾丸で撃ち抜かれ死亡した男性が、その人だった。南郷英雄、享年八十七。南郷は北関東を拠点に運輸、建設、小売業を幅広く展開するグループ企業の創業者であり、亡くなった当時も主要三社を運営管理していく山藤ホールディングスの相談役を務めていた。
実父が大手企業の創業者だった驚き。射殺されたという衝撃。いくつかの事情が重なり、英美は実父の人となりや、誰に、なぜ殺されたのかを知りたいと願い動き出していく。
(後半は、昭和25年から南郷が上り詰めていく苦闘の半生が語られる。)
植松英美(えみ):母・秋子は7年前に病死。異父弟は正貴、異父妹は瑞希。叔母は春子。義父は後藤忠樹。
南郷英雄:山藤ホールディングス創業者。87歳で射殺される。英美の実の父。
南郷家:英雄の後妻は百合。長男は57歳の亮太郎。次男は康作。長女は葉子。宮城俊哉は葉子の夫。
田代諭:山東建設の元副社長、 安井敏弘:山東建設の元事業本部補佐、野中尚宏:山東商事の元秘書室長
深尾円佳:英美の担当弁護士。非摘出子。
岸本:南郷英雄殺害事件の捜査刑事
初出:「小説トリッパ―」2021年冬季号~2022年夏季号
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
前半は英美が、父がどんな人だったかを知るため数々の困難を乗り越えていく話なのだが、なぜ、身の危険をものともせず突き進んでいくのかが納得できず、そこまでやるかと白けた。徐々に徐々にと前に進んでいくので、スピード感に欠けた。
後半は、戦後の混乱の中で、南郷が成り上がっていく過程が語られ、戦後の雰囲気も出ていて面白く読んだが、前半の話と異質なので、この話だけでもっと書き込んでまとめた方が良いのではと思ってしまった。
誰に殺されたのかというミステリーの点からは、結末が呆気なく、十分納得したとは言えなかった。
真保裕一(しんぽ・ゆういち)
1961年、東京都生まれ。アニメーション制作に携わった後、
1991年『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
1996年『ホワイトアウト』で吉川英治文学新人賞
1997年『奪取』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞
2006年『灰色の北壁』で新田次郎文学賞を受賞。
著書に、『連鎖』『震源』『黄金の島』『繋がれた明日』『アマルフィ』『正義をふりかざす君へ』『アンダーカバー 秘密調査』『ダブル・フォールト』『レオナルドの扉』『赤毛のアンナ』『ダーク・ブルー』『シークレット・エクスプレス』『デパートへ行こう!』『ローカル線で行こう!』『オリンピックへ行こう!』『遊園地に行こう!』『脇坂副署長の長い一日』『天使の報酬』『アンダルシア』『真・慶安太平記』『暗闇のアリア』『追伸』、本書『英雄』など。