1日(火)は、LPSA芝浦サロンへ向かった。ちょっと紛らわしいが、この場合の「芝浦サロン」は、建物の名前をさす。今回は「芝浦ナイタートーナメント」を指す名目であるが、実際は先日このブログにも書いたとおり、ドイツ人のFさんと将棋を指すためであった。
Fさんの職業は大学教授(らしい)。私は将棋ペンクラブの会員だが、同クラブには、ふだんならお目にかかることすら叶わない、結構な職業や肩書の方が大勢いる。
そのたびに私は、将棋を趣味にした余得を実感するのだが、Fさんともそうで、ふたりの間に「将棋」がなかったら、Fさんは別世界の存在でしかなかった。
言うまでもないがFさんは大の将棋ファンで、植山悦行七段、中井広恵女流六段らと親しい。日本語に堪能で、日本人よりよほど正しい日本語を話す。そして外国の方のほとんどがそうであるように、ジョークがうまい。ヒトを楽しませる方である。
午後6時少し前に入室すると、Fさんのほかに植山七段、その奥に中井女流六段の姿があった。
とりあえずトーナメント戦の参加費を払って、中へ進む。ティーンの女の子がいる。植山・中井ご夫妻のご長女だった。そういえば以前、どこかで拝見したことがある。
その長女に植山七段が、
「この人(私のこと)は濃いんだよ。将棋に関してだけどね…。肌の色じゃないんだよ」
と、いらん情報を吹き込んでいる。
それを黙って聞いているご長女は、お父さん似だ。目などはそっくりである。
Fさんは6時30分からのトーナメント戦には参加しないとの由。私はFさんと将棋を指しに来たので、ではトーナメント開始の前に一局指しましょう、ということになった。
「切れ負けは将棋じゃありません」という植山七段の意向にそって、持ち時間は15分、秒読みは30秒に設定した。
植山七段が私の左に座り、Fさんの先手で対局開始。☗7六歩☖3四歩☗7七角。これは…最新戦法を勉強している!と思いきや、☖8四歩に☗8八飛と振ってきた。向かい飛車の作戦だった。
私は☖6三銀から☖7四銀と出るが、Fさんは角頭を気にして、☗2二角成。しかしこれでは序盤の☗7七角がムダになった。
さらにFさんは☗1八香。☗3八銀と締まれば片美濃囲いが完成するところを、穴熊の明示である。誰だ? この囲いを教えたのは!? 穴熊好きのLPSA女流棋士だろうか。
私の☖3三銀にF氏は☗1九玉と潜らず、☗5五歩と突く。ここ☗1九玉なら☖5四角☗2八銀☖7六角の1歩損を気にしたからだが、局後植山七段は、そこで☗7八金と上がっておけば先手に不満はない、とのことだった。
しかしそれなら私は、以下☖8六歩☗同歩☖8七歩☗8九飛(☗8七同金は☖6七角成)☖8六飛を予定していた。
次に☖8八歩成☗同金☖6七角成の狙いで、それは☗6八銀で受かるのだが、Fさんがそう指すかどうか、見てみたかった気がする。
本譜に戻るが、☗5五歩と指しても、☗1九玉には☖4五角があり、まだ潜れない。そこでFさんは☗5六銀と立ったが、穴に潜るためにこんな苦労をするなら、最初から美濃に組んでおけばよかったと思う。
私は空いた地点に☖5七角と打ち、労せずして馬を作る。これは序盤早々、一本取った。
☗1九玉☖2四角成☗2八銀☖5七馬☗5八飛☖同馬。後手好調に見えるが、☖5七馬が、楽観からくる緩手だった。ここは☖8六歩☗同歩を入れて☖5七馬なら、以下同様に進んだとき、☖8六飛と走る手があって、後手必勝だった。
とにかく飛車を手に入れた私は☖7九飛から☖7七飛成と桂を取ったが、これは竜が三段目に逸れ、ソッポだったか。
数手後の☗7一角に、形よく☖8四飛には☗9五角がある。これも☖7七飛成の罪だ。仕方なく☖8三飛と浮いたが、これではおかしい。
Fさん、☗5四歩の垂らし。私は☖6三銀と引こうとしたが、☗5三歩成があるのに気付き、慌てて戻す。Fさんも「ア」と言った。怪しい手つきをFさんに咎められたようで、自己嫌悪に陥った。
私は力なく☖5一香。しかしこの香は2四に打つべきで、これも変調だった。
以下はFさんの快調な攻め、私の弱々しい受けがハーモニーを奏で、私の玉がみるみるうちに寄り形になる。Fさんはとうに秒読みだが、指し手は的確だ。
Fさん、決め手の☗3五銀。序盤、私が☖7九飛と打ったあたりで席を外した植山七段が戻ってきたが、私の必敗になっていたので、
「どうしてこうなっちゃったんですか!?」
と目を丸くした。駒込金曜サロンではお馴染みのフレーズだが、自分に投げられると、つらいものがある。
☗3三銀不成☖3一玉。ここで☗2二銀成なら即詰みはないが、Fさんは落ち着いて☗2二銀不成。植山七段から「お見事!」の合いの手が飛んだ。
私は投げ切れずに、最後まで指す。☖4二玉☗3三馬まで、私の投了となった。
局後はFさんから
「☖5一香デハ☖4二金ト上ガッテ、☖2四香ト☖3五桂ト打テバ、穴熊ガクズレタノデハナイデショウカ」
との感想があった。まさに仰るとおりで、返す言葉がなかった。
中盤以降は私がボロボロだったが、Fさんも踏み込みがよく、優勢になってからは完璧な指し回しだったと思う。まずはFさん快勝の一局。どうもおもしろくないが、以下に全棋譜を記して、Fさんへの敬意とする。
先手・F
後手・一公
(持ち時間15分、切れたら1手30秒)
☗7六歩☖3四歩☗7七角☖8四歩☗8八飛☖6二銀☗6八銀☖4二玉☗4八玉☖3二玉☗3八玉☖5二金右☗2八玉☖6四歩☗5六歩☖6三銀☗5七銀☖7四銀☗2二角成☖同銀
☗7七桂☖8五歩☗1八香☖3三銀☗5五歩☖1四歩☗5六銀☖5七角☗1九玉☖2四角成☗2八銀☖5七馬☗5八飛☖同馬☗同金左☖7九飛☗3九金☖7七飛成☗5四歩☖同歩
☗7一角☖8三飛☗7二角☖8四飛☗5四角成☖8八竜☗4八金左☖9九竜☗5五馬☖5九竜☗4九金引☖6九竜☗5四歩☖5一香☗6四馬☖4二銀☗5五馬☖3三桂☗3六歩☖4四桂
☗3五歩☖5六桂☗3四歩☖4四銀☗5六馬☖5八歩☗3三歩成☖同銀上☗3四歩☖2二銀☗4四角成☖同歩☗3三銀☖同銀☗同歩成☖同玉☗3四歩☖4三玉☗6六桂☖4五銀
☗5五馬☖3四玉☗7四桂☖5九歩成☗4八金左☖5八と☗3八金寄☖4九と☗2六桂☖4三玉☗3五銀☖7一角☗6二銀☖3九と☗4四銀☖4二玉☗3三銀不成☖3一玉☗2二銀不成☖4二玉☗3三馬
まで、101手でFさんの勝ち。
Fさんの職業は大学教授(らしい)。私は将棋ペンクラブの会員だが、同クラブには、ふだんならお目にかかることすら叶わない、結構な職業や肩書の方が大勢いる。
そのたびに私は、将棋を趣味にした余得を実感するのだが、Fさんともそうで、ふたりの間に「将棋」がなかったら、Fさんは別世界の存在でしかなかった。
言うまでもないがFさんは大の将棋ファンで、植山悦行七段、中井広恵女流六段らと親しい。日本語に堪能で、日本人よりよほど正しい日本語を話す。そして外国の方のほとんどがそうであるように、ジョークがうまい。ヒトを楽しませる方である。
午後6時少し前に入室すると、Fさんのほかに植山七段、その奥に中井女流六段の姿があった。
とりあえずトーナメント戦の参加費を払って、中へ進む。ティーンの女の子がいる。植山・中井ご夫妻のご長女だった。そういえば以前、どこかで拝見したことがある。
その長女に植山七段が、
「この人(私のこと)は濃いんだよ。将棋に関してだけどね…。肌の色じゃないんだよ」
と、いらん情報を吹き込んでいる。
それを黙って聞いているご長女は、お父さん似だ。目などはそっくりである。
Fさんは6時30分からのトーナメント戦には参加しないとの由。私はFさんと将棋を指しに来たので、ではトーナメント開始の前に一局指しましょう、ということになった。
「切れ負けは将棋じゃありません」という植山七段の意向にそって、持ち時間は15分、秒読みは30秒に設定した。
植山七段が私の左に座り、Fさんの先手で対局開始。☗7六歩☖3四歩☗7七角。これは…最新戦法を勉強している!と思いきや、☖8四歩に☗8八飛と振ってきた。向かい飛車の作戦だった。
私は☖6三銀から☖7四銀と出るが、Fさんは角頭を気にして、☗2二角成。しかしこれでは序盤の☗7七角がムダになった。
さらにFさんは☗1八香。☗3八銀と締まれば片美濃囲いが完成するところを、穴熊の明示である。誰だ? この囲いを教えたのは!? 穴熊好きのLPSA女流棋士だろうか。
私の☖3三銀にF氏は☗1九玉と潜らず、☗5五歩と突く。ここ☗1九玉なら☖5四角☗2八銀☖7六角の1歩損を気にしたからだが、局後植山七段は、そこで☗7八金と上がっておけば先手に不満はない、とのことだった。
しかしそれなら私は、以下☖8六歩☗同歩☖8七歩☗8九飛(☗8七同金は☖6七角成)☖8六飛を予定していた。
次に☖8八歩成☗同金☖6七角成の狙いで、それは☗6八銀で受かるのだが、Fさんがそう指すかどうか、見てみたかった気がする。
本譜に戻るが、☗5五歩と指しても、☗1九玉には☖4五角があり、まだ潜れない。そこでFさんは☗5六銀と立ったが、穴に潜るためにこんな苦労をするなら、最初から美濃に組んでおけばよかったと思う。
私は空いた地点に☖5七角と打ち、労せずして馬を作る。これは序盤早々、一本取った。
☗1九玉☖2四角成☗2八銀☖5七馬☗5八飛☖同馬。後手好調に見えるが、☖5七馬が、楽観からくる緩手だった。ここは☖8六歩☗同歩を入れて☖5七馬なら、以下同様に進んだとき、☖8六飛と走る手があって、後手必勝だった。
とにかく飛車を手に入れた私は☖7九飛から☖7七飛成と桂を取ったが、これは竜が三段目に逸れ、ソッポだったか。
数手後の☗7一角に、形よく☖8四飛には☗9五角がある。これも☖7七飛成の罪だ。仕方なく☖8三飛と浮いたが、これではおかしい。
Fさん、☗5四歩の垂らし。私は☖6三銀と引こうとしたが、☗5三歩成があるのに気付き、慌てて戻す。Fさんも「ア」と言った。怪しい手つきをFさんに咎められたようで、自己嫌悪に陥った。
私は力なく☖5一香。しかしこの香は2四に打つべきで、これも変調だった。
以下はFさんの快調な攻め、私の弱々しい受けがハーモニーを奏で、私の玉がみるみるうちに寄り形になる。Fさんはとうに秒読みだが、指し手は的確だ。
Fさん、決め手の☗3五銀。序盤、私が☖7九飛と打ったあたりで席を外した植山七段が戻ってきたが、私の必敗になっていたので、
「どうしてこうなっちゃったんですか!?」
と目を丸くした。駒込金曜サロンではお馴染みのフレーズだが、自分に投げられると、つらいものがある。
☗3三銀不成☖3一玉。ここで☗2二銀成なら即詰みはないが、Fさんは落ち着いて☗2二銀不成。植山七段から「お見事!」の合いの手が飛んだ。
私は投げ切れずに、最後まで指す。☖4二玉☗3三馬まで、私の投了となった。
局後はFさんから
「☖5一香デハ☖4二金ト上ガッテ、☖2四香ト☖3五桂ト打テバ、穴熊ガクズレタノデハナイデショウカ」
との感想があった。まさに仰るとおりで、返す言葉がなかった。
中盤以降は私がボロボロだったが、Fさんも踏み込みがよく、優勢になってからは完璧な指し回しだったと思う。まずはFさん快勝の一局。どうもおもしろくないが、以下に全棋譜を記して、Fさんへの敬意とする。
先手・F
後手・一公
(持ち時間15分、切れたら1手30秒)
☗7六歩☖3四歩☗7七角☖8四歩☗8八飛☖6二銀☗6八銀☖4二玉☗4八玉☖3二玉☗3八玉☖5二金右☗2八玉☖6四歩☗5六歩☖6三銀☗5七銀☖7四銀☗2二角成☖同銀
☗7七桂☖8五歩☗1八香☖3三銀☗5五歩☖1四歩☗5六銀☖5七角☗1九玉☖2四角成☗2八銀☖5七馬☗5八飛☖同馬☗同金左☖7九飛☗3九金☖7七飛成☗5四歩☖同歩
☗7一角☖8三飛☗7二角☖8四飛☗5四角成☖8八竜☗4八金左☖9九竜☗5五馬☖5九竜☗4九金引☖6九竜☗5四歩☖5一香☗6四馬☖4二銀☗5五馬☖3三桂☗3六歩☖4四桂
☗3五歩☖5六桂☗3四歩☖4四銀☗5六馬☖5八歩☗3三歩成☖同銀上☗3四歩☖2二銀☗4四角成☖同歩☗3三銀☖同銀☗同歩成☖同玉☗3四歩☖4三玉☗6六桂☖4五銀
☗5五馬☖3四玉☗7四桂☖5九歩成☗4八金左☖5八と☗3八金寄☖4九と☗2六桂☖4三玉☗3五銀☖7一角☗6二銀☖3九と☗4四銀☖4二玉☗3三銀不成☖3一玉☗2二銀不成☖4二玉☗3三馬
まで、101手でFさんの勝ち。