傍らではU君のお母さんが、さりげなく戦況を見守っていた。
第1図から私は△4五同銀と取った。が、これがとんだスッポ抜けだった。
以下▲同桂△5七歩成となって後手も指せると思ったのだが、▲3二銀と打たれておのが錯覚に気付いた。ここで△3三金を読んでいたのだが、▲4五桂があるので無効なのだ。
さりとて△5四金では▲5七飛で何をやってるのか分からない。よって△5八歩と打ったが、▲4三銀成△5九歩成▲4二成銀で大勢決す。数手後に投了した。
Sar戦もU戦も前日は互角以上に戦えたのに、今日は全然ダメだ。
6局目はOg氏に教えていただく。
「今日の成績はどうですか」
「勝ったり負けたりです」
「勝ったり負けたり?」
そう言われて考えてみたら、今日は初戦に勝っただけだった。
Og氏は振り飛車党だが、本局は中飛車に振った。私の居飛車明示にOg氏が△4二金と立ったのが珍しい。
私は▲3八飛と回るが、Og氏は△4五歩と先攻してきた。
第1図以下の指し手。▲4五同歩△8八角成▲同玉△5五歩▲同歩△同飛▲4八飛△3三桂(第2図)
私は▲4五同歩。△8八角成で形はわるくなるが、1歩得だから不満はない。
第2図以下の指し手。▲4四歩△3二銀▲3七桂△3五歩▲4六銀△5八飛成▲同金△3六歩▲4五桂△3七歩成▲4九飛△3六角▲5九歩△3八と▲4七飛△5六金(第3図)
▲4五歩取りなので私は▲4四歩と突いたが、後手の飛車の横利きが通ってよくなかった。
ここは▲4六銀を考えていたのだが、△同飛(錯覚)▲同飛△5五角で負け、と読んだのだからお話にならない。U戦の△4五同銀といい、読み抜けが多すぎる!
△3七歩成に▲同銀は△5五角で負けなので▲4九飛と辛抱したが、これでは先手さえない。以下Og氏に気持ちよく攻められ、早くも敗勢となった。
第3図以下の指し手。▲7五角△4七金▲4二角成△5八金▲同歩△同角成▲7八金△4五桂▲同銀△6四桂▲3二馬△4八飛(第4図)
私は苦し紛れに▲7五角と打った。以下も攻め合いに来られて苦しいが、こちらも金を取れたのは大きい。これで少しは形になったと思った。
Og氏の△6四桂はやや失着。私は△7六桂を防ぎつつ▲3二馬と銀を取った。Og氏は見落としに気付いて天を仰いだが、こちらも馬筋が変われば△7六桂が飛んでくるので、あまり得した感じはなかった。
△4八飛に次に一手は。
第4図以下の指し手。▲7九金打△5六歩▲5九歩△6八馬▲同金上△5七歩成▲同金△6九銀▲5八金△7八銀成▲同玉△4五飛成▲3一飛△4八と▲6八金(第5図)
▲7九金打はもったいない気がしたが、▲7九銀打には△6九金が見えて指せなかった。
Ogは筋よく寄せてくる。私は仕方のない応手が続き、半分諦めていた。
第5図以下の指し手。△5六桂▲6九金△6八銀▲同金△同桂成▲同玉△5九と(投了図)
まで、Og氏の勝ち。
Og氏は△5六桂と跳ねる。△7六桂が利かなかったからこちらで活用したわけで、さすがの駒の使い方である。
私は銀桂と駒台に乗せたが、金が持駒にないと、後手玉に詰めろがかからない。この辺りは本当にもどかしかった。
△5九とで、先手玉は一手一手。凌ぐ手を考える気力がなくここで投了した。が、Og氏に「エーッ!?」と叫ばれてしまった。
横で見ていたShin氏が、「▲7七玉はないですか?」と言う。
調べてみると意外に難しかったが、先手の負けには変わりはない。それに私の実力では▲7七玉は見えなかった。ということは、どちらにしても私の負けということだ。
感想戦では序盤からみっちり教えていただいた。
「▲4四歩に△3二銀は、ここに引けるのがミソでしてね、脇先生の四段昇段の自戦記がこの形でした」
そんな昔の記事を憶えているとは、私は驚くばかりである。元奨励会の情報量はかくもすごいのだ。
第4図まできて、Og氏は▲5九銀打を指摘した。△同馬なら▲同銀で飛車取りの先手が残る。何より金を温存しているので、後手玉に詰めろがかかりやすいのだ。
本譜は私に金がなかったため、一手スキがかからずどうにも手の施しようがなかった。
結局私の敗着は、後手が△4二金と構えていたにもかかわらず▲3八飛戦法を採ったこと、となった。
作戦の岐路の段階で敗着の烙印を捺されるとは…。奨励会経験者の目は厳しいのであった。
気が付くと大野八一雄七段とW氏がいない。どこかに買物に行っているようだ。でも私たちには将棋盤と駒があれば、組み合わせを替えていくらでも対局するのである。7局目はTod氏と指す。これも終始難しい戦いだったが、私の勝ち。
隣はHon―Shin戦だが、振り飛車穴熊のHon氏がなかなかの指し回しを見せている。しかしShin氏も妖しく迫り、私はShin氏持ちだったが、Hon氏が勝った。Hon氏、前日は大野七段に勝っているし、今絶好調である。
大野七段らはまだ戻ってこない。それで、Shin氏と指すことにした。
(つづく)