見もの・読みもの日記

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多様な選択肢ゆえに/女女格差(橘木俊詔)

2008-06-20 23:56:35 | 読んだもの(書籍)
○橘木俊詔『女女格差』 東洋経済新報社 2008.6

 「格差」は、家計所得の比較を基礎に論じられることが多い。すると、当然、世帯主(主たる稼ぎ手)である男性に注目が集まる。また、男女格差の問題は「ジェンダー・ギャップ」とも呼ばれて、それなりの市民権を得ている。しかし、この問題に真剣な女性たちは、得てして、女性内部の格差には目をつぶりがちなのではないかと思う。そんな状況の中、本書は「女性の間に存在する格差を明らかにする目的で書かれた」日本初の試みであるという。

 本書は、実に多くの統計データを駆使して、日本の女性たちの置かれた現状を鮮やかに示している。ほとんどページをめくるごとに表やグラフが登場し、新鮮な驚きを与えてくれるが、それらは必ずしも著者が実施したものではなく、公表データが多い。つまり、本書のような分析は「やろうと思えば誰でもできる」はずだが、公表データの「読み方」「使い方」に、著者の本領が発揮されているようだ。非常に面白いし、どこまでも「平常心」を感じさせる淡々とした文体も好きだ。あと、淡々とした文体で、けっこう大胆な推論や提言を行っているところも、お役所の統計データブックと違って、面白く読んだ。

 たとえば、妊娠・出産後の就業継続問題。公務員女性は妊娠1年後に8割強が就業を継続しているが、民間企業はずっと退職率が高い。これは、公務員の場合、出産休暇や育児休業の制度が整備されているから、というのが一般的な説明である。しかし、別の見方をすれば、民間企業の場合、子育てが終了してから再び働く女性も多い。「公務員は一度やめればなかなか復職できないので、公務員であることを保持するために継続就業率が高いのである」と言われると、全くそのとおりで、どっちが幸せなのか、よく分からなくなる。

 1987~2005年の間、未婚女性に、将来どんな人生を送りたいか(理想および予定)という質問をしたところ、いちばん比率が高かったのは、妊娠・出産後に退職→子育てに専念→子育て終了後に再就職、というライフコースだったという。出産後も働き続ける両立コースは、「理想」においては増え続けて30%に達しているものの、「予定」はまだ20%に留まる。ちなみに男性が期待する女性のライフコースも再就職コースが圧倒的に多い(専業主婦を望む男性は激減)。うーん。だとすると、いわゆる就業女性の「M字カーブ」は解消されるべきものなのか、どうか? むしろM字がもっと深くなっても(再就職口の心配をせず、子育て期に離職する女性が増えても)いいんじゃないの?

 あっと思ったのは、M字カーブの形状が、教育水準(学歴)によって異なる、という指摘。大学・大学院卒という高学歴女性は、20代では短大卒や高卒の女性より、かなり高い比率で働いている。ところが、M字の底を過ぎたあとは、それほど高い割合で再就職していない。むしろ高卒女性の有職率のほうが、急カーブで上昇する。これは、高学歴女性は高学歴男性と結婚することが多く、世帯所得が多いので、働く必要がないとか、高学歴女性でも、いったん離職すると本人が満足できるようなレベルの高い仕事を見つけられないとか、いろいろ説明方法はあるが、日本の高等教育って、ずいぶんムダになってるんだなあ、と思って、がっくりしてしまった。

 なお、女性に関する統計データに近視眼的に注目するのではなく、たとえば女性の高等教育進学率を考えるのに、戦後社会の経済成長や家庭の「暮らし向き」に目配りしたり、女性のキャリアを考えるのに、一般的に昇進を決定する要素とは何かから説き起こしている点は、本書に、含蓄と奥行きを与えている。第9章「美人と不美人」はご愛嬌。
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