見もの・読みもの日記

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関西旅行10月編:秘仏ご開帳をめぐる(1)

2008-10-13 23:28:05 | 行ったもの(美術館・見仏)
 花山法皇一千年御忌にあわせた西国三十三所結縁ご開帳が始まっている。先月も京都・清水寺のご本尊を、8年ぶりに拝みに行ってきたばかりだが、今月は和歌山へ。土曜の夜に和歌山入りして、日曜の朝から秘仏探訪を開始する。

■第三番 風猛山粉河寺(和歌山県紀の川市)
http://www.kokawadera.org/index.html

 ここは2005年3月に一度来たことがあるが、印象に残っているのは、中門の四天王像くらい。果たして”ご開帳”に値する仏像なんてあるのかしら、と疑いながら歩を進める。本堂の隣りの方形の小さなお堂「千手堂」に五色の幔幕がたなびいている。どうやら、こちらが結縁ご開帳の会場らしい。拝観料300円(本堂共通)を払って堂内へ。一段高くしつらえたお厨子の扉が大きく開け放たれており、幼児ほどの、小さな千手観音の全身がよく見える。

 お厨子の内壁の金色、薔薇の花を貼り付けたような舟形光背(湧き上がる雲を模したもの)の金色が、したたるようにあでやか。長い年月を経た尊像の肌は黒ずんでいるが、黄金の瓔珞、ティアラのような宝冠は、今出来の輝きである。宝冠の左右には、珊瑚だろうか、桃色の宝珠が色を添える。美しいのは、衣(特に腰から下)を飾る截金(きりがね)。魚鱗のように繊細な文様は、人魚姫のようだ。217年ぶり(寛政期以来!)の公開という、秘仏中の秘仏というだけのことはある。左右に背負った脇手の広がりが小さいので、スラリと細身の印象である。

 堂内係のおじいちゃんは「解説はようしません」と言いながら、問いかけられると、いろいろなことを教えてくれた。粉河寺のご本尊は「絶対秘仏」である。しかし、今回、西国三十三所のお寺が結縁ご開帳をすることになったので、困った末に、古例(217年前)に倣って、この千手観音をご開帳することにした。もちろん217年ぶりだから、寺の人間も見たことがない。「ご住職は、朝夕このお堂でお勤めをなさってるんで分かりませんけど」とのこと。でも、重要文化財の指定を受けているのだから、文化財関係者には見せているのね。

 ちなみに、ご本尊は、本堂の「お厨子の下」にいらっしゃるそうだ。本堂の下には深い井戸があって、ご本尊はその中にいらっしゃるとか。別のおじいちゃんは、何か(火災など)あったときは、すぐに井戸の中に沈めることができるようになっている、と語っていた。確かに、境内をきれいな川が流れているので、本堂の下に井戸があっても不思議でない。粉河寺は、豊臣秀吉の焼き討ちによって、多くの伽藍と寺宝を焼失した後、紀州徳川家の庇護のもと、再建された。そのとき、火災からご本尊を護る独特の工夫がなされたのかもしれない。

 その本堂に入る。須弥壇中央のお厨子はぴたりと扉を閉じており、左右を二十八部衆が護る。けれども、気になるのは須弥壇の下。そっと覗き込むと、今にも動き出しそうな、2匹の堂々とした蟠龍の彫り物が、ギョロ目を光らせて須弥壇を護っている。本当のご本尊のボディーガードは、この龍たちなのではないかしら。そんなことを思った。

■第二番 紀三井山金剛宝寺(紀三井寺)(和歌山県和歌山市)
http://www.kimiidera.com/

 ここも2005年4月以来の再訪(2005年の春は、なぜか3月と4月と2回も和歌山に行っている。このときも、たぶん秘仏ご開帳目当て)。前回は、本堂の奥深く並んだ仏像を遠目に拝しながら、あれが秘仏か?!と想像していたのだが、全くの間違い。特別拝観料1,000円を払うと、内陣の奥、須弥壇の背後へと誘導される。本堂の裏に、渡り廊下でつながった別棟の収蔵庫(大光明殿)が建っているのだ。ここには、常時、6体の仏像が安置されているという。ただし、現在、十一面観音立像1体は『西国三十三所』展(奈良~名古屋)にご出張中。うん、先月、奈良でお会いしたばかりだ。また、中央の2体を収めたお厨子は、50年に1度のご開扉が基本で、パンフレットにも写真は掲載されていない。

 今回は、そのお厨子が開き、秘仏本尊・十一面観音と秘龕仏(と呼ぶのだそうだ)・千手観音を、ともに拝することができる。どちらも「クスノキの一木彫り、素地仕上げ」で、紀(木)の国らしい仏像である。ほぼ等身大、十一面観音のほうが造作が大きい。つま先を開き気味に立ち、腰の張りが目立つ。垂らした右腕は膝よりも長く、古様なプロポーションである。彩色はされていないはずだが、両頬の赤らんだ感じが、京劇の隈取りのように見える。若いお坊さんが「がっしりして、ごっつい仏様なので、地元では荒仏様とも呼ばれています」と解説していた。え、秘仏なのに、地元ではそんなによく知られているのか。十一面観音のほうが、小顔で洗練された印象を受ける。どちらも、唐草文様の愛らしい板光背。ちなみに、こちらも本堂のお厨子の中は、十一面観音をあらわす掛け軸のみが掛かっているとのことだ。

 なお、この日から西国三十三所のご朱印集めを新たにスタート。果たして、3年間の結縁ご開帳の間にまわり切れるだろうか。
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