見もの・読みもの日記

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大統領たちの攻防/韓国現代史(木村幹)

2008-10-22 00:03:05 | 読んだもの(書籍)
○木村幹『韓国現代史:大統領たちの栄光と蹉跌』(中公新書) 中央公論新社 2008.8

 議員内閣制の首相と違って、大統領は名実ともにその国の顔である。だから、韓国現代史を学ぶには、歴代の大統領を把握するのが早道らしい。私が韓国史の最初の入り口としたのも、池東旭著『韓国大統領列伝』(中公新書 2002.7)という本だった。

 池東旭の著書が、1人1章の完全な列伝スタイルであるのに対して、本書は、紀年体と列伝体の併用で進む。たとえば、1945年8月15日には、金大中は日系企業の従業員だった。李承晩は亡命政治家としてアメリカにいた。朴正熙は満州国軍人として山岳地帯を行軍していた。大韓民国の建国期(1945~49年)には――という具合に、時代を区切りながら、「のちの大統領」たちが、当時、どこで何をしていたかを語っていく。ひとりひとりの印象はやや薄くなるが、通史を学ぶには、こちらのほうが適していると思う。

 私が興味深く思ったのは、金泳三という人物。金大中とともに韓国民主化を主導しながら、1987年の大統領選挙では、野党の大統領候補の座を金大中と争い、与党・軍人出身の盧泰愚候補に敗れる。ここで金泳三は、与党入りの「政治的ウルトラC」を敢行。その後、囲碁にたとえて「政治九段」と評される(面白いw)政治力で、軍部出身のアマチュア政治家を蹴落とし、ついに次期大統領の座を手に入れてしまう。すごいなあ、これぞ政治家の本懐というものだろう。そして、この盧泰愚→金泳三政権の流れを理解すると、韓国において(80年代の激しい民主化闘争にもかかわらず)体制移行が意外と緩やかなものになり、旧勢力が根強く温存されたわけも分かる。

 ところで、韓国の大統領についていろいろ調べていたら、面白いことを発見してしまった。韓国では1990年代に”実録共和国シリーズ”ともいうべきテレビドラマが放映されているそうだ。朴正熙を主人公にした『第4共和国』は、なかなかの秀作らしい。見たい! 朴正熙については、さまざまな研究・評価がなされていると思うが、「韓国エンターテイメント作品における朴正熙」というのは、かなり論じ甲斐のあるテーマなのではなかろうか。

 さらに、2005年には、全斗煥政権を描く『第5共和国』も放映されているとのこと。日本女性がイケメン俳優中心の韓流ブームに熱狂している間に、こんなドラマが作られていたのか。結局「韓流ブーム」って、選択的に隣国の文化を消費しているだけなんだよなあ。そのことに自覚的なら、何も言わないけど。

■参考:10.26朴正煕大統領射殺事件
http://1026.skr.jp/1026/
労作の個人サイト。来年(2009年)は暗殺から30年目であることに気づく。
コメント
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